【秋山 謙一郎】これが「タワマン」の未来か…かつては憧れだった「団地型マンション」のヤバすぎる現状

もはや「限界団地」「限界マンション」だ――。

今、静かに深い社会問題として認識されつつあるマンションの管理問題である。マンションの管理は、大きく分けて、これを専門とする管理会社への「委託型」とマンション住民たち自身の手による「自主管理型」に分かれている。それぞれのマンションの事情と背景にもよるので一概にはいえないものの、仮に同条件のマンションであれば、プロの手が入る委託型よりも自主管理型のほうが、その管理費は割安といわれている。

もっとも割安、かつ住民たち自身の手による管理、すなわち“素人”の手によるものだからこそ、想像を超えたトラブルが起こり得る……という可能性は否定できないだろう。

そんな素人の手による自主管理型マンションでのトラブルを深く掘り下げていく。

メッセージを送りまくる

揉めるのは「住民同士」だけではない。自主管理型、加えて人と人と距離、関わり方が1970年代、80年代の昭和のど真ん中で止まっている団地型マンションで、近頃、耳にするようになったのは、先の清掃当番の例にみられる「有力住民vs元住民」、そして「有力住民vs(元住民の)相続者」だ。

アイコさんが暮らす住民自身の手で管理業務を行う「自主管理型」の団地型マンションでは、最近、こんなトラブルがあったという。

――とある一室からの管理費が振り込まれなくなった。この一室の入居者は賃貸で借り受けている。管理費の振り込みは家主となっている。そこで会計の役職に就く有力住民は、理事長と相談の下、管理費の振り込みがない物件入居者に、「家主の連絡先を教えろ」と厳しく迫った。入居者から聞いた連絡先に電話をしてもなしの礫。会計はスマートフォンのショートメッセージ機能を用いて、1時間に一度のペースで管理費を催促した。

これが奏功したのか、管理費は1週間後、家主から振り込まれた。自治会としては大助かり。集会所にて各自自前での支払いのジュースとお茶で乾杯した――。

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話は、これで終わる筈だった。

後日、理事長、会計宛に弁護士名で内容証明郵便が届いた。そこには概ね、以下の内容が記されていた。

「たしかに当該物件は相続により所有していた。しかしすでに売却し不動産会社の手に渡っている」

「その旨、過去に連絡したが、当時の理事長から『素人なのでよくわからない』といわれ、当時の会計にもその旨伝えたが、『銀行に相談します』と何の関係もない管理組合との付き合いが長い地方銀行に勝手にこちらの個人情報を持ち出されて相談された挙句、何ら対応してもらえなかった」

「管理費を振り込んだのは妻が怖がって振り込んだ。携帯電話は今は妻が使っている。電話に出なかったのも知らない番号で怖かったからだ」

この件こそ理事会できちんと話し合わなければならない話にように思われるが、現在の理事長と会計により、結局、話はうやむやのうちに終わった。

団地内の行き過ぎた慣習

不祥事を表沙汰にしない。だが住民皆が知っている、でも黙して語らず――。住民同士での庇いあいといえばそれまでだが、この件に関わった当時の理事長と会計の役職に就く現役員、そして“有力住民”たちへの恐れや配慮であることは事情を知らない第三者でも容易に察しのつくところだ。

「ここのマンションというか団地の理事会の役員は輪番制で決められます。そのなかでも会計なんて役職は、『フルタイムで仕事をしているととても出来ない』というほどの激務だそうです」

ここまで溜息交じりに語ったアイコさんが一呼吸置いて、こう言葉を継ぐ。

「だから会計の役職に就きそうになる2年前までに引っ越しする人が結構いるようです。会計役員就任の年、その前年なんかに引っ越しなどしたら、それこそどんな形でプレッシャーをかけられるやわかりませんから。私が入居してから知りました」

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マンション理事会役員就任の前年、任期途中に転居を決めた住民は、現役員と有力住民の家庭訪問やマンション内の集会所に呼び出され、「転居時期を延ばす」か「転居後も理事会の手伝いに来ること」を約束させられるかの二択を迫られるという。

もっとも、それで「転居(して、一切の関りを絶つ)」を選ぼうものなら、転居するその日まで、否、転居してからもずっと有力住民たちの記憶にある限り、何を言われるや分からない。引っ越しするその日まで針の筵に座らされるという訳だ。

もちろん、こうしたやり方、慣習に異を唱える住民もいる。だが1970年代、80年代からずっとここで暮らし、何度も理事会役員を経験した“有力住民”には、そんな世間の常識は令和の時代の今でも通用しない。

「有力住民ともなれば、もうやりたい放題です。見ているこちらがヒヤヒヤするくらい。団地内を歩いている人の写真を勝手に撮影して、『不審者に要注意』と回覧板を廻す。その人はこちらの団地にあらたにお引越しされてきた方のご主人だったとか。誰かが注意しても、役員なら『素人なので……』、役員に就いていなければ『元役員として心配で。素人だから……』といえば、もう誰もその件は追求しない。というか追及するエネルギーを引っ越しに向けた方が建設的です」

月日が経ち全てが古びていく

アイコさんは、今、真剣に転居を考え、物件探しに奔走している。もちろん自主管理型のマンションは敬遠、団地型マンションにもう住むつもりはない。

「今の時代の世間の常識、他人との適度な距離を弁えている住民が集うマンションに住めればそれでいいです」

“有力住民”が白が黒でも白と言えば白となる実態――これぞ限界集落ならぬ「限界マンション」「限界団地」といったところか。

1970年、80年当時こそ、時代の最先端をいく住居だった団地型マンションも、時を重ねていくにつれてその外観に綻びが出るのと同じく、ここに建設当時からずっと住む人たちもまた同時に老いてきた。建物は綻びを繕える。だが老いた人を若返らせることはできない。

このアイコさんが暮らす神戸市須磨区の団地型マンションで暮らす50代住民のひとりは言う。

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「建設当時から入居している80歳超えの人(住民)など、未だ1980年くらいで時が止まっていますから」

なまじ時代の最先端をいく夢の住居ともてはやされた当時から、ここに住み、年齢を重ねているだけあって、別の、もしくは新たな価値観を認めようとはしないという意味である。

これら1970年代に建設された団地型マンション群は、新築当時、現在のタワーマンションと同じく、その購入価格も決して安価なものではなかった。むしろ高額な部類だ。建設同時からすこし後の1980年代、バブル真っ盛りの時期に、この神戸市須磨区の団地型マンションを購入したという70歳代住民は言う。

「うちは3000万円で買った。中古だった。今では100万円から高くても400万円。住む人の雰囲気も随分と変わってきた――」

今後タワマンはどうなるのか

総務省が5年ごとに調べている『住宅・土地統計調査』によると、今、日本の空き家数は約849万戸。空き家率は13.6%(2018年)だという。

今回紹介したこの神戸市須磨区の団地型マンション群にみられる「かつてのニュータウン」と呼ばれる都市開発が多々行われたのが1970年代当時、空き家数は1973年で約172万戸、78年で約268万戸である。空き家率はそれぞれ5.5%、7.6%だ。

1973年からデータのある2018年までの45年間で、空き家数は677万戸増え、空き家率は8.1%伸びた。

この空き家数と空き家率はシンクタンク、野村総研によると2033年には実に2146万戸・30.2%にまで増えるという。

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2010年当時から、「夢の住居」として注目を集めたタワーマンションも、建設から23年後となる2033年には、かつてのニュータウンの団地型マンション同様、そろそろ建物にも綻びが出始め、住む人も老いを気にする頃となる筈だ。その時、ここではどんな問題が起こるのだろうか。

これらかつてのニュータウンに位置する団地型マンションが今抱えている問題は、現在、最先端をいく住居として自他ともに認めるところであるタワーマンション、そしてここで暮らす人たちの将来を占うエピソードとしても捉えられよう。

単にそこに住む人だけの話、いわば他人事として問題を避けるのではなく、今こそ、そのような問いに社会全体で向き合うことだ。

さらに関連記事<「70歳の元住民」を無理やり呼び出して、引っ越したことを謝罪させ、清掃会に参加させた…とあるマンションのヤバすぎる「自治会役員」>では、自主管理型物件のいびつな現状について、詳しく解説している。

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