「THE FIRST TAKE」が日本人にウケる理由は?1.9億回再生された動画も

◆大人気コンテンツ「THE FIRST TAKE」とは?

『第73回紅白歌合戦』に幾田りらの出演が決まりました。milet、Aimer、Vaundyとのコラボで「おもかげ」を披露します。昨年の12月17日にYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で公開されると、ストリーミングと合わせた総再生回数が1億回を超える大ヒットを記録しました。

 チャンネル登録者数が700万を超える「THE FIRST TAKE」。その名の通り、一発撮りの緊張感が伝わるライブ動画が人気を博しています。最新のアーティストだけでなく、Def Techやnobodyknows+など、ちょっと懐かしいJ-POPもバズらせる影響力を持つ大人気音楽コンテンツです。

 でも“よく知らない”、“見たことがない”という人もいるかもしれません。ここからはその魅力と特徴を紹介したいと思います。

◆白いスタジオに置かれた一本のマイクで「一発撮り」

 まずはアーティストの人柄が伝わる演出です。スタジオには観客もいなければ余計な装飾もない。歓声や拍手、観客の表情からパフォーマンスの良し悪しを読み取ることもできません。

 外部からの情報が一切遮断された状況で気持ちを整えるのは至難の業であるはず。だからこそ、歌い出すまでの仕草やルーティンに個性があらわれるのですね。

「さすらい」を演奏した奥田民生は大きな咳払いをして、ほんの一瞬ギターのウォーミングアップを終えるや、「さぁいきましょう」。

「Boyfriend」を披露したハリー・スタイルズは、すっとやってきてサラッと自己紹介をしてすぐに演奏をする。幾田りら、milet、Aimerは、何も語らずアイコンタクトでほほえみ合うといった具合に。

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 音楽のスタイルだけではない、キャラの違いが如実にあらわれるライブパフォーマンスであること。「THE FIRST TAKE」が他と一線を画している点なのだと思います。

◆「音楽に没入したい」日本人にマッチしている

 そして、この無駄を排するアプローチが日本人の好みに合っている。

 海外のアーティストが日本のオーディエンスについて“盛り上がっているのかどうかわからない”と語ることがあります。それは決して退屈しているのではなく、騒いだり暴れたりするよりも音楽に没入したい日本人特有の心理から生じているのですね。

 アーティストの一挙手一投足も含めて感情移入したい。「THE FIRST TAKE」は、そんな音楽ファンのニーズに応えていると言えるでしょう。

 たとえばアメリカの公共放送NPRの「Tiny Desk Concert」などもアーティストとの近さを売りにしていますが、こちらは手書きのポップやCDラック、本棚などの雑然とした環境で音楽を聞かせています。アットホームな雰囲気がショービズ感を取り除き、おだやかな親密さを与えてくれる。
 
 そこへ行くと「THE FIRST TAKE」はひとつの異世界を作り出しています。マイクに歩み寄った瞬間から密室が生まれる。負けたら終わりのトーナメント戦みたいに向き合う。

◆ライブの迫力を伝えるサウンドと、凝視したくなる映像

 こういうヒリヒリ感は日本人が好むところです。お笑いのM-1グランプリを思い出せばわかるのではないでしょうか。エンタメに厳しさや人生を投影して、そんな見方さえ娯楽として楽しんでしまう。

 一回しか許されないというストイックさを体現するスタジオセットが演奏の物語性を高めているのだと思います。

 ライブの迫力を伝えるサウンドと固唾をのんで凝視したくなる映像。「THE FIRST TAKE」がダイナミックな理由です。
 
 さて紅白のステージでも独特のテンションを再現できるでしょうか? 音楽番組のこれからを占う上でも注目しましょう。

文/石黒隆之【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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