「○○でがんが消えた」「○○でがんになる」──死亡者数は増加の一途をたどり、2人に1人が罹患する「国民病」。無関係の人がいないからこそ、巷には玉石混交の情報があふれている。必要以上に警戒せず、正しく恐れるために最新の“がん対策事情”を知っておこう。【前後編の前編。後編を読む】
【一覧表】がんリスクを上げる「食生活」「生活習慣」を一挙紹介!
日本人の誰もが恐れる「死因第1位」は、いまも昔も「がん」。だが医学は日進月歩で発展し、2月末に国立がん研究センターが日本人のがん遺伝子変異の全体像が明らかになったことを発表。4月末にはファイザーから乳がんと前立腺がんの新薬が発売され、治療の選択肢は日々広がっている。
そして進歩を続けているのは、予防や罹患リスクの研究も同様だ。本誌『女性セブン』は世界中の調査や論文を分析し、「がんになりやすい行動」「がんを遠ざける行動」をリスト化した。
糖質制限より「おやつに黒糖」
とりわけ幅広い調査結果が明らかになっているのは、食べ物に関する研究だ。鹿児島大学などの発表によると、黒糖の摂取が多い人は少ない人と比べてがんの罹患リスクが約40%低かった。部位別では乳がんが約50%、肺がんが約60%、胃がんでは約70%も減っている。帝京大学福岡医療技術学部教授でがん専門医の佐藤典宏さんが話す。
「おそらく、黒糖に含まれるポリフェノールなどの抗酸化作用ががんを抑制することに役立っている可能性がある。抗酸化作用とは、がんなどの原因となる『活性酸素』を除去することをいいます」
同じく豊富なポリフェノールで知られるチョコレートも、フィンランドの研究で死亡リスクが下がることが示唆された。だが、がん予防効果には諸説あると、米ボストン在住の内科医・大西睦子さんが言う。
「チョコレートのポリフェノール『フラバノール』にも抗酸化作用があるとされますが、これががん抑制には効果がないとする報告や、逆にがんリスクを高めるという報告もあり、議論が続いています。いずれにせよ、チョコレートには脂質や糖分も多いので、食べるならカカオ70%以上で砂糖の少ないダークチョコレートを少量にしましょう」
糖分の摂取を抑えたいからといって「ゼロカロリー」などとうたった人工甘味料は避けるべきだ。2022年、フランスの研究チームが10万人以上を対象にのべ10年をかけて行った大規模調査では「アスパルテーム」や「アセスルファムK」など一部の人工甘味料の摂取量が多いとがんリスクが高まるとされている。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが説明する。
「腸内に食べ物が入ってくると、本来なら腸内細菌がそれらをえさに短鎖脂肪酸をつくることで代謝され、脂肪の燃焼やエネルギーの産生が行われます。ところが人工甘味料は腸内細菌のえさにならないため、代謝が落ちて腸内環境が乱れる。腸内には免疫細胞の7〜8割が存在しており、腸内環境が乱れることで免疫力が落ち、がんリスクが上がると考えられる」
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人工甘味料に限らず、甘いものががんリスクを上げるということは専門家の間では定説となっている。
「最大の理由は肥満を招くこと。甘いものを食べて血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌され、その状態が続くと体内で慢性炎症が起き、これががんを進行させる。糖質や甘いものを過剰摂取しがちな肥満の人は、体内で炎症が起き続けていることが多いのです。さらに体が重く動くのがおっくうになると、代謝と免疫力が落ちる。肥満の人は、がんになりやすい要素を複数持っているのです」(佐藤さん)
近年危険視されているのはドーナツやケーキ、クッキーといった「超加工食品」だ。工業的につくられた、精製された小麦などのほか糖分、塩分、脂肪のほか食品添加物を多く含む、常温で日持ちのする食品群をいう。特に原材料表示に着色料や保存料、膨張剤、ショートニングなど添加物が多いものは避けたい。秋津医院院長の秋津壽男さんが言う。
「がんは体内の炎症や傷を修復する過程での“エラー”から生じます。そのため、がん予防には体に傷や炎症をつくらないことが重要。糖分や食品添加物のほか、強い塩分や酸味、香辛料、アルコール、極端な熱さなど刺激の強い食品もリスクになる。実際、熱い茶粥を食べる習慣のある奈良県の一部の地域では食道がんになる人が多いというデータも報告されています」
また、エネルギー源となる炭水化物の選び方によっても、がんリスクは左右される。昨年、イギリス人を対象に行われた研究では、精製された小麦粉を使った白いパンを高頻度で食べている人は大腸がんリスクが上昇すると結論づけられた。
「精製された炭水化物には食物繊維が少なく、肥満や動脈硬化につながるほか、体内の炎症を引き起こしてがんの発症を招く可能性があります」(室井さん)
(後編へ続く)
※女性セブン2024年5月23日号