米アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは2月8日(現地時間)、第94回アカデミー賞のノミネート作品を発表した。北米でのオスカー前哨戦で健闘してきた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」は、作品賞、監督賞、脚色賞(濱口、大江崇允)、国際長編映画賞の4部門にノミネートされる快挙を成し遂げた。
「ドライブ・マイ・カー」が、日本映画の歴史に新たな1ページを刻んだ。アメリカのアカデミー賞で日本映画が作品賞にノミネートされるのは、史上初。ノミネート本数が拡大された第82回(2009)以降、作品賞ノミネートを受けた計105作品のうち、非英語作品はわずか4本(「愛、アムール」「ROMA ローマ」「パラサイト 半地下の家族」「ミナリ」)と狭き門だったことからも、映画界全体にとって意義ある快挙といえる。
監督賞にも名を連ねたが、これは日本人として実に36年ぶり、3人目となった。過去の2人は、第38回(1965)の勅使河原宏(「砂の女」)、第58回(85)の黒澤明(「乱」)。また、過去20年間で監督賞にノミネートされた100人のうち、非英語作品から選ばれたのは8人。そのうち、受賞したのは第91回(18)のアルフォンソ・キュアロン(「ROMA ローマ」)と第92回(19)のポン・ジュノ(「パラサイト 半地下の家族」)となっている。
原作のある脚本に対して贈られる脚色賞には、濱口監督と大江崇允の連名でノミネートを果たした。こちらも日本映画として初めてのこと。国際長編映画賞(前身は外国語映画賞)は、第81回(08)で滝田洋二郎監督作「おくりびと」が日本映画として初めて受賞を果たしているが、日本映画のノミネートは第29回(56)の「ビルマの竪琴」に始まり、14作目。近年では、第91回(18)で是枝裕和監督作「万引き家族」がノミネートされていた。
今作の軌跡をたどっていくと、昨年の第74回カンヌ国際映画祭で日本人および日本映画としては初めて脚本賞を受賞したほか、国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞に輝いた。これを皮切りに全米の主要な賞を席巻し、第79回ゴールデングローブ賞でも非英語映画賞を日本映画として62年ぶりに戴冠。さらに、オスカーと親和性の高い第56回全米批評家協会賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞の4部門を制している。
村上春樹氏の小説を映画化した「ドライブ・マイ・カー」は、舞台俳優で演出家の家福悠介が主人公。脚本家の妻・音と幸せに暮らしていたが、妻はある秘密を残したまま突然他界してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きてきた家福は、演劇祭で演出を担当するため、愛車のサーブで広島へ向かう。そこで出会った寡黙な専属ドライバー・みさきと過ごすなかで、それまで目を背けてきたことに気づかされていく。
第94回アカデミー賞の授賞式は、3月27日(日本時間28日)に開催される。