非正規雇用で働く35~54歳の『中年フリーター』。平成が生み出した働き方の一形態だ。労働経済ジャーナリストの小林美希さんが指摘する。
「ここでいうフリーターは、パートやアルバイト、契約社員、派遣社員すべてを含む非正規雇用のこと。2000年を過ぎたぐらいのころの若者が、10数年たって、中年になった。働き盛りなのに、非正規で働く人が非常に多い。ほぼ就職氷河期世代の問題と言っていいと思います」
バブル経済の崩壊や金融危機を背景に、’00 年には大卒就職率が初めて6割を下回り、’03年には約55%と過去最低を更新。2人に1人しか就職できない。そのため正社員としてではなく、派遣やアルバイトとして社会人のスタートを余儀なくされる新卒者が急増した。
雇用リスクは一生つきまとう
「例えばデータ入力だけ、責任もスキルアップもなかったという、非正規で仕事の一部分しかやってこなかった中年フリーターと、正社員としてトータルに学んだ人とを比べると、採用は難しい」
生涯ついて回るリスクを、小林さんがこう明かす。
「派遣社員の場合、3か月とか1か月とか、短い期間の契約を更新し続けることが多い。企業から雇用の調整弁として部品を取り換えるような扱いを受け、すぐに雇用を失う。それでいろいろな職場を転々とすると、やっぱり長続きしないと思われ、安定した雇用が遠ざかってしまうのです」
マイナスのレッテルを一方的に貼られる中年フリーターの数は現在、273万人(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算)といわれている。
非正規雇用が増えるきっかけになったのは、1995年当時の日本経営者団体連盟(現・日本経済団体連合会)が出した、あるレポートだ。
「雇用のポートフォリオを組みましょうというレポートで、一部の正社員は基幹社員として育て、その他大勢は非正規にして、雇用を柔軟にしていくことを提唱したんです。経済界をあげて非正規を増やそうとする機運が高まりました」
中年フリーターの支援は必須
こうした経済界の要請を政治が受け止め、労働者派遣法の改正を重ね、’99 年に対象業務を原則、自由化するなどして後押し。企業は株式市場を重視して短期的な利益に走り人材派遣会社も花盛りになる一方、労働者がやせ細る時代が始まったのである。
「中年フリーターのなかにはダブルワーク、トリプルワークをして過労状態に陥ったり、メンタルを崩したりしていく人がものすごく多い。なかには、月給20万円でいい、それ以上はぜいたくとあきらめている人もいる。
それでも実家暮らしやルームシェア、公営住宅なら、なんとか暮らせます。ただ、やっぱりひとり立ちが難しくなり、結婚どころではなくなってしまう」
時代を追うごとに未婚率は上がり、少子化問題はこじれる。働き手が減り、人手不足が深刻化するだけでなく、市場の縮小をもたらす。
「消費が落ち込み、物価は上がらず、デフレが止まらない。結局、賃金も上がらないという負のスパイラルから抜け出せず、統計不正をしなければカバーできなくなってしまった。
個人が安定してきちんと働けない限り、それが会社の業績につながらず、産業となって経済の基盤になることもありません。非正規雇用を増やしたことで経済を支える足腰を弱めたのは明らかです」
中年フリーターにもやがて老後が訪れる。国民年金だけでは月額6万~7万円程度。最低生活さえおぼつかない。
「『NIRA総合研究開発機構』の試算では、就職氷河期世代が高齢化したとき、生活保護費として20兆円が必要としています。国家が破綻するくらいのインパクトに、ようやく自民党も何とかしなければと気づき始めた。いまなら、まだ間に合うはずです」
どこから手をつければいいのか?
「中年フリーターの支援は、失業対策と思ってやったほうがいい。数年前に経産省が主婦向けに行った、国が日当を出しつつ、労働者がインターンとして働きながら企業とのマッチングを行う方法が有効かと思います。働きたい人が職場体験するトライアル雇用のような方法も期待できる。そのうえで、家のない人には住環境などの支援を、絶望している人には適切なカウンセリングをして折れた心を持ち直していくことも重要です。
また、これだけ非正規雇用が増えてしまったからには、どんな働き方であっても社会保険に入れる仕組みを大改革する。将来、発生するであろう生活保護費の半分でもかけて、社会保障や雇用の安定に投入すれば、財源はかかりますが中・長期的に見たときに効いてくる。そうして中年フリーターひとりひとりの力を強めていくしかありません」