【橘木 俊詔】日本人は働きすぎ?日本人の労働時間、実は60年代より「約700時間」減少しているという「衝撃の事実」

日本の共働き世帯数、日本人の労働時間、日本の労働生産性、事業所の開業率……

現代の「日本の構造」、どれくらい知っていますか?

少子化、格差、老後など、この不安な時代に必要なすべての議論の土台となるトピックを橘木俊詔氏が平易に解説します。

※本記事は、橘木俊詔『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』から抜粋・編集したものです。

日本人は働き過ぎか

労働者の労働時間というのは、いろいろな側面から評価可能な変数である。

まずは企業側、あるいは生産面から評価すれば、労働時間が長くなればなるほど生産高、あるいはサービス供給量は増加する。しかしこれには条件があって、労働生産性の増減にも左右される(労働生産性の増減については後に言及する)。

次に労働者側から評価すれば、働く時間が長くなれば賃金総額は増加するので、生活水準を高められる。とはいえ、賃金総額は時間あたり賃金の変動にも左右される。もう一つ重要なことは、一般に経済学では労働は苦痛とみなすので、労働時間は短いほどよい。長時間労働は健康に悪いし、余暇の時間が減少して、楽しい生活を送れる機会が少なくなる。

ここでは労働生産性や時間あたりの賃金の動向には注意を払わず、労働時間の変動そのものだけに注目する。図1(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトをご覧ください)は戦後から現在までの常用労働者一人あたりの平均年間総実労働時間数を示したものである。事業所規模30人以上の統計である。29人以下の小企業の方が労働時間が長いので、この図による労働時間の絶対数には注目せず、その変化だけに注目する。ただし、最近の30年ほどに関しては規模5人以上の労働時間も統計で示されるようになっており、極小規模の事業所の方がほんの少し労働時間が短いことを知っておこう。

まず戦争直後から1960(昭和35)年頃までは、高度成長期に向かう時期なので、労働時間が長くなることは当然であった。貧乏から脱却して多くの所得を得たいという労働者と、企業成長率を高めたい企業の思惑が一致して、国民は長時間労働にコミットしたのである。当時は週6日労働(休みは日曜日のみ)、あるいは週5.5日労働(土曜日は半日勤務)であったし、残業も厭わない雰囲気が労使ともにあった。

年に2400時間を超す長時間労働も1960(昭和35)年を過ぎた頃からは減少の兆候を示した。大企業を中心に日本社会が週休2日制を徐々に導入しはじめた効果が大きい。欧米では週休2日制が一般的だったので、先進国の仲間入りを果たしたのである。

労働時間の減少は1975(昭和50)年頃にはストップし、ほぼ変動なしが15年ほど続いた。この時期は先の安定成長期に相当する。スタグフレーションという二重苦を避けるため、企業、労働者ともに企業の存続を願って、労働時間を減少させず頑張ったのである。

1990(平成2)年あたりから再び労働時間は減少した。それもかなりの減少率である。日本人は働き過ぎという外からの批判と、内からの反省が、労働時間減少を促進したと考えてよい。この頃から日本人が働く以外のことに関心を持ち出したこともある。

では日本人はほんとうに働き過ぎか検証しておこう。OECD(経済協力開発機構)が各国の労働者一人あたりの年間労働時間の統計(2019〈令和元〉年)に注目して公表しており、主要国を掲げてみる。

韓国:1967 アメリカ:1779 イタリア:1718 カナダ:1670 日本:1644 イギリス:1538 フランス:1505 スウェーデン:1452 デンマーク:1380 ドイツ:1386

韓国人やアメリカ人は日本人よりも長時間働いている。逆にドイツと北欧諸国の特に短い労働時間は特筆に値する。G7のなかでは日本は中位にあたる。働き過ぎでも遊び過ぎ(?)でもない。

労働時間にはいろいろな論点がある。もっとも重要な論点は、法定労働時間と呼ばれるもので、原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて働くのは禁止されている。この法定労働時間は戦後減少する傾向にあった。この法定労働時間を超えても、労使の合意があれば時間外労働(残業)をしてもよいが、1時間あたりの賃金を割増しせねばならない。日本は25%増であるが、ヨーロッパの50%増と比較すればまだ低い。

他にも有給休暇がある。通常は年に20日であるが、勤続年数によって異なる。日本人は有給休暇をさほど取らない(厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」では取得率は52・4%)。怠けていると思われたくない、自分だけ休めないという心情が働いている。

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