【野田隆】「駅の片隅でつまみ片手に缶ビール…」“駅飲みおじさん”に共感できるワケ その姿に賛否両論あるようだが

話題の「ステーション・バー」

「ステーション・バー」という言葉が話題になっている。といっても、東京駅赤レンガ駅舎内のホテルにあるお洒落な『バー オーク』や、駅構内にあってお酒が飲めるカウンターのことではない。

よくよくネットでチェックしてみると、『週刊モーニング』に連載中のマンガ『定額制夫の「こづかい万歳」』の話で、友人が「ステーション・バー」で飲んでいる、というものだ。

それは、駅構内の片隅にあるロッカーなどの陰になっていて人目につかず目立たない場所で、こっそり缶ビールやハイボールなどを立ったまま飲むというエピソード。

あまり堂々と駅構内で飲むのは、さすがにはばかられると思ってか、缶をハンカチで隠し、つまみは背広の内ポケットに忍ばせて、こっそり飲むのが流儀のようだ。

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しかも、毎日のように同じ駅の同じ場所に立って飲んでいると、怪しまれたり、迷惑をかけることもあるかもしれないので、定期券内の駅を途中下車して、いくつものお気に入りの「ステーション・バー」を回るという工夫までしているという。

「なぜ駅なのか? 電車を降りてから、家の近くの公園ではだめなのか?」と問われると、漫画の中では、次のように答えている。

「駅は賑やかでいろいろな人が通り過ぎ、それぞれにドラマがあって生の映画を見ているようだ」。

確かに、男女関係のもつれがあったり、試合に負けてうなだれた部活帰りの学生、仕事がうまくいかなかったサラリーマン、幸せそうなファミリーなど……、はたから見ていると、様々な人生の喜怒哀楽を感じるかもしれない。

あるいは、高架の駅であれば、外の夜景に見とれるという楽しみ方もあろう。考えようによっては、たしかに安価でくつろげる穴場的スポットにも思われる。

駅のマナー的にどうなのか

この「ステーション・バー」に関しては、ネット上で賛否両論の意見や感想が述べられている。「私もやってみたい」、「マネするのは控えるけれど、理解できる」という肯定的なもの、一方の「悲しすぎる」「怪しいおじさんみたいでやめたほうがいい」という否定的なものだ。

ところで、「どうして帰りにどこかのお店に入って飲まないのか。高価なお店ばかりではなく、いわゆる大衆酒場だってあるのに」と訝る人もいると思う。筆者も正直なところ、最初はそんな風に思った。

しかし、この『定額制夫の「こづかい万歳」』という漫画は、奥さんから毎月もらっている少ない小遣いをやりくりする様子を描いた作品なのだ。ひとたび景気よく飲みに行けば、それで終わってしまうほど懐が心もとなくなる。

それゆえの「対策」と考えると、ちょっと悲しくなる。いっそのこと、まっすぐに帰宅して自宅で晩酌をすればいいのにとも考えるけれど、自宅では飲みたくない事情もあるのだろう。

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だから駅構内での飲酒、となるのだが、果たしてこれはマナー的にどうなのだろうか。

グループでベンチを独占して、大声で盛り上がるような事態であれば、ひんしゅくを買うであろうし、他の利用者を不愉快にさせるような行為は厳に慎みたいものだ。

ひとりであっても、駅のベンチで堂々と飲酒をしていい気持ちになるのも、たまたま隣に座った若い女性が不愉快な気分になるようなら、やはり、やめたほうがいいかもしれない。

別に、絡んだり、寄りかかったりするわけではなくても、酒臭い人が至近距離にいるだけで迷惑になることもあろう。酩酊すればホームを千鳥足で歩いていて、転落することもないわけではない。ホームドアがない駅での転落事故の多くは酔っ払いであるという話もある。

コロナ禍の状況を考えると…

飲むなら、ほどほどに――。それは前提として、この話のように構内の片隅で目立たずに、風景に溶け込むように大人しくしているのなら、個人的にはとくに声高に非難することでもなかろうと思う。

この話、昨今のコロナ禍に照らし合わせてみると、社会情勢が映し出されていて興味深くもある。

会社に出勤してみたが、仲間はテレワークで自宅に籠っていて会うことはできない。退勤後に連れ立って飲みに行こうにもお店はやっていない。あるいは、コロナ禍で会社の業績が悪くなり、倒産しないまでも給料は増えないし、悪くすれば減少となる。

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立ち寄るところはないけれど、早々と帰宅するのも嫌だ。そんな社会状況が生んだのが「ステーション・バー」だとすれば、身につまされる哀しい話にもなろう。

もっとも、駅を通り過ぎる人々を眺めているとドラマや映画のシーンみたいだというのは、言い得て妙だ。腕のいい映画監督であれば、即席でドキュメンタリーフィルムを作ってしまうのではないだろうか。それほどに駅というのは別れと出会いのある“名舞台”なのだ。

鉄道好きの目線で言えば、ホームの片隅で、発着する列車を見ているだけで、時が過ぎるのを忘れてしまう。それくらいカメラも持たず、手ぶらで佇んでいると不審者にも誤解されかねないので、ちょっと隠れるようにアルコール飲料を口にするのは、たまにはいいかもしれない。

ひょっとすると、この「ステーション・バー」は、外出自粛によって広まった「オンライン飲み会」と並んで、コロナ禍が生んだ新しいスタイルの「飲み方」となるのかもしれない。

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