【2024年物流問題】ドライバー不足で私たちの生活はどう変わるか? 不在時の再配達有料化の可能性も

注文すれば、欲しいものを欲しい時に届けてもらえる──そんな“便利が当たり前”の消費生活を一変させる可能性があるのが「2024年の物流問題」だ。政府が進める「働き方改革」の一環として、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が設けられることで、多方面に様々な影響が生じると懸念されている。

 労働者の健康維持や安全確保の観点からすれば、ドライバーの労働環境改善に議論の余地はない。だが、当のドライバーにとっては運べる荷物の総量や労働時間の減少が収入に直結し、事態は死活問題となり得る。

 慢性的な人手不足に悩む運送業界にとっても大きな痛手となることは避けられない。今後はドライバー1人あたりの走行距離が短くなるため、トラックの輸送能力が低下。長距離輸送が困難となり、物流全体に著しい影響を及ぼす懸念があるのだ。消費生活アドバイザーでファイナンシャルプランナーの丸山晴美氏の話。

「トラックドライバーの労働時間は全産業の平均に比べて約2割長い一方、平均年収は460万円ほどと全産業の平均より約1割少ないのが実情です。2024年4月以降、対象ドライバーの平均年収は最大で60万円程度減少すると予想され、さらなるドライバーの離職や不足が懸念されています」

 ドライバー不足や燃料費高騰などを理由に、すでに配送料の改定(値上げ)や、翌日配達・時間指定サービスの見直しを行なう運送業者も出始めている。宅配大手のヤマト運輸や佐川急便は、今年、個人向け宅配便の運賃を約8~10%値上げした。また、ヤマト運輸は今年6月に、四国4県と首都圏間などで配達される荷物の時間指定をこれまでの「翌日の午後2時以降」から「翌々日の午前中以降」へと変更している。

「今後、こうした動きは加速すると見られ、不在時の再配達が有料化される可能性もあるでしょう。人手不足により、すでに最近は時間指定通りに届かないケースも増えているようです」(同前)

コンビニに商品がない!?

 コスト増によりこれまで当たり前だった物流が停滞することで、街の景色はどう変わるのか。例えば野菜や鮮魚、肉類などの生鮮食品がスーパーの店頭に並ぶ時には、これまでより鮮度が落ちてしまう懸念がある。薬局では、医薬品が品切れになってから再入荷までに時間がかかり、必要な薬がすぐに手に入らなくなる恐れもある。

 コンビニの商品棚も、おにぎりや弁当などの入荷頻度が減ることで、今まで以上に空きが目立つようになるかもしれない。即日・翌日配送が売りのネットスーパーもこれまで通りとはいかないだろう。東日本の山間部に住む70代男性はこう不安を漏らす。

「最寄りのコンビニまで車で40分以上かかるので、日々の買い物にネットスーパーを利用する住民も多い。今は注文すれば翌日には届くが、2024年問題で配達に2?3日かかるとなれば、賞味期限の短い生鮮食品は買えなくなってしまうのではないか」

 一個人の生活に不便が生じるだけではない。前出・丸山氏が言う。

「消費量が小さい地方ほど厳しい現実がある。すでに地方市場では輸送コストが見合わないため一部の商品が配送されず、わざわざ近隣の中央卸売市場まで取りに行くケースも出ているようです」

 こうした状況が広がれば、配送コストのかかる地方ほど食品価格が上がるなど、大都市と地方の経済格差はますます拡大しかねない。

 愛媛県の特産品であるみかんなどの柑橘類は、およそ6割が首都圏に出荷され、その95%超がトラックで運ばれる。ドライバーが減って1便出せなくなるだけで打撃は大きく、農園主のなかには「農家をやめないといけなくなる」と焦燥感を募らせる人もいるほどだ。当然、首都圏の消費者も地方の特産物をこれまでのように買えなくなる恐れがある。消費者ができる対策は何が考えられるのか。

「例えばトイレットペーパーなどの生活必需品や市販薬など、買い置きできるものはまとめ買いをしてストックするように心がけます。注文回数を減らせば配送費用の削減にも繋がります。当日や翌日の配送を避けるなど、消費者側も『物流に負担のかからない』注文方法を考える時代がやってきました」(丸山氏)

「すぐに」よりも「確実に」

 大手通販サイトやネットスーパーだけでなく、地域ごとに独自の宅配網を持つコープ(生協=生活協同組合)を利用する手もある。流通ジャーナリストが言う。

「宅配サービスの選択肢を複数確保しておくことはリスクヘッジになります。生協の配達は週1回が基本ですが、『すぐに届く利便性』より、『決まった日に確実に届く』安心感から、高齢世帯が利用するケースが多い。各生協には生鮮食品から冷凍食品、惣菜や弁当まで数千品目の品揃えがあり、食品の調達手段として魅力が多いと言えます」

 ドライバーの長時間労働に支えられた便利さを手放すことができるか。問われているのは消費者の意識かもしれない。

※週刊ポスト2023年10月6・13日号

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