【鎮目 博道】TV業界のギャラ相場に大異変…「中堅タレントはテレ東、ベテランはBS」の背景 キー局は第7世代とYouTuberが席巻

評価基準は「個人視聴率」へ

松本人志さんが、世帯視聴率を基準に書かれた一部の記事に対して疑義を表明したことが話題になっているが、実はいまテレビの評価基準が世帯視聴率から個人視聴率に変わったことにより、テレビ界に大きな激震が起きているのをご存知だろうか。

それは、「タレントのパワーバランスの変化」と「ギャラ相場の大きな変動」だ。ざっくりいうとその変化は、「若いタレントのギャラ急上昇と中堅・ベテランタレントのギャラ低下」とまとめることができる。

個人視聴率を基準とし、各局がターゲットとする若い世代に視聴される番組の価値が急上昇するのに伴って、芸能人のパワーバランスにいま下克上が起きているのだ。

一体いまどんな激動が起きているのか? その現状を関係者たちに急遽取材した。

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まず語ってくれたのは、番組制作会社のプロデューサーAさん。世帯視聴率から個人視聴率への変更に伴い「第7世代などの若手お笑い世代と若手タレントのキャスティングが、極端に難しくなってきている」という。

「とにかく彼らはいまスケジュールがいっぱいで、なかなかブッキングしにくくなっています。それに伴ってギャラも結構上がっていて、びっくりするような額を言われることが増えてきています。費用対効果を考えると、キャスティングすることに『うーん』と首を傾げざるを得ないこともあります」(Aさん)

YouTuberはタフネゴシエーター

キー局のプロデューサー・Bさんも第七世代や若手タレントの人気急上昇ぶりについてこう語る。

「正直なところ、第七世代に飛び抜けた実力があるわけじゃありません。しかし、出演しているだけで『若い世代の番組』という雰囲気が出て、子供に人気がある。日本テレビさんなんかがよく使いますよね。制作費が減っているという理由もあって、若手芸人がもてはやされる傾向が強くなったのは確かだと思います。

あと、半年くらい前にとある若い女性バラエティタレントの人気が上がり、スケジュールに空きがなくなってしまった。その時に一方的にギャラを上げられて、苦笑いしたことがあります」(Bさん)

急騰する若手芸人やタレントのギャラ相場。しかしAさんによると、それ以上にこのところキャスティングしにくいのがYouTuberなのだという。

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「高いギャラを払っても、キャスティングしにくいのが人気YouTuberですね。YouTuberは所属している事務所もいわゆる芸能事務所ではなく、これまでの業界の常識があまり通じないところがあります。しかも、彼らYouTuberは配信がメインで、あまりテレビ出演を本業だと思っていないので、とても強気です。

それほど人気のないYouTuberなら、格安のギャラで快諾してくれることもありますが、有名になるとびっくりするような高額なギャラを要求されることも。番組の内容へのオーダーも多く、意見が合わないと『イメージと違うので』と断られてしまうこともあります」(Aさん)

知名度があってもSNSパワーがないと…

個人視聴率の導入により「若い世代向けの番組」という雰囲気を出したいというニーズが増えた。そのために若手芸人・タレントそしてYouTuberの地位が急上昇している現状があるようだ。

そんな中ベテラン・中堅タレントたちの現状はどうなっているのだろうか。多くのベテラン芸人を抱える芸能事務所社長・Cさんに話を聞いてみた。

「SNSで数字が“見える化”している昨今、テレビで知名度があっても、SNSのフォロワー数が伴っていないとギャラは下がっています。そのため、安くて言う事を聞く若手はキャスティングされやすい印象です。その反面、ベテランはギャラが高くて文句も言うので、キャスティングされにくくなっていますね。

ベテランの人も仕事がないと困るので、割引することもあります。これも昨今の流れにのった需要と供給を考えれば仕方のないこと。シビアです。

ベテランによっては『このギャラじゃないと受けない』っていう方もいますが、段々そういう方は淘汰されていくのかもしれません。やはり、今の現状を理解してやっていける方じゃないと難しいですね……」(Cさん)

テレビでの従来の知名度ではなく、SNSでの影響力がテレビのギャラ相場を決める重要な要素になってきている。そうするとベテランのギャラ相場の低下は、一部SNSパワーがあるタレントを除き、避けられない。

活躍の場はテレ東やBSへ

そして、ギャラの相場だけではなく、ベテランや中堅にオファーがかかる仕事の質も変化してきているという。放送作家のDさんはこう解説してくれた。

「中堅タレントの活躍の場となっているのがテレビ東京です。テレ東は番組制作費が少ないので、タレントの数を揃えられません。数を揃えつつある程度の実力も同時に求めるので、第7世代より中堅の芸人さんを起用することが多いですね。テレビ東京はシニア層相手の番組が多いので、あまりにも顔が分からない若手はキャスティングしないことが多いんです。

そして、もっとベテランになると活躍の場は地上波ではなくBSになります。BSは完全にお年寄り相手で、中堅タレントでも見てもらえません。予算も相当少ないんですが、一点豪華主義でベテランをひとりキャスティングして、タレントの出演者はそれだけ。あとは局アナにアシスタントもナレーションもしてもらって、番組を成立させています。

例えば中村雅俊さんとか、武田鉄矢さんクラスのタレントが出ていないとお年寄りは納得してくれません。『地上波があまりにも知らない人ばかりなので、知ってる顔を見せて安心させるように』と局の編成も言っているようです」(Dさん)

中堅の活躍の場はテレ東へ、そしてベテランはBSへ。理由を聞いてみると、なるほど納得である。

編集をやりたがらない若手テレビマン

そして、こうした「ベテラン・中堅と若手の下克上」が起きているのは出演者だけではないという。制作会社のプロデューサー・Eさんの証言だ。

「そうした傾向は制作スタッフにも起きています。今の若手テレビマンたちは、VTRを制作したがりません。VTRを制作するのはめんどくさいので敬遠する人も多くて、みんな配信の仕事をしたがります。

配信の仕事は生なので、その場で終わって、徹夜の編集作業もありません。当日2時間、D卓(ディレクターが座る副調整室の送出卓)に座って10万円です。週一回生配信があれば、月40万円になりますから楽ですよね。

それで、こうした楽な生配信の仕事の中には『40代以上NG』という依頼も多かったりするのです。制作スタッフを30歳前後の若手にして、発言の自由を重視するためだそうです」(Eさん)

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楽な仕事は若手のみにオファーが来て、大変な仕事はベテランたちが苦労して安いギャラをもらう……。そんな下克上が「裏方」であるテレビマンたちにも到来しているというのだ。

とにかく今、テレビ業界は前代未聞の激変の時代を迎えている。出演者も、裏方も、そして制作するテレビ局や制作会社、芸能事務所にも、変革の大波を避けられる者は誰もいない。

しばらく、テレビ局をはじめとする動画コンテンツ業界から、目を離すことができない状態が続くのは間違いないのだ。

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