マンション価格が高くなりすぎていることに加え、コロナ禍もあって、一戸建ての人気が高まっている。
その背景にはさまざまな要因が絡み合っており、購入検討先をマンションから一戸建てに切り替える人もいるほどで、この流れが当面は続くことになりそうだ。
いま、なぜ、一戸建てなのか――。
首都圏マンション発売戸数は2万戸割れ
新築マンション発売戸数減少の流れがやまない。いや、コロナ禍でむしろ加速しつつある。
図表1は、不動産経済研究所調べによる全国の新築マンション発売戸数の推移を示している。全国的には13年の約10.5万戸をピークに、19年には約7.1万戸まで減少している。
首都圏をみると、13年の約5.6万戸をピークに19年は約3.1万戸まで減っている。しかも、20年は9月までの累計で9065戸にとどまっており、例年12月には新規発売が大幅に増えるといっても、年間2万戸割れは避けられない情勢だ。
近畿圏は首都圏ほどの激減ではないものの、やはり13年の約2.5万戸から19年は約1.8万戸まで減っている。
図表1 新築マンション発売戸数の推移(単位:戸)
(資料:不動産経済研究所『全国マンション市場動向』)
新設住宅着工戸数でも「一戸建て」
これは、新設住宅着工戸数にも表れている。
国土交通省の『建築着工統計調査』から、分譲住宅の戸数をマンションと一戸建て(建売住宅)に分けてみると、図表2のようになる。
マンションは11年、12年と着工戸数が増加して、先の図表1にあるように13年の新規発売戸数のピークにつながった。
図表2 分譲住宅のマンションと一戸建ての戸数推移(単位:戸)
(資料:国土交通省『建築着工統計調査』)
しかし、14年以降はマンションの着工戸数ペースが大幅に減速、一戸建てとの間には大きな水を開けられている。
新築住宅といえばマンションという時代から、一戸建てへ流れが大きく変わろうとしているのではないだろうか。
コロナ禍で一戸建てに変更する人も増加
なぜ一戸建てが注目されるようになっているのか?
直近では新型コロナウイルス感染症の拡大が、消費者の住宅への考え方に大きな変化をもたらしている点が影響しているとみられる。
リクルート住まいカンパニーが新型コロナウイルス感染症の影響が広がった20年5月に行った、『新型コロナ禍を受けた住宅購入・検討者調査(首都圏)』によると、コロナ禍のテレワーク増加によって、住宅の検討種別が変わったとする人がいて、そのうち50%が「当初はマンションを検討していたが一戸建て検討に変わった」としており、「当初は一戸建てを検討していたがマンション検討に変わった」の31%を大きく上回っている。
さらに、マンション購入希望者向けの「ネットサーフィン」を運営するスタイルアクトが20年10月に行った調査でも、図表3にあるように、「戸建ての購入意欲」が「増した」「やや増した」とする割合は合計45.0%に達している。
マンションの購入意欲が増した割合の合計は26.3%だから、コロナ禍で一戸建てへの関心が急速に高まっていることは間違いない。
図表3 コロナ禍によるマンション、一戸建て購入意欲の変化
(資料:スタイルアクト『第51回マンション購入に対する意識調査』)
マンションよりコロナへの対応をとりやすい
この変化は、コロナ禍ではマンションより一戸建てのほうが快適で、安全・安心と考える人が多いために起こっている現象ではないだろうか。
後に触れるように、床面積はマンションより一戸建てのほうが広いのがふつうで、在宅ワークのスペースを確保しやすいし、マンションに比べて外部の人との接触機会が少なく、換気しやすく、万一の場合にも家族のソーシャルディスタンスをとりやすいなどのメリットがある。
しかし、一戸建てはどうしても都心から遠くなる、最寄り駅からの徒歩時間が長くなるなどのデメリットがあるが、それも在宅勤務が前提になれば、さほど気にせずにすむ。
通勤頻度が少なくなれば、多少通勤時間が長くなっても苦にならないし、それよりは郊外の空気のきれいなところのほうが安心。あるいは、思い切って地方に移住して、広めの一戸建てを確保するといった考え方をとる人も増えている。
マンションより2000万円以上安い物件も…
コロナ禍で一戸建てへの関心を高める流れになっているわけだが、そのベースには、一戸建てがもっているさまざまなメリットがある。コロナ禍が、それを気づかせてくれたといってもいいかもしれない。
その一戸建てのメリットとして第一に挙げられるのが、価格が安いという点だろう。
かつては、「一戸建てが買えないので、仕方なくマンション」という時代もあったが、近年ではマンションのほうが高くなり、「マンションが買えないので、仕方なく一戸建て」という流れになっていた。
しかし、コロナ禍によって「仕方なく」の文言がとれて、積極的に安い一戸建てに目を向けるようになっているといっていいだろう。
図表4は首都圏の新築マンションと新築一戸建て(建売住宅)の価格の推移を示している。
19年の新築マンションの平均価格は5980万円で、新築一戸建て(1)が5130万円、新築一戸建て(2)が3510万円となっている。
新築一戸建て(1)というのは、主に大手不動産会社や大手住宅メーカーが手がける、大型の団地で敷地面積が広めで、仕様・設備のグレードも高めになっている。それでも、マンションに比べて850万円安い。
図表4 首都圏の新築マンションと新築一戸建ての平均価格の推移(単位:万円
(資料:新築マンションは不動産経済研究所『全国マンション市場動向』、新築一戸建て(1)は不動産経済研究所『首都圏の建売住宅市場動向2019』、新築一戸建て(2)は東日本不動産流通機構『首都圏不動産流通市場の動向』)
建売住宅の基本性能は確実に向上中
新築一戸建て(2)は、大量生産・大量販売によって価格を抑えた物件が中心で、こちらであれば、新築マンションより2000万円以上安く手に入る。
そうなると、なかには「安かろう、悪かろう」ではないかと考える人も多いだろうが、大量供給される建売住宅の基本性能は確実に向上している。
正直、外観デザインなどは大手メーカーに比べると見劣りする面もあるし、設備面でも食洗機などの最新設備はついていないことが多い。しかし、それらは後付けも可能だし、大切なのは住まいの基本性能だ。
たとえば、年間4万棟以上販売している飯田産業グループでは、圧倒的な仕入れ力、施工力によってコストダウンを徹底し、全国の販売価格の平均は3000万円を切っている。
建築部材を大量に安く仕入れ、プレカットして現場での作業を効率化し、工期を短縮、人件費の削減を徹底している。飯田グループのほとんどは販売部門を持たず、各地の仲介会社を通して販売しているため、人件費負担が軽くなるという面もある。
それでいて、全戸住宅性能表示を採用して、高い基本性能を確保している。耐震等級、劣化対策等級、維持管理対策等級、断熱等性能等級においては最高等級の取得を義務付けているほどだ。
外見や設備などはさておき、住まいにとって一番大切な基本性能という点では、大手メーカーにも負けないレベルに近づいているといっていいだろう。
建売住宅はマンションよりこんなに広い
価格が安いのに加えて、床面積の広さも人気の要因に挙げられる。
図表5は国土交通省の調査だが、分譲マンションが平均75.8平方メートルに対して、分譲戸建て住宅は110.3平方メートルで、一戸建てのほうが34.5平方メートルも広い。畳一畳は約1.62平方メートルだから、21畳分以上も広い計算になる。
図表5 住宅の利用形態別の床面積(単位:平方メートル)
(資料:国土交通省『令和元年度住宅市場動向調査』)
家族数の多い家庭でも対応しやすいし、そうでなくても、広いリビング、書斎や趣味の部屋などを確保でき、子どもたちを伸び伸びと育てることができるだろう。
この広さの確保が、コロナ禍で一戸建てが見直される大きな要因になっているのではないだろうか。
資産価値を維持しやすい「一戸建て」
いまひとつ、資産価値という点でも一戸建てのほうがマンションよりも有利であることも見逃せない。
図表6は首都圏のマンションと一戸建ての建築後の年数別の平均成約価格をグラフにしたものだ。
マンションは築0~5年の築浅段階では一戸建てに比べて平均1500万円近く高いが、年数を減るごとに急激に成約価格は低下する。
そして、築20年を過ぎると一戸建てより安くなってしまい、築30年前後では築浅物件の3分の1程度に価値が下がる。
図表6 首都圏のマンションと一戸建て築年数帯別成約価格の推移(単位:万円
(資料:東日本不動産流通機構『築年数から見た首都圏不動産流通市場の動向』)
それに対して、一戸建てもやはり年数を経るごとに安くはなるが、マンションに比べて下がり方のカーブはゆるやか。これは、一戸建ての場合には土地値で歩留まりがかかるためとみられる。
長い目でみても、土地が付いている一戸建てのほうが有利といっていいだろう。
〔PHOTO〕iStock
一戸建てへの流れは続くのか
そのほか、マンションはリフォームなどの制約が多いが、一戸建ては建築基準法などを遵守する限り、自由に増改築できる。
また、隣近所についてもさほど気にすることはないし、マンションのように上下階の物音が気になることもないなどのメリットもある。
以上みてきたように、さまざまな面で一戸建てのメリットが見直されている。
ワクチンや治療薬の開発などで、コロナを抑え込むことができたとしても、新たな感染症などに備えて、私たちの生活がコロナ以前に戻ることはないのかもしれない。
一戸建てへの流れは今後も当分続くことになるのではないだろうか。