【割り箸】なぜ“割る”必要が? 江戸時代の鰻屋が「合理性と清潔感」を追求した結果、と研究家

飲食店や出前、コンビニ弁当などに欠かせない割り箸。誰もが知っている「食事のための道具」ですが、美しく左右対称に割ろうとすると、これが結構むずかしい。ナナメに割れて長さがまちまちになったり、ささくれた部分が指に刺さったりして、思わずイラっとした経験……ありますよね? 【写真】「了解→りょ」はもう古い いまどきの10代は「了解」をこう表現するらしいです  そもそもなぜ、割り箸はくっついたまま提供され、わざわざ割る必要があるのでしょうか。疑問を解消するべく、割り箸の歴史について「江戸料理・文化研究家」の車浮代さんに聞きました。  車さんによると、割り箸が誕生したのは江戸時代後期とのこと。諸説ありますが、割り箸を発明したのは鰻屋だったそうです。 「“う”のつく物を食べると夏バテしない」というふれこみを利用して、本来冬が旬である鰻を夏にも売るため、江戸時代の蘭学者・平賀源内が『本日土用丑の日』と書いた貼り紙をしたところ鰻屋は大繁盛した、という話は今でも有名ですよね。実はそこにヒントがありました。 「鰻屋には客が殺到し、箸を洗うのが追いつかなかったため、考案されたのが『引裂箸(ひきさきばし』と呼ばれる竹製の箸でした。この箸は二本の箸の根元がくっついており、その理由は“使い回し”をふせぐため。洗わなくてもいいかわりに“使いまわし”の発生を心配した店側は、一目で未使用・清潔であるということを客にわかってもらえるよう、このような形状を考え出したのです。客の信頼感を得るための知恵だったとも考えられます」(車さん) つまり、この引裂箸こそが割り箸の原型である可能性があり、箸同士がくっついているのは、「未使用を知らせる印」だったのです。  他にも、割り箸を発明したのは「蕎麦屋」だったという説があるそうです。鰻屋と同様に、江戸時代には蕎麦の屋台が繁盛しており、客の回転率を上げるために蕎麦屋で割り箸が考案された……というものです。  この説に対し、車さんは「鰻屋」説派。推す理由としては「蕎麦であれば、箸はそこまで汚れることなく、洗うことも手間にはならないと考えられます。鰻の場合は脂とタレでベタベタに汚れるため、洗うのに手間がかかりますよね? そういう観点では、割り箸がより必要とされるのは鰻屋だったのではないでしょうか」と語ります。  最近では使い捨てることが「もったいない」という精神から、プラスチック製の箸を採用したり「マイ箸」を推奨する飲食店も増えてきました。しかし、割り箸は製材した際に出る端材や間伐材などを利用しており、燃やしても再生可能な木材であるため、むしろエコなのだとか。  割るのに失敗してモヤモヤしないよう“正しい割り方”を車さんに教えてもらいました。「割り箸は胸の前や膝の上で持ち、箸先を左側にして上下を引っ張るように割ってみてください。そうすることで、隣に座る人に手が当たることもなく、きれいに左右対称に割ることができます」(車さん)  また“正しい置き方”についても聞きました。「箸を置く時は、口をつける箸先が箸置きから約3cm出るようにして置きます。やってしまいがちなマナー違反が、箸を皿や茶わんなどの食器に横たえて置く“渡し箸”です。器に箸をおく場合は、箸先を器のふちにそっと掛けるように。箸置きが無い場合は、箸袋を折って代用しても大丈夫ですよ」(車さん)  「脱プラ」で見直されつつも、まだまだ割り箸のお世話になる機会はあると思います。今後割り箸を使う際は、割り方も意識してみては? (取材・文=宮田智也 / 放送作家)

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