■いつでも、どこでもピンポイント テレビ・新聞の未踏地へ
国民1人1台時代を迎えた携帯電話が、「広告メディア(媒体)」としての存在感を増している。携帯は肌身離さずに持ち歩く生活必需品で、いつでも、どこにいても、広告を発信できるのが最大の強みだ。さらに通信の高速化や端末の高機能化が進むなか、テレビや新聞など従来のメディアでは実現できなった広告や販売プロモーションの手法が続々と誕生している。
≪歩きながら完結≫
「急に雨が降り出したら、周辺のビルで雨宿りしている人の携帯にクーポン券を送信し店に呼び込むことも可能になる」
日本マクドナルドの前田信一・情報システム本部長は、先月26日に行われたNTTドコモとの提携記者会見で、こう夢を膨らませた。
提携は、ドコモの非接触IC内蔵携帯電話を端末にかざすだけで支払いができるクレジットカード決済サービス「iD」をマクドナルドの全店で導入すると同時に、携帯に電子化したクーポン券やキャンペーンを送信するプロモーションも共同で行う内容だ。
マクドナルドの原田泳幸社長は、「クーポン券を印刷し人手で配布する手間もなく、即時に販促を展開できる」と、大きな期待を示した。
野村総合研究所では、06年の携帯向け広告市場規模は406億円だが、11年には3倍強の1439億円に達すると予測する。パソコン向け広告市場も3148億円から5978億円に達するが、伸び率では携帯が大きく上回るとみている。
PHSを合わせた携帯の普及台数は1月末に1億台を突破。さらに、データ通信の定額制料金も急速に普及し利用者が料金を気にせず携帯からインターネットにネットにアクセスできるようになってきたことが、携帯向け広告の急成長につながっている。
また、GPS(衛星利用測位システム)や決済機能など高機能化が進んでおり、例えば、利用者が歩きながら、近くの店舗で行われている特売情報を入手し、その場で携帯で料金を支払うなどの新しい使い方が急速に広がるとみられている。
≪大手は手つかず≫
携帯向け広告には、(1)バナー広告などウェブサイト上に掲載される「ピクチャー・テキスト型広告」(2)検索結果と連動させ、表示する「検索連動型広告」(3)メールによる「メール広告」の3つのタイプがある。
このうち、現在の市場規模はピクチャー・テキスト型が約5割、検索連動型が3割、メールが2割程度とされる。
このうち、特にシェア拡大が予想されるのが検索連動型。これは、ヤフーやグーグルなどの検索エンジンで「サッカー」と入力し検索すると、画面の脇に関連商品を扱うスポーツ用品店の広告などが掲載されるといったものだ。
野村総研の小出摩美コンサルタントは、「携帯サイトは画面も小さく、アピールできる規模は限られる。そのため、狙ったユーザーにより確実に広告を配信できる検索連動型広告が今後優位になる」と指摘する。
すでに、検索サイトへの広告配信を手がけるオーバーチュア(東京都港区)では、07年の携帯電話向け広告の売上高が前年比5割増になると見込んでいるという。
ただ、携帯電話広告が普及するためのハードルも少なくない。電通の高森雅人インタラクティブ・コミュニケーション局次長は、「主要広告主である大手企業の多くが携帯サイトを持っていない」と指摘する。
現在、携帯電話向け広告の主なスポンサーは、音楽のダウンロードサービスや占いサイトの運営企業などで、大手企業は多くないという。
≪選別・差別化も≫
もっとも、高森氏は、「大手企業がサイトを持たず、広告が少ない現在の状況は、数年前のパソコンと同じ。大手企業が携帯サイトの価値を理解すれば状況は劇的に変化する」と指摘する。現在、大手企業のほぼすべてが、パソコンサイトを持っており、同じことが携帯でも起きるというわけだ。
広告の最大の目的は、利用者の購買を促すこと。ただ、従来のメディアではどれだけのユーザーに広告宣伝が伝わっているかを計りにくい側面があった。しかし、携帯広告なら、広告へのクリック数やサイトへのアクセス数から、広告の効果を測定することでできるというメリットもある。
最近では、ユーザーからのアクセス数に沿って広告費用が決まる「成果報酬型」の広告サービスの提供も相次いでおり、従来メディアとの選別差別化はさらに進みそうだ。
画面も小さく、テレビ広告のような大きなインパクトを持たない携帯広告だが、機能面や使い方の“進化”により、既存メディアの広告市場を大きく浸食するような巨大新メディアへと成長する可能性もありそうだ。(黒川信雄)
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