【3ナンバー車の販売過去最高!!】狭い日本 そんなにクルマの全幅を大きくしてどうする?

2018年の軽自動車を含む乗用車新車販売は、自販連の発表によると、総数で439.1万台。そのうち、いわゆる5ナンバー車といわれる小型乗用車は、131.2万台(前年比94.1%)の販売にとどまり、販売比率は29.9%と、自販連が統計を取りはじめてから、初めて構成比3割を割った。

 一方、3ナンバーの普通乗用車は158.2万台(前年比102.2%)でシェア36.0%と2年連続で過去最高を記録した。

 かつて日本は5ナンバー大国だったのに、なぜここまで3ナンバー車が増えたのか? モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する。

文/岩尾信哉
写真/ベストカー編集部 トヨタ ホンダ

現行アクシオを最後にカローラのセダンは5ナンバーが消える見込み ■なぜ5ナンバーが減ったのか?

 街中の立体駐車場で「3ナンバーお断り」の看板を見かけなくなって、どれほど経つだろうか。

 普通自動車(3ナンバー)と小型自動車(5ナンバー)の車両規定は、かつては小型車には全長:4700mm以内、全幅:1700mm以内、全高:2000mm以内という車両のサイズ規定と排気量:2000cc以下という枠が設定されていた。

 だが、1989年の税制改正を伴うボディサイズ規定の撤廃がきっかけとなって、その後3ナンバー車両は増加の一途を辿った。

 現在では、車両の対衝突安全性強化などグローバルな自動車メーカーの戦略が、全幅の拡大を後押ししていったという事情もあるが、カローラやシビック、国内専用モデルとして歩み続けてきた代表車種であるクラウンを例に挙げて、ボディサイズ、特に全幅拡大の流れがどうして生まれてきたのか探ってみよう。


 あえて昔話から始めさせてもらうと、十数年前のこと、某ドイツメーカーのエンジニアが主要車種のボディサイズが拡大し続けている理由についてメディアから訊ねられると「人間の体格は年々大きくなっているから」と答えたという話を聞いたことがあった。

 思わず苦笑せざるを得なかったが、対衝突安全性の強化や室内空間の拡大を前提にしていれば、そんな言い訳も致し方ないかと思えたものだ。

 現在に話を戻せば、5ナンバー車両が3ナンバーサイズへと移行していく流れはいまや止めようがない。

 前述の通り、新車販売台数のデータを見ればそれは明らかで、2018年では普通自動車は158万2828台、小型自動車が131万2626台と前年比で普通車は約2%増加したのに対して、小型自動車は約6%減少している。

 これに乗用軽自動車の149万5706台を合わせると、小型車の割合は3割をわずかに切ることになった(日本自動車販売協会連合会調べ:2019年1月)

 ちなみに、3/5ナンバー枠の自動車税の規定が排気量によることとなったのは1989年、すなわち平成元年の話。

 1988年に登場した日産「シーマ」は、セドリック/グロリア(Y31型)から派生した3ナンバー専用セダン(全幅は1770mm)として、いわゆる“シーマ現象”を巻き起こしたことが懐かしい。

■庶民の味方も3ナンバーに変化/トヨタカローラ

●歴代カローラのボディサイズ
■初代、1966年/全長3845×全幅1485×全高1380mm
■2代目、1970年/全長3995×全幅1505×全高1375mm
■3代目、1974年/全長3995×全幅1570×全高1375mm
■4代目、1979年/全長4050×全幅1610×全高1385mm
■5代目、1983年/全長4135×全高1635×全高1385mm
■6代目、1987年/全長4195×全幅1655×全高1365mm
■7代目、1991年/全長4270×全幅1685×全高1380mm
■8代目、1995年/全長4285×全幅1690×全高1385mm
■9代目、2000年/全長4365×全幅1695 ×全高1470mm
■10代目、2006年/全長4410×全幅1695×1460mm(日本仕様カローラアクシオ)。米国仕様のカローラセダンは全長4540×全幅1760×全高1465mm
■11代目、2013年/全長4360×全幅1695×1460mm(日本仕様カローラアクシオ)。欧州仕様は全長4640×全幅1780×全高1460mm
■12代目、2018年/全長4375×全幅1790×1460mm(カローラスポーツ)、中国仕様のカローラセダンは全長4640×全幅1780×全高1435mm

この10代目から日本と世界で袂がわかれた。日本国内仕様はカローラアクシオとなり、全幅1695mmの専用ボディを採用。日本以外では「地域最適化」のもと、米国仕様は全幅が1760mmとなった

 まずは5ナンバー車の代表例として、カローラから辿ってみると、カローラは1966(昭和41)年に初代が登場。

 全幅は初代カローラの1485mmから順を追って1505→1570→1610→1635→1655→1685→1690mmと確実に増加し続け、9代目で1695mmと5ナンバー枠いっぱいまで拡大した。

 日本市場の現行カローラアクシオ/フィールダー(プラットフォームしては10代目、外観としては11代目というべきか)の全幅は5ナンバー枠に収まる1690mm(ホイールベース:2600mm)となっている。

2018年11月、中国・広州モーターショーで発表された中国仕様は全長4640×全幅1780×全高1435mmだが、日本仕様のカローラセダンはそれよりも短く、狭い全長4495mm、全幅1745mm、全高1430mm、ホイールベース2640mm。全体的に小柄になるという。

 トヨタは、日本仕様のカローラセダンについて「日本のお客様や道路環境に合わせて最適化した専用仕様のセダンおよびワゴンを2019年内に発売する予定」と公表している。

 ベストカー本誌では、新型カローラセダンの日本国内仕様は、2019年夏頃と予想している。

1955年に登場した初代クラウンの全幅は1680mmと5ナンバー枠だった ■全幅1800mmを死守するこだわり/トヨタクラウン

 日本専用の高級車として1955年に誕生したクラウンは、いわば日本車独自の“おもてなし”という不変のコンセプトを具現し続けてきた。全幅は5ナンバー枠を使い切る1680mmからスタートした。

 2代目から5代目までは1690mmと5ナンバーを維持していたが、1979年の6代目から全幅1715mmの3ナンバー車両が設定された。

全幅1800mmまで拡大した14代目だが、15代目の現行モデルも全幅1800mmを死守している

 続いて1720→1745→1750mmと代ごとに拡大を続け、9代目から全車3ナンバーとなった。

 10代目のロイヤルシリーズでボディ構造をペリメーターフレーム式からモノコックボディに一新した際に、全幅は1760mmとなった。

 11代目で1765mm、“ゼロクラウン”として知られる12代目で1780mm、13代目で1795mmと確実に増加。2012年発表の大型グリルを採用した14代目で最大の1800mmに達した。

 とはいえ、現行モデルでは1800mmを死守して大幅な拡大を避けているのは、多少おおげさかもしれないが、クラウンのユーザーの社会的立場に配慮した「謙虚さ」の表われといえるだろう。

 こうして、クラウンは王者として生き残っているのは、全幅の変化を見ても推し量れるように、市場の動向やユーザーの変化を慎重に見極めてきたからに相違なく、ロイヤルシリーズの廃止も簡単な決断ではなかったはずだ。

 いまでは、クラウンの仮想敵は半世紀を経て、最近のTV CFでも感じられるように、ドイツ製の輸入車セダンが標的になっていることが見てとれる。

 それでも、全幅が1800mmにとどまっているのは、日本専用モデルの意地なのだろうか。

 たしかに都内の機械式駐車場などに入れる際には全幅1800mmのクルマはストレスなく入れることができるのだが、これが全幅1850mmとなると話は別。

 全幅の大きいクルマに対応したパレットを使う新しい機械式駐車場はまだまだ少ないし、コインパーキングでも駐車の時に神経を使う。

■紆余曲折を経たクラス変更/ホンダシビック

 対して、ホンダあるいは日本車の代表的なベーシックカーである(あった、というべきか?)シビックの寸法は、外的な要因に左右されているように思える。

 1972年に誕生した初代の全幅は1505mm、2代目が1580mm、3代目では3ドア:1630mm、4ドア:1625~1630mm、1987年登場の4代目でも全幅は3ドア:1670~1680mm、4ドア:1690mmとなり、5代目には1695mmとなって5ナンバー枠ギリギリのサイズとなった。

2005年に登場した8代目シビックは、日本では5ドアハッチバックが廃止され、4ドアセダンのみとなった(写真はタイプR)。ボディサイズは全長4540×全幅1750×全高1440mm

 節目となったのは、2005年登場の8代目から日本市場では4ドアセダンのみの設定となったことだ。

 全幅が1750~1755mmとコンパクトクラスといえなくなったことには、初代フィットがコンパクトな5ドアハッチバックとして2001年に登場したことを受けて、ボディサイズの拡大に踏み切ったことが窺われる。

 ちなみに、2001年に誕生したフィットは、全幅が1675mmと日本市場を特に念頭に置いていないかのような設定だったが、2007年の2代目では1695mmと明確に5ナンバーを意識したものとなり、2013年の3代目も変化していない。

 日本市場のラインナップから外れた9代目(全幅:1770mm)は3ドアの「タイプR」のみが輸入された。

 セダン/ハッチバック/クーペを共通のプラットフォームとして開発された現行の10代目では、全幅は1800mmに達していることを見ても、フィットの位置づけがシビックのミドルクラスへの移行を促したといえる。

 まさに5ナンバー、3ナンバーと、サイズに翻弄された代表的なクルマだった。

セレナはハイウェイスター、e-POWERハイウェイスターが全幅1740mmでそれ以外のグレードは1695mm ■ミニバンとセダンの5ナンバー攻防戦

 5ナンバーモデルの価値と位置づけが変わっていることは、たとえば全幅だけを見ても理解できる。

 コンパクトカーのヴィッツは1695mm、フィットのセダン仕様であるグレイスなどが数少ないモデルだが、忘れてはならないのは5ナンバーミニバンの存在だ。

 たとえば、売れ筋のステップワゴンやノア/ヴォクシー(一部は3ナンバー)、シエンタ、フリードは1695mmの全幅を保っている。

 すなわち、庶民の味方としての5ナンバーセダンの領域にコンパクトミニバンが入ってきたことで、5ナンバーモデルの位置づけが変わっていったのだ。

■グローバル化に伴い、全幅は1800mmを超えるのが当たり前に

 さて、今後、クルマの全幅はどのように変化していくのだろうか?

 もちろん、こうした全幅(ボディサイズ)の拡大は、グローバルな対衝突安全性強化とプラットフォームを含むボディの共通化によるもので、無駄なく数を作ることに傾注してきているためだ。

 こうしたことから、これからも世界で売るクルマはモデルチェンジするたびに大きくなるのは避けられない。特に日本車メーカーはそれが顕著だ。

 ただし、日本市場を重視した5ナンバーミニバンやコンパクトカーは全幅1695mmを今後も死守していくだろうし、クラウンも1800mmをそう大きく超えることはないだろう。

 でも全幅が拡大する一方かというとそうでもない。例えば、新型マツダ3。全幅を現行アクセラ1795mm→1797mmと若干の拡大にとどまっている。

 どうやら全幅1800~1830mmというのが指標となりそうだ。1800mmを超えていなければ日本市場を意識している、ということになるだろうか。

 欧州DセグメントのBMW3シリーズも先代の1800mm(日本仕様)→全幅1825mmと全幅を拡大したものの、劇的な変化ではなかった。

 欧州車と日本車のセダンの全幅を見ると、CクラスやBMW3シリーズ、レクサスISなどのDセグメントで1810~1840mm、Eクラスや5シリーズ、アウディA6などのEセグメントで1850~1885mm、その上となるとSクラスが1900~1915mm、7シリーズが1900mm、レクサスLSが1900mmという感じで、1900mm前後で落ち着いている。

■全幅一覧
●Cセグメント/ベンツAクラス:1800mm、VWゴルフ:1800mm(新型が2019年登場予定)、BMW1シリーズ:1765mm(新型が2019年登場予定)
●Dセグメント/ベンツCクラス:1810mm、BMW3シリーズ:1825mm、アウディA4:1840mm、レクサスIS:1810mm
●Eセグメント/ベンツEクラス:1850mm、BMW5シリーズ:1870mm、アウディA6:1885mm、レクサスGS:1840mm、レクサスES:1865mm
●Fセグメント/ベンツSクラス:1900~1915mm、BMW7シリーズ:1900mm、アウディA8:1945mm、レクサスLS:1900mm

 アウディがここに来て全幅が拡大傾向にあるが、突出しているのがボルボだ。XC40は全幅1875mm、XC60にいたっては全幅1900mmと、クラスを超えてきた。

 こうした例外を除けば、もう全幅の拡大は限界に来ているのではないだろうか。原点回帰ではないけれど、各メーカーは一度立ち止まって全幅をこれ以上拡大しないでほしいと切に願う。

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