【加谷 珪一】レギュラー146円超え…「ガソリン価格」がここへきて高騰している「本当の理由」

ガソリン価格の上昇が止まらない。背景にはポストコロナを見据えた景気回復期待と、それを見越した産油国の価格戦略(減産)という供給要因がある。一方、ポストコロナ社会は脱炭素社会でもあり、全世界的に石油の需要が大幅に減ると予想されている。石油業界は需要が減る中、利益を維持するためには価格を上げざるを得ない。

脱炭素時代は石油が余っているにもかかわらず、ガソリン価格が高く推移するという皮肉な事態となる可能性もある。

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需供の両面で価格が上がりやすい状況

資源エネルギー庁が発表した、3月8日時点におけるレギュラーガソリンの全国小売り平均価格(1リットルあたり)は146円10銭と15週連続の値上がりとなった。2月1日時点では139円30銭だったので、約1カ月で4.9%も値上がりしている。価格上昇の直接的な要因は石油元売り各社が卸値を引き上げたことだが、その背景には国際的な原油市場の動きがある。

原油に限らず、市場価格は需要と供給のバランスで決まるが、昨年はコロナ危機による景気低迷で世界の石油消費が激減し、原油価格は大幅に下落した。今年に入って先進諸外国においてワクチン接種のメドが立ち始めたことから、景気回復期待が高まっており、それに伴って原油需要も増大している。

需要が大きく減った後に、需要が元に戻ったという話なので、価格に大きな変化は生じないように思えるが、そうではない。こうした局面では生産事業者は、昨年失った利益を取り戻そうと考えるため、逆に供給をタイトにして価格の上昇を促すことが多い。元売り事業者は多少、仕入価格が上がっても数量確保を優先するので、ある程度までの価格上昇なら、値上げが許容されることになる。

原油には先物市場があり、そこには投機筋も参加している。実需面での変化を先取りして投資家が動くので、場合によっては価格上昇にさらに弾みが付くこともある。年初に1バレル=52ドル前後だった米WTI原油先物価格は65ドルを超えており、価格が大きく下がる兆候は見えない。

石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」は協調減産を決めるなど、原油価格を下支えする意思を明確にしている。市場関係者からは1バレル=70ドルあたりまで価格が上がるのではないかと予想する声も聞かれるくらいだ。

コロナ後の景気回復期待は、当分継続する可能性が高く、米国や欧州は景気対策として前代未聞の財政出動を計画しているので、景気が過熱するリスクもある。原油価格を大きく下げる要因が見当たらず、高値が継続しやすい状況にある。

中長期で考えると…

これはコロナ後を見据えた短期的な需給関係だが、中長期的には需給バランスを大きく崩す別の力学が働きつつある。それは言うまでもなく全世界的な脱炭素シフトである。

これまで脱炭素シフトは、欧州だけが積極的に取り組む課題だったが、脱炭素関連のイノベーションが急激に発達してきたことから、米国や中国までもが本格的な脱炭素シフトに舵を切ることになった。世界の主要経済圏がすべて脱炭素に向けて動き出しており、今後、石油需要の大幅な減少が見込まれている。

今後、石油は売れなくなるので、普通に考えれば需給バランスから価格は下落するように思われる。だが現実の石油価格は単純な下落にはならない可能性が高い。なぜなら縮小市場とはいえ、石油事業者はビジネスを行っているので、利益を上げなければ事業を継続できないからである。

長期的に見れば、石油の需要が減少するのはほぼ確実なので、全世界的に石油が余剰となり、それに伴って価格は下がることになる。だが一方で、今すぐに石油需要が消滅するわけではなく、むしろ足元では景気拡大期待から、需要増という状況になっている。

当然のことだが、中長期的に需要の大幅減少が確実視される状況においては、短期的に需要が拡大しても生産事業者は油田の新規開発は行わない。事業規模が拡大しなければ規模のメリットを追求できないので、単位あたりのコストは上昇することになる。生産事業者は生産プラントの縮小や減産を進めると同時に、価格を高めに誘導することになるだろう。脱炭素が進むにつれて、逆に石油価格が上昇することも十分に考えられるのだ。

ガソリン価格について言えば国内の事情も関係してくる。

国内のガソリンスタンド数は、人口減少や自動車販売の伸び悩みによって減少傾向が顕著となっている。2010年時点で国内には約3万9000カ所のガソリンスタンドがあったが、2020年には約3万カ所まで減少しており、10年で23%もの減少ペースである。これまでは人口減少時代といっても、人口総数はそれほど変わらず、高齢化によって若年層人口が減るだけだった。だが2020年代からはいよいよ人口の絶対数が急激に減り始めるので、地域の過疎化が急激に進む。

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ガソリンスタンドは急ピッチで消滅

ただでさえ、ガソリンスタンドにとって厳しい市場環境であるにもかかわらず、ここに脱炭素シフトが加わる。諸外国とは異なり、日本の自動車メーカーはピュアEVに集中するのではなく、ピュアEVとハイブリッド(HV)を両立させるという全方位戦略を採用している。この戦略の是非については多くの議論があり、筆者はいずれ戦略の見直しを余儀なくされると予想しているが、仮に国内でHVが主流になったとしても、ガソリンの重要はざっと半分以下である。

人口減少でガソリンスタンドが減る中で、需要が半分になってしまえば、よほど高い収益を上げているガソリンスタンド以外は経営を維持できなくなるだろう。結果として、国内からは凄まじい勢いでガソリンスタンドが姿を消していく可能性が高い。

こうした中で元売り各社とガソリンスタンドが適正な利益を維持するためには、やはり価格を引き上げるしかない。近い将来、ガソリンを入れるクルマに乗っている人は、ガソリンを補給するため遠い場所まで行き、高い価格を支払うことになる可能性が十分にある。

ちなみにEVの場合、自宅で充電ができるので戸建て住宅に住んでいる人は、EV化でむしろ利便性が高まる。現時点で充電設備が整っている集合住宅は少ないが、200Vのコンセントを設置するだけでよいので、それほど大きなコストはかからない。政府が本気で補助すれば、あっという間に充電設備は普及するだろう。

石油元売り大手の出光興産は、EVシフトに対応するため、タジマモーターの関連会社であるタジマEVに出資し、超小型EVを販売すると発表している。同社がEV事業に乗り出す最大の理由は、やはりガソリンスタンドの維持だろう。

同社はEVを販売するだけでなく、車載ソーラーシステムや、カーシェア、バッテリーのリサイクルなど、既存のガソリンスタンドを使った幅広い事業展開を計画している。ガソリンスタンドをEV社会のインフラに転用することで、何とか事業の維持を図る戦略だ。

いずれにせよ、今後、ガソリン価格には複数の上昇圧力が加わるので、価格が下がりにくい状況が続く。景気回復期待が剥落し、不況に陥るといった状況にもならない限り、ガソリン価格は高めに推移する可能性が高い。

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