中古マンションが「主役」に
マンションといえば新築――。
そんな新築至上主義が長く続いてきたが、ここへきて潮目が変わりつつある。全国のマンション市場のほぼ半分を占める首都圏において、新築と中古の力関係が明らかに変化、首都圏では中古マンションがマンション市場の主役に躍りだしているのだ。
2016年、首都圏では中古マンションの年間成約件数が、新築マンションの発売戸数を上回り、「中古が新築を逆転」と話題になったが、その後は図表1にあるように、2017年、2018年と両者はほぼ拮抗した状態が続いてきた。
それが、2019年には新築マンションの発売戸数が大幅に減少し、一方、中古マンションの成約件数は着実に増加、両者の間には7000件近い差がついた。
しかも、不動産経済研究所の予測によると、2020年の新築マンション発売戸数は3万2000戸にとどまるとみられる。
図表1 首都圏新築マンション発売戸数と中古マンション成約件数の推移
(資料:新築マンションは不動産経済研究所調べ、中古マンションは東日本不動産流通機構調べ)
それに対して、中古マンションの成約件数はこのところ着実に増加しており、2020年にはいよいよ年間4万件が視野に入ってくるのではないかとみられる。
新築と中古の差が開くことはあっても、縮まる可能性は極めて小さい。中古が新築を凌駕、首都圏のマンション市場の主役は中古マンションになったといっていいだろう。
中古は新築の6割以下の価格
いよいよ中古マンションが主役の座を不動のものにしそうな情勢だが、なぜ、こんなに差がついたのか。
最大の要因が、新築に比べての中古マンションの価格の安さにあるのはいうまでもないだろう。
図表2をご覧いただきたい。
図表2 首都圏新築マンションと中古マンションの価格の推移(単位:万円)
(資料:新築マンションは不動産経済研究所調べ、中古マンションは東日本不動産流通機構調べ)
これは、過去10年の首都圏の新築マンションと中古マンションの価格の推移を示している。19年の価格は、新築が5980万円に対して、中古は3442万円。中古なら新築の57.6%、6割以下の値段で手に入れることができる計算だ。
新築価格の上昇に伴って中古の価格も上がっているものの、両者の差は常に一定のレベルで保たれている。10年前の2009年をみると、新築が4535万円で、中古は2491万円。中古は新築の54.9%だった。中古なら新築の50%台半ばから後半の水準で手に入る点に変化はない。
新築は「高嶺の花」になった
新築のハードルが上がり、いかに狭き門になっているのかを試算してみると――。
2019年の価格5980万円全額を1.0%の金利、35年返済で買うとすれば、毎月の返済額は16万8806円。年収に占める年間の返済額の割合を示す返済負担率を、より安全な範囲といわれる25%に抑えるとすれば、必要な年収は811万円に達する。これでは、平均的な会社員ではとても手が届かない、文字通り高嶺の花になってしまったのだ。
一方、中古マンションはといえば、3442万円なので、やはり金利1%、35年返済で買うとすれば、毎月返済額は9万7162円。新築同様に返済負担率25%までに抑えるとすれば、必要な年収は467万円になる。これなら、平均的な会社員でも十分に手が届く。
価格の高騰で新築マンションを諦めた層が、中古マンション取得に流れ、それが新築と中古の逆転につながっているという見方も成り立ちそうだ。
中古の性能が高まっている
しかし、いくら価格が安くても、それなりの性能が確保されていないと、買い手は増えない。新築ほどではないといいながらも、価格も上がっているなかでそれなりに売れている背景には、中古マンションの性能も年々高まっていることが挙げられる。
やはり東日本不動産流通機構の別の調査によると、図表3にあるように、2018年に成約した物件のうち、「築0~5年」から「築16~20年」までの築20年以下の合計が56.8%と、半数を超えている。
築20年以内ということは、2000年前後以降に竣工した物件ということになるが、2000年は住宅業界にとって、エポックメーキングな年だった。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)」が施行され、すべての新築住宅に関して、10年間の性能保証が義務付けられた。
あわせて、住宅の性能を第三者の専門機関が評価する住宅性能表示制度も実施された。性能表示制度は義務ではなく任意の制度だが、当初から大手の分譲会社が他社との差別化を図るために積極採用、マンションの基本性能が押し上げられたといわれる。
図表3 首都圏中古マンションの築年数帯別構成比の推移
(資料:東日本不動産流通機構調べ)
リフォームで「新築並み」にできる
建築後の経過年数が20年以内の基本性能の高い物件が中心になっている上、リフォーム技術が進歩、ある程度の費用をかければ、新築並みの性能を確保できるようになっているのも大きい。
そのため、中古マンションをリノベーションマンションではなく、居抜きで買う場合には、一定のリフォーム費用を合わせて必要な予算を検討しないと、購入価格だけで比較すると判断を誤りかねない。
そこで、リフォームに必要な金額を、築10年以内は100万円とし、11年以上20年を500万円、21年以上30年を1000万円として、築31年以上を1500万円とした場合、それぞれの築年数帯別の成約価格に加えた総負担額を計算すると図表4のようになる。
やはり、多少リフォーム費用がかかっても、そもそもの価格が安い築年数の長い物件が有利であることが分かる。
図表4 首都圏中古マンションの築年数帯別成約価格
*成約価格は東日本レインズ調査 *耐用年数は一応の目安として60年とする
高価格の築浅物件もコスパ良い
しかし、その物件にあと何年安心して住めるのかの目安として耐用年数を60年として、残りの耐用年数を割り出し、その残り耐用年数1年当たりの単価がどうなるかを算出すると、「~築30年」が82.5万円と最も有利になるものの、リフォーム費用負担の少ない築10年以下も比較的お買い得であることが分かる。この点は注目に値する。
先にみたように中古マンション市場の成約物件の築年数帯をみると、築20年までが多くを占め、建築後の経過年数が長くなると売りにくくなると推測される。
したがって、現時点で築20年以上が経過している物件だと、10年、20年住んでから売却するとなれば、かなりリセールバリューが低下することを覚悟しておいたほうがいいだろう。
その点からすれば、リフォーム費用がさほどかからない築浅物件だと、将来の売却時にも一定のリセールバリューを確保することができる可能性が高い。将来の買換え予定を含めた今後の生活設計などに合わせて考慮しておくべき点といえるだろう。
新築にはない自分だけのマンション
中古マンションに関しては、この価格面での優位性のほかに選択肢が豊富であることも大きなメリットだ。
たとえば、立地・環境に関しては、中古なら自分たちの好きな場所に、自分たちに合った物件を見つけ、リフォームによって自分たちだけのマンションにできるのだ。これは、新築ではなかなか実現できないことだろう。
新築マンションにこだわっていると、希望のエリアには年間1、2棟しか出てこないことがある。しかも、人気エリアだと、出てきてもすぐに客がついて、なかなか希望の住まいを手に入れられないことが多い。
それに対して、中古なら物件数が豊富で、選択肢が多い。図表5にあるように、首都圏における新築マンションの年間発売戸数は3万戸台であるのに対して、中古マンションの年間新規登録件数は20万件を超えている。
なかには、同じ物件が再度登録されることもあるので、実際にはこれより少ないかもしれないが、中古マンションなら多数の候補のなかから、自分たちに合った物件を選択できる可能性が高まるはずだ。
図表5 首都圏の新築マンション発売戸数と中古マンション登録件数の推移
(資料:新築は不動産経済研究所、中古は東日本不動産流通機構調べ)
中古のメリット
立地面でみると、新築マンションは駅前の再開発物件でない限り、最寄り駅からの徒歩時間はどんどん長くなっている。といっても、駅前の再開発物件となると、超高層マンションなどで価格は格段に高くなって、簡単には手が出せない。
それに対して、中古マンションなら10年前、20年前に分譲された駅近の物件を見つけることができるかもしれない。反対に、子育て世帯なら緑が豊富で比較的閑静な場所に希望の物件が見つかったりする。
最後にいまひとつ、中古マンションなら実物を目にできるのも大きなメリットだろう。
新築マンションでも、最近は完成後も販売している物件が増えているが、それでも基本は竣工前の“青田売り”になる。つまり、モデルルームを見ることはできても、実物の住戸を目にすることはできない。
それに対して中古マンションは実際に、自分が住むかもしれないマンションを見て、デザインや管理状況をチェックした上で、住戸内にも入れるのだから、安心感が高まる。
以上みてきたような中古マンションのメリットを考慮すれば、ますます中古マンションへの注目度が高まり、新築マンションに代わる主役の座を定着させていくことになるだろう。
これからのマンション選びでは、有力な選択肢として中古マンションをはずせなくなりそうだ。