【マンション業界の秘密】市場激変! 異常な戸建て人気 広い所有面積と低い保有コスト

昨年4月に出された緊急事態宣言は、その後の首都圏住宅市場における異様なまでの戸建て人気につながった。狭い自宅ではテレワークができない人々が、争うように戸建て住宅を購入したのだ。

 高額な住宅ローンを支払う余裕のある人は都心やその近郊の新築を、予算の限られた人は郊外の安価な中古戸建てに手を伸ばした。

 その流れは、今年に入っても続いている。もしかしたら、今後も続く住宅選びのトレンドを形成する可能性さえある。

 コロナ後も、あるレベル以上の企業ではテレワークが定着するはずだ。例えば現在、広告代理店の某企業は、本社の社員出社率が2割前後だという。であるから、自社ビルを売却したところで業務に大きく影響しないと考えたのだろう。

 こういった動きはコロナ後も確実に定着しそうである。われわれはもう以前の意識には戻れないのだ。

 さらに言えば、新型コロナ以外の感染症が、いつまたやってくるかもわからない。テレワークを勤務体制の基本にしている企業は、さほど大きな負担なく日常業務を続けることができる。

 大きな地震などがあって公共交通機関が動かなくなった時でも、通信環境さえ確保できていればテレワーク企業の業務には大きな支障が出ない。

 そのことに気づいた企業は、急速に新体制への移行を図っている。コロナ以前の旧体制に戻ることを前提とする企業やビジネスマンは、すでに時代から取り残されつつあるのだ。

 となると、自宅はいつでもテレワークが可能な状態であることが望ましい。まず、専用の個室の確保である。夫婦ともに在宅勤務をするなら、2室は必要である。都心やその近辺のマンションで、その環境を整えるためにはかなりの費用が必要である。一部の高所得者でないと無理だろう。

 2013年以降、東京の都心や湾岸、城南、川崎市や京都市の一部では急激にマンション価格が上昇した。局地バブルが発生したのだ。

 しかし、戸建て価格はさほど上がっていない。その理由は、新築マンションの価格は値上がり狙いの投機的な購入が発生するが、戸建ては、ほぼ100%「住むため」の人しか買わない。バブルが起こりにくく、だから、あまり値上がりしなかった。

 今、その戸建て住宅に対して、実際に「住むため」の需要が大きく膨らんできている。多くの人がそのメリットに気付き始めた。

 木造住宅であるので、資産価値は年々着実に下落する。しかし土地の所有面積はタワーマンションなどと比べて圧倒的に広い。管理費や修繕積立金、駐車場使用料が発生しないので、保有コストはかなり低い。面倒な管理組合の運営にかかわる必要もない。そういうメリットに気付いた人が、戸建ての購入に動いている。

 ■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。

タイトルとURLをコピーしました