【鷲尾香一】新型コロナで「日本人の東京離れ」がいよいよ現実味を帯びてきた…! 一極集中の時代は間も無く終わる

明らかに例年と違う「人の動き」

新型コロナウイルスの感染拡大が“東京一極集中”の幕を引くかもしれない――。

まずは【表1】をご覧いただきたい。これは総務省住民基本台帳人口移動報告による東京圏の転入者数、転出者数、転入超過数だ。

例年、4月から5月にかけては進学、就職、転勤・転職などの理由により人の移動が活発化する。特に東京圏には多くの人が転入して来る。だが、今年は明らかに人の動きに変化が表れている。

【表1】
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【表1】
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東京都では19年4月に1万3000人を超えていた転入超過数が、20年には約4500人と大幅に減少した。そして、5月には転出超過数1000人以上の転出となった。総務省統計局によると、「東京都の転出超過は外国人を含む移動者数の集計を開始した2013年7月以降初、日本人移動者だけでも2011年7月以来」となった。

転入超過数の減少傾向は東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)でも、ほぼ同様だ。その要因は転入者の減少にある。

例えば、東京都の4月の転入者は前年同月比9112人減少だが、転出者はわずか571人にとどまる。5月も転入者が1万2842人減に対し、転出は7292人となっている。

この結果、東京圏の4月では19年に9万1084人だった転入者は20年には7万3375人に減少、転入超過数は19年に2万7500人の増加が、20年には1万4497人の増加と増加数は約半減している。

5月は転入超過数が19年の3950人の増加に対して、20年は5046人の増加と1096人増加しているが、それでも転入者数は19年に比べて20年は1万9538人も減少している。

つまり、東京圏と各都県で共通して言えるのは、4月7日に政府が緊急事態宣言を発出し、都道府県間の移動自粛が要請されたことで、転入者数も転出者数も減少しているが、転入者数の減少数の方が大きく、東京圏の転入する数が減少したということだ。

この傾向は、東京圏の東京特別区と政令指定都市の横浜市、川崎市、さいたま市、千葉市でも同様の動きとなっている。

人の移動を詳しく見てみると

例年、4月から5月にかけては進学、就職、転勤・転職などの理由により人の移動が活発化すると前述した。そこで、対象年齢となる進学の15~19歳、就職の20~24歳、転勤・転職の25~39歳の東京圏における年齢別の転入超過数をまとめたのが【表2】だ。

【表2】
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特に大学進学の対象となる15~19歳では、4月に転入数が激減していることは明らかだ。20年4月を前年同月比で見ると埼玉県で203人、千葉県で1139人、東京都で3494人、神奈川県で502人の減少となっている。東京都は前年同月比70%以上の大幅減少だ。

新型コロナの影響で、入学式を取りやめる、もしくはリモート化した大学も多かった。だが、15~19歳に最も影響を与えたのは、間違いなく授業のリモート化だ。多くの大学でリモート授業が増加したことで、大学進学にあたって東京圏に居住地を移さなくても済んでいる可能性は高い。

全国には約780の大学がある。このうち約140の大学が東京にあり、日本全国の大学生の約2割が東京都に集中している。東京圏の場合には約4割の大学生がいる。大学進学にあたって東京圏に居住しないことは、東京一極集中に大きな影響がある。

次は人口移動で就職が多いと考えられる20~24歳だ。東京圏、特に5月の東京都の20~24歳の転入超過数は前年同月比で1786人(56.6%)も減少している。

東京圏には大企業が集中しており、大量の新卒者を採用している。4月には就職が決定していることから、就職活動に新型コロナの影響は少なかったが、東京圏での集団研修を取り止め、リモート研修とした企業や東京本社採用後に勤務地へ赴任するのではなく、直接勤務地へ赴任する方法などが取られたことで、東京への転入が減少した。

最後に転勤・転職が多いと考えられる25~39歳だが、4月は各年代で多くの都県で転入超過数が減少している。特に、30~34歳の千葉県、35~39歳の東京都は転出超過に転じた。

この傾向は5月により鮮明になっており、東京都では25~29歳の転入超過数が3分の1以下に減少、30~39歳では転出超過に転じている。

これは転勤・転職における勤務地や転職先企業を選択する際に、新型コロナ感染を回避するために東京圏以外を勤務地として選択した可能性を示している。リモートワークや在宅勤務が、東京圏に居住し勤務する必要性を減少させている点も大きいだろう。

オフィス、大学…あらゆる場所で変化が

【表3】は東京都心5区(千代田区、港区、中央区、新宿区、渋谷区)のオフィス空室率の推移だ。

【表3】
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不動産業界や不動産アナリストの多くは当初、新型コロナが不動産市況に与える影響は少ないと主張していた。現在でも多くの不動産関係者は同様の主張をしている。

特に近年は東京都心のオフィス需要は非常に堅調で、空き室率は低下の一途を辿っていた。しかし、平均空室率と既存ビルの空き室率は2月から上昇を続けており、オフィス需要に陰りが見え始めている。

不動産関係者の中には、「今後は企業業績の悪化などを背景にオフィスの新規開設の抑制や解約の増加も予想される」との声も出始めた。また、東京圏への転入が減少していることで、東京圏の賃貸物件の空き室率が上昇し、家賃が低下するという変化も起き始めている。

東京は人と企業が集中することで利便性が高まり、経済性が高まって発展してきた。だが、新型コロナ禍ではこの“集中”が最大の弱点となっている。

大学進学にあたってリモート授業が標準化すれば、大学生が東京圏に居住する必要性はなくなる。地方から東京に出て来る大学生にとって、住居費や物価の高い東京圏に住む必要がないのは、仕送りをする親も含め、経済的負担を大きく削減することになる。

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知人の大学教授は、「最近の大学生は授業に出席するよりもリモート授業を好む。出席率は明らかにリモート授業の方が上で、新型コロナが発生しなくても、大学の授業はやがてリモート授業中心に変わっていっただろう」という。

少子化が進む中で、多くの大学は学生集めに“四苦八苦”している。リモート授業の標準化は、東京圏に進学できない事情を持つ地方の優秀な学生を獲得する武器にもなる。世界中から優秀な学生を集める手段にもなる。

また、近年普及し始めている社会人が大学で学び直す「リカレント教育」では、社会人にとってリモート授業は大きな魅力だ。社会人を学生に取り込むことで大学経営の安定化にもつながる。

就職にあたっては“新型コロナの回避”が一つの選択肢になるかもしれない。東京に本社を置く大企業でも、オンライン面接、リモート研修を経て、東京圏以外の勤務地への直接赴任という選択肢、あるいはリモートワークという選択肢があることが、学生が就職を決める上での条件となる可能性もある。

「東京一極集中」の終焉

言わずもがなだが、新型コロナの感染防止は人との接触を避けることが必須条件だ。人との接触が最も多い仕事はサービス業で、人が集中し人口密度の高い東京・東京圏ではサービス業がもっとも多く、新型コロナで最も影響を受けたのは、飲食業を中心としたサービス業だ。

新型コロナは“人が多い”という東京圏でのサービス業の優位性を“消滅”させてしまった。サービス業は東京圏以外にチャンスが広がり、また、新たなビジネスモデルが必要となっている。東京でサービス業に就く人は、必然的に激減するだろう。

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リモートワークの普及はビジネス環境を大きく変える可能性を示した。人や企業の物理的な距離に対する考え方に変化をもたらした。必要な会議や事務仕事はリモートワークで十分に事足りることがわかった。

パーソル総合研究所の「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」では、従業員のテレワーク実施率は20年3月調査の13%から20年4月調査では28%へと倍増した。東京都でのテレワーク実施率は49%、神奈川県は43%、千葉県は38%、埼玉県は34%となっている。

内閣府の20年6月の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、就業者の3分の1強がテレワークを経験し、東京23区では5割超の人の通勤時間が減少、そのうち7割超が「今後も減少した通勤時間を保ちたい」と考えている。

東京一極集中の弊害は、通勤時の満員電車に始まり、交通渋滞、物価・家賃の高さ、保育所や介護施設の不足等々があげられる。加えて、首都直下型地震などのリスクもしばしば取り沙汰される。

リモートワークを経験した人は、満員電車による出勤を回避し、物価や家賃といった生活コストが安く、生活環境が良い郊外や地方での居住を選択したいと考えるのではないか。実際、先の内閣府の調査では、東京23区に住む20歳代の約35%が「地方移住へ希望が高まった」と回答している。

今や“東京由来”という言葉が示すように、東京は新型コロナの“巣窟”となりつつある。何よりも、7月12日時点で日本全体の新型コロナ感染者数の36%を占める東京都、56%を占める東京圏に住みたくないと考える人は多いはずだ。

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これまで政府は東京一極集中を是正するために、Uターン、Iターン、Jターンなどを推進し、地方での仕事・生活を勧めてきた。あるいは、「首都機能の地方移転」も長らく検討してきたが、21年に京都府への移転を予定している文化庁を除き、遅々として進まない。

もちろん、緊急事態宣言が解除された5月25日以降、再び東京・東京圏に人が転入し、転入超過となる可能性は否定できない。

だが、7月8日に発表された政府の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)原案」では、「新たな日常」の実現の中で、「東京一極集中型から多核連携型の国づくりへ」が盛り込まれている。政府も新型コロナ禍が東京一極集中解消の“起爆剤”となると踏んでいるのだ。

新型コロナウイルスは、これまでくい止めることのできなかった“東京一極集中”を終焉させるための “千載一遇の機会”になるかも知れない。

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