韓国で「仁義なき犯罪」が明らかになった。
米兵をそそのかして利用し、覚醒剤4・1キロ(130億ウォン=約13億円分)を米国から韓国へ密輸入しようとした韓国系犯罪組織が摘発されたのだ。北朝鮮の軍事的脅威から韓国を守るため駐留している“守護神”の米軍兵士さえも犯罪に巻き込み利用する信じがたい行為に、米国はどう対応するのか。 (岡田敏彦)
13万6600回
犯行の詳細は米軍準機関紙スターズ・アンド・ストライプス(電子版)や韓国各紙が3月中旬に一斉に報じた。韓国各紙によると、犯行が行われたのは昨年12月。首都ソウル近くの仁川(インチョン)空港に、在韓米軍兵士向けの軍事郵便物が到着した。
税関で検査したところ、朝食用のシリアルが10箱詰められており、そのうち3箱から、ビニール袋にたっぷり詰められた覚醒剤(メタンフェタミン)が見つかった。その重量は計4・1キロ、末端価格で13億円分という希に見る量だった。
地元韓国の水原地検平沢支庁刑事2部長のカン・スサンナ検察官は、スターズ・アンド・ストライプス紙の取材に「これは米軍事郵便を(悪用し)摘発された薬物量では過去最大だ」と話したという。通常の一回投与量は約0・03ミリグラムで、摘発された4・1キロは13万6600回分にものぼる。韓国の犯罪組織の手に渡れば、麻薬汚染が広がるのは間違いない。
この荷物の受け取り人として荷物に表記されていた在韓米軍K-2(ハンフリーズ)基地所属の米兵(19)は、同僚兵士のA一等兵(19)に頼まれて受け取りの住所と名前を貸しただけだと主張。韓国検察に加え米軍捜査隊(CID)、米司法省麻薬捜査局(DEA)などが捜査に乗り出し、A一等兵に事情を聞くなどした結果、犯行の全容がほぼ明らかになった。
在米韓国マフィア
調べによると、犯罪グループの主犯格は米国カリフォルニアに住む34歳の在米韓国系の人物で、覚醒剤(メタンフェタミン)4・1キロを韓国へ密輸することを計画。ただし、普通の郵便で送っては税関検査で中身を調べられるため、特別な“仲間”を用意した。それが在韓米軍所属兵士のA一等兵だった。
主に米軍兵士だけが利用できる米軍軍事郵便は、通常の郵便よりも税関での検査が比較的に緩いと韓国内ではみられている。韓国税関職員は忙しい業務のなかで「米軍の荷物なら大丈夫だろう」と信用しているからだ。実際、税関職員は一定の時間帯に在韓米軍の軍事郵便局を訪問し検査するだけで、100%の検査ではないと韓国紙の中部日報(電子版)などは指摘する。組織はこうした「米軍への信用」を悪用しようとしたが、今回は“運悪く”発覚したというのだ。
またカン検察官は地元テレビの取材に対し、犯行の悪質な計画性を示唆している。
というのも、軽くて1箱のサイズが大きいシリアルを10箱も詰めた段ボール箱は「箱の体積が大きかった。X線検査を困難とするためではないか」と指摘するのだ。
検査機器の受け入れ枠のサイズを超えていれば、本来なら箱を開け中身を出してX線検査機に通すこととなる。そこで税関職員が「面倒だ。検査しなくてもケンチャナヨ(大丈夫、気にするな)」となることを狙ったというのだ。
カンナム・スタイル
捜査当局では主犯格の男が韓国内で直接、在韓米兵士をそそのかしたわけではなく、韓国内にも仲間がいたことを突き止めた。韓国通信社の聯合ニュースによると、共犯者は、米国に住む移民2世が2人(主犯格を含む)。さらに韓国系移民で、「米国でさまざまな犯罪を犯し」て、米国から国外追放されていた4人が犯行に関わっていたことがわかった。地元紙の京郷新聞(電子版)によると、この6人はすべて20~30代の韓国系移民2世だという。
一味のアジトはソウルの江南(カンナム)区にあり、捜索したところメタンフェタミン89・6グラムとコカイン11グラムが見つかった。江南区は朴槿恵(パク・クネ)前大統領の自宅(同区三成洞)もある高級住宅街として喧伝されているが、実際には高級なのは一部地域だけで、不法占拠のスラム街「開浦洞(ケポドン)九龍村(ケリョンマウル)」など貧民窟が複数ある。麻薬取引などの犯罪には地理的に便利だった可能性もある。
結局、A一等兵は逮捕、起訴され、軍事郵便の住所と名義を貸した兵士は在宅起訴。韓国系犯罪グループは2人が逮捕されたが、4人は逃亡し、国際刑事警察機構(ICPO)に指名手配された。
ドラゴンファミリー
今回、在韓米軍側で摘発された兵士2人については、その素性などは明らかにされておらず、2人も韓国系移民2世だったかどうかは報道されていない。しかし中央日報(電子版)など現地メディアは数年前から在韓米軍内にいる「韓国系ギャング団」の存在を指摘している。
こうした報道によると、米連邦捜査局(FBI)は米軍内に韓国系移民で構成されたギャング団「コリアン ドラゴン ファミリー」があると認識している。米国に居住し、ギャング生活から抜け出すため米軍に志願入隊する者もいるが、「武器や麻薬の密輸を容易にできるよう、意図的に入隊するものもいる」という。さらに「軍で得た戦闘知識や銃の知識を、除隊後に再びギャングとなっていかす」というから始末に悪い。
誰が国を守るのか
それにしても、犯行が行われた昨年12月といえば朴氏の大統領弾劾や北朝鮮の弾道ミサイル発射などで韓国の安全保障が危機にさらされていた。そんななかで、韓国の「守りの要」である米軍兵士を麻薬犯罪に巻き込むなど、韓国民にとっても言語道断の行為といえる。
本来、国を守るべき韓国軍は、その指揮権を米軍に“献上”している。朝鮮戦争(1950~53)で韓国軍は敵前逃亡を繰り返したあげく総崩れとなり、兵士がどこにいるのか、そもそも部隊が存在しているのかもわからない状態となった。
米軍から「自国(韓国)の軍隊を逃げずに戦うよう統率しなさい」と求められた韓国初代大統領の李承晩は、連合軍総司令官のマッカーサーに対し「指揮権一切を移譲することをうれしく思う」「韓国軍は、あなたの指揮下で服務することを光栄に思う」などの卑屈な言葉を並べて指揮権を一任。以降、韓国軍の実質的な指揮権である戦時作戦統制権は米軍(国連軍)にある。
アフリカ南部の国家ジンバブエが2015年、ハイパーインフレのため自国通貨の発行を停止して世界中の話題となったが、自国軍を指揮命令する権利は、通貨発行権や税の徴収権などと同様に独立国家の極めて重要な権利だ。その権利を韓国は自ら手放し、約70年任せたまま、現在に至るのだ。近年は北朝鮮の核開発、そして今月には米軍のシリアへの攻撃により、朝鮮半島周辺の情勢は緊迫化している。
そんななかでの麻薬犯罪。米軍の立場で見れば、自国の物流システムを悪用され、自国の兵士が犯罪の片棒を担がされた状態だ。韓国を守るモチベーションをどう保つのか…。しかも過去同様「卑屈にお願い」しようにも、大統領はいないのだ。