10月2日の記者会見で、新社名と組織体制が明らかになるジャニーズ事務所。SNSやネット上では新しい社名を予想すると共に、グループ名やコンサート、イベントの名称から「ジャニーズ」や「J」といった言葉がなくなってしまうのかどうか関心が集まった。 【写真を見る】ジャニー喜多川氏が逝去した際の報道は
各マスコミにいる「ジャニ担」こと、ジャニーズ事務所担当記者たちもそれは同じだ。今回の騒動では、一連の性加害を黙認、助長した一因として、マスコミの責任も指摘されており、わけても最前線で取材にあたっていた「ジャニ担」たちへも厳しい視線が向けられている。一口に「ジャニ担」といっても、どんな記者がどのような仕事をしているのか、どんなうま味や、逆に辛いことがあるのだろうか。 マスコミ各社にはジャニーズの窓口となる記者や編集者、スタッフがいるが、一般に「ジャニ担」と呼ばれる専従の担当記者がいるのは日刊スポーツ、スポーツニッポン、サンケイスポーツ、報知新聞、東京中日スポーツ、デイリースポーツの、スポーツ6紙である。 「この他に、テレビの情報番組などでジャニーズ取材の現場に頻繁に顔を出すレポーターや、女性週刊誌の記者もいます。それらを合計した総勢10名前後を“ジャニ担”と呼ぶこともあります。ただ、ジャニー喜多川氏とメリー氏は、ジャニーズタレントのニュースがスポーツ紙に大きく載ることを重んじてきた伝統がありました。なので、やはりジャニ担といったら、スポーツ紙記者の存在が際立っていると思います」(ベテランスポーツ紙記者) ツアー初日など 、ジャニーズタレントが話題となるコンサートを開催した翌日、その様子を報じる6紙全ての紙面(カラーで1面や最終面、芸能面見開きなど、扱いは大きい)を購入、大切に保管しているファンは多い。スポーツ紙の果たす役割は大きいことが分かる。 各社とも、ジャニ担に選ばれるのは、ある程度の取材経験を積んだ、実力派の記者ばかりだというが、それには理由があるのだという。 「ジャニーズは所属タレントも多く、イベント告知や各タレントに関するドラマやCMなどの情報解禁事案が頻繁にあります。その一方、週刊誌でスキャンダルが報じられることも。それ以外にも結婚や退社、解散など、定期的に巨大な発表モノがあります。こうした多様な事態に機敏かつ的確に対応できる能力が求められるため、ジャニ担記者にはフットワークの軽さと、コミュニケーション能力の高さが同時に要求されるのです」(元ジャニ担記者) とはいえ、なかなかこうした条件を満たす記者は少なく、担当者が頻繁 に交代していると成り立たないこともあり、社によっては一度、ジャニ担を務めると数年以上、担当することもあるという。
広報担当者のメディア対応力
担当になってまず行うことは、広報を取り仕切っていた白波瀬傑・前代表取締役副社長への挨拶である。 取材は映画やドラマ、舞台の制作発表や記者会見、取材会など多岐にわたるが、こうした現場に高確率で立ち会うのが白波瀬氏である。晩年のジャニー氏やメリー氏は現場まで来て直接、記者に何かを話すという機会は少なく、ここ数年は重要な確認事項も全て白波瀬氏が一括していた。 「通常の現場以外でも、交際発覚や女性スキャンダル、退所情報などを週刊誌が報じると、その都度、白波瀬氏に確認することになります。そうするうちに、ジャニ担は現場で週に何度も白波瀬氏に会い、電話もほぼ毎日のようにすることになる。こうして関係が深くなっていくのです」(前出・ベテラン記者) ジャニーズが力を入れている案件(ジャニー案件、メリー案件、ジュリー案件など)がある場合、白波瀬氏は事前に「明日の記事は頼むよ」とか「明日の記事は、ひとつお願いしますよ」と遠回しな表現を使ったり、「明日の(嵐の)二宮君、ラージラージ(大きく、の意)でお願いしますよ」と、独特の“囁き”をしてきたりする。また、特段、力を入れなくてもいい案件の場合は「まぁそれは、そこそこでいいんじゃない?」と、“温度感”を伝える。 「メディアとジャニーズの付き合いは9割がた、白波瀬氏との付き合いによってフィルタリングされていました。案件ごとに白波瀬氏が伝えてくる独特のメッセージを解釈して、当該案件の記事の扱いを決めるのです。白波瀬氏は最高幹部にして、徹底してジャニー氏やメリー氏の意向を最大限に反映する仕事をこなした職人であり、伝達師でもありました。白波瀬氏が凄いのは、発表モノとスキャンダル、いわば平時と有事の対応を同時にこなし、ほぼすべての現場に立ち合います。ジャニ担以外のマスコミ各社に加え、敵対するメディアにも何らかのパイプを作って有事の際は交渉の余地を残していました。また多くの所属タレントのスケジュールを完璧に把握するという、超人的な仕事をこなした人だったことです」(スポーツ紙デスク) 「表も裏も、全て知っている人物」とも言われる白波瀬氏だが、9月7日のジャニーズ事務所による会見で「なぜ、この場に白波瀬氏がいないのか?」「会見に出席させるべきではないか」との厳しい質問が出たのは、こうした経緯によるものだ。さて、こうした同氏の「要請」を、ジャニ担記者はどう捉えていたのだろうか。 「プロデューサーとしてクリエイト業務に注力していたジャニー氏ですが、メディアに対し政治的なプッシュを求めていたのはメリー氏だったと思います。メリー氏の機嫌を損ねたら、テレビではタレントを撤収されたり、新聞であれば取材させてもらえなくなったりする恐れがあります。メリー氏の意向を受けた白波瀬氏の要請に従うことは、忖度と言われれば確かにそうです。しかし、ジャニーズタレントには圧倒的な数のファンがおり、タレントを取り上げることで視聴率や、新聞なら売り上げに響きます」(前出・デスク) 特に重要な作品の取材会では「スポーツ紙のジャニ担だけの囲み取材」がよく行われた。そこではジャニ担だけが主演タレントの生の声や、時にはジャニー氏も取材に応じることから、貴重なその肉声を報じることができた。こうした取材対応も、両者の関係性を密にしていくことになったという。
ジャニー氏が取材で見せた顔
ジャニー氏は、担当記者を大切にしていた。晩年は記者と接する機会は減ったが、取材会などで担当記者に囲まれると、出演タレントの面白いエピソードを冗談交じりに明かしたり、プロデュース作品への思いを語ったりした。 「帝国劇場で舞台がある時は、劇場内の貴賓室で記者を招いて取材会をしました。寿司と酒が振る舞われたことがあります。ジャニーさんは酒は飲まなかったです。僕らも舞台が終わった後、原稿を書かないといけないので、酒はあまり飲まず、寿司をつまみながらジャニーさんの話を聞きました。ジャニーさんはゆっくり喋り、語尾が伸びるのが特徴で、とにかく私たちに食べるように勧めてくれます。若い人が目の前で食べるのを見るのが好きなんでしょうね。同席した白波瀬さんは、何も食べずにビールをグイグイ飲んでいましたけど。亡くなる数年前ですが、別の劇場での舞台の時は、ステーキを御馳走になりました。自力歩行も大変そうでしたが、この時もずっと所属タレントのことを話していましたね」(前出・元ジャニ担記者) 別の取材会では、集まった記者に高級家電のドライヤーがプレゼントされたことがあった。また、記者の誕生日に、ジャニーズ事務所からプレゼントが贈られることも。ただ、こうした贈答品より、有難いものがあるという。 「枚数に制限がありますが、早めに頼んでおけば、ジャニーズタレントのコンサートチケットをとってもらうことができることですかね。あとはトップタレントに直に接することができる。おいしい思いができると言ったらそれくらいでしょうか。抜いた抜かれたもあるし、とにかく忙しく、休日返上もしょっちゅう。 白波瀬氏のもとで一緒に仕事をしていた社員が、既に新しい広報担当として始動しています。今後、何人かタレントの移籍があるかもしれませんが、それでも多くのファンを抱える人気タレントが多数在籍している事実がある以上、これまで通り、専従の担当者を置いて対応していくことになると思います」(同) 新社名、新体制、補償問題、スポンサー対策……とにかく要注目の事務所であることは変わらない。広報体制も含めどう変わっていくか。記者たちも固唾を飲んで見守っている。
デイリー新潮編集部