【Z世代=インスタ消費は嘘⁉】

Z世代=インスタ消費は本当か?

 1996年以降に生まれた若者達を表現する言葉、Z世代。彼らはソーシャルネイティブとも呼ばれ、「Z世代と言えば、インスタ消費」の印象が強い。

 「“インスタ映えする場所や食べ物の写真を撮りたいから、行動を起こす”インスタ消費にフォーカスして、日本のZ世代の特性を見ていきましょう」セッション冒頭、こう語ったのは、ループス・コミュニケーションズ代表で、学習院大学の特別客員教授を務める、斉藤徹氏だ。

株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表 兼 学習院大学 特別客員教授 兼 イノベーションチームdot アドバイザー 斉藤徹氏
株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表 兼
学習院大学 特別客員教授 兼 イノベーションチームdot アドバイザー 斉藤徹氏

 同氏は、3年前にイノベーションを学ぶ学生のコミュニティ「イノベーションチームdot」を、同大学内に発足した。現在は、他大学のメンバーも含む160人規模に成長し、一部の機能を法人化。チームメンバーだった冨田侑希氏が代表を務め、Z世代が企業の課題解決や商品開発を行う「Z世代会議」や、イベントや会議の内容をリアルタイムに絵であらわす「チーム・グラレコ」などを事業として展開している。

 本セッションは、前半に斉藤氏の講演、後半には冨田氏とZ世代のディスカッションという構成で行われた。

株式会社dot 代表 冨田侑希氏
株式会社dot 代表 冨田侑希氏

Z世代大学生の消費行動は4タイプに分かれる

 まず語られたのは、Z世代に属する大学生の価値観・ライフスタイルだ。「みなさんの想像とはちょっと違います。学生は毎日忙しいのです」と斉藤氏。「大学はレジャーランド」というイメージは幻想で、Z世代の学生たちは講義にバイトにと、時間にもお金にも余裕がない。その背景にあるのは、年々減っていく可処分所得(お小遣い)だが、スマートフォンには月平均7,000円を惜しまない。

 そんなZ世代は、「つながり重視」「多様性に寛容」「インスタ消費」「シェア志向」といった特性があると言われている。斉藤氏は、「ソーシャルメディアによるつながりから、若者社会に新しいしきたりやしがらみが生まれている」と仮定し、大学の講義で「Z世代である君たちの特性を教えてほしい」と問いかけるアンケートを毎年実施している。

 アンケート結果からは、確かに「つながりと多様性」への共感度は極めて高く、Z世代共通の価値観であることがわかった。一方で「インスタ消費」や「シェア志向」については逆の結果となった。49の質問項目のうちでも際立って共感度が低く、4人に1人ほどの割合でしか存在しないことがわかったのだ。

 この結果は3,000人規模の調査「Z世代レポート」の結果とも通じるものだった。同調査において104の価値観や行動に対する調査をクラスター分析した結果、Z世代は「様子見フォロワー」「省エネペシミスト」「ソーシャルよいこ」「人生ガチ勢」の4つのタイプに分類でき、それぞれに消費特性が大きく異なることがわかったという。なお、これらのネーミングは『ファンベース』(ちくま新書)で有名な佐藤尚之(さとなお)氏によるもの。「シェア志向なのは『省エネペシミスト』、インスタ消費するのは『ソーシャルよいこ』、というように、同じZ世代でもその特徴は異なる」と斉藤氏。

当日の投影資料より(以下同)
当日の投影資料より(以下同)

 「SNSで人脈を広げるのは、ソーシャルよいこです。人生ガチ勢は、リアル中心に人間関係を作り、ソーシャル上で新しい自分を見つけることはしません。そして、省エネペシミストは本当に物を買わないタイプですが、ソーシャルよいこはショッピングが好きで、トレンドに敏感なのです」(斉藤氏)

Z世代はソーシャルよいこが多い

 4つのタイプをさらに詳しく見ていくために、セッションでは4タイプそれぞれの特徴を表す動画が披露された。斉藤氏いわく「イノベーションチームdotのメンバーは、ほとんどアドリブで簡単に撮影し、編集してしまう」そうだ。こんな些細なことからも、動画を日常的に撮るZ世代の素顔が見えてくる。

 動画からは、次のようなコミュニケーションタイプが見て取れた。まず、様子見フォロワーは、周りの顔色を気にしてしまい、自分で物事を決めるのが苦手なタイプだ。省エネペシミストは、一人の時間が好きで、自分なりのこだわりがある。ソーシャルよいこは、SNSの話題に敏感で「映(ば)える」ものが大好き。そして人生ガチ勢は、リアルな場を大切にし、盛り上げるための配慮に心を砕くタイプだ。

ソーシャルよいこの特徴を表す動画。その他の動画もYouTube上で公開されている。

 斉藤氏によると、これら4タイプはZ世代に限ったことではなく、たとえばY世代(1980年代初めから90年代半ばに生まれた世代)にも存在する。様子見フォロワーはZ世代、Y世代共に男性が多く、人生ガチ勢は両世代に一定数存在する。Y世代の女性は省エネペシミストが多い傾向があり、Z世代はソーシャルよいこが増えているそうだ。

インスタ大好きな「様子見フォロワー」と「ソーシャルよいこ」

 セッション後半では、dot代表の冨田氏とZ世代の4タイプを代表して登壇した4名の学生とのディスカッションが繰り広げられた。

セッションと同時進行で「dotグラレコ部」がグラフィックレコーディングを実施
セッションと同時進行で「dotグラレコ部」がグラフィックレコーディングを実施

 まずは、4タイプごとにInstagramの使い方を見ていく。ここで斉藤氏は、Z世代の基本的なInstagramの使い方を紹介。「投稿して24時間で消えるストーリーズは、日常的に使っています。LINEは相手に“返信が欲しい”と思わせてしまうと考え、ストーリーズでみんなに見てもらいたい気持ちがあるんです」と語った。

 様子見フォロワー・やまみほ(敬称略/以下同)は、週5時間ほどInstagramを使っている。その投稿写真の特徴は、記念日やイベントが多いことだ。「ストーリーズは、“今誰といるよ”を伝えるためのもの」(やまみほ)と話す。

様子見フォロワー・やまみほ
様子見フォロワー・やまみほ

 ソーシャルよいこ・えっちょのInstagramは、キラキラした写真が多い。様子見フォロワーとソーシャルよいこは、Instagramをよく利用するタイプだが、投稿内容は異なることがわかる。

 「ストーリーズは、友達にしゃべりかけるような感じで、毎日何気ないことを投稿しています。タイムラインには、イベントや、映えるお店の映えた写真を投稿します。また他の人の投稿を見たら、全員に“いいね”を押します。自分がされたら嬉しいから、みんなのもいいねしようと思うんです」(えっちょ)

ソーシャルよいこ・えっちょ
ソーシャルよいこ・えっちょ

 大学の授業がない時は、友達の映えるInstagram投稿を参考に、「ここへ行ってみよう」と予定を立てるというソーシャルよいこ。一方、Instagramを余り使わないのは、省エネペシミストと人生ガチ勢だ。

情報は自分で取捨選択したい「省エネペシミスト」と「人生ガチ勢」

 基本は「見るだけ」という省エネペシミスト・かえでは、自分のアカウントで投稿を行っていない。1日に1回アプリを開く程度で、友だちの投稿を見るだけだと話す。

 「他の人と比べて、フォロー数が少ないです。そんなに見たい人もいないし、仲がいい人しかフォローしないです。本当に“いいね”と思ったときしか、いいねもしません」(かえで)

省エネペシミスト・かえで
省エネペシミスト・かえで

 人生ガチ勢・そらもめったに投稿しないが、自分が大切な日だと感じる入学式などのセレモニー時には使う。このタイプの特徴は、「自撮り」が多いこと。また、リアルな人間関係を大切にしている分、情報のタッチポイントは外にあるのも特徴だ。

 「新しい情報は、人づてに聞いて知ることが多いです。その後に、それらをもっと知りたいと思いInstagramを見たりします。Instagramきっかけで動くことはあまりないですね」(そら)

Z世代は“自分に必要な情報が流れてくる環境”を作る

 続いて、彼らのInstagramの使い方に迫る。アカウントを使い分けているのは、省エネペシミストと様子見フォロワーの2人。それぞれ、リアルの人間関係とつながるアカウントと、趣味や好きな芸能人・公式アカウントをフォローするアカウントの2つを使い分けている。様子見フォロワー・やまみほにその理由を聞いた。

 「芸能人や公式アカウントは更新が早く、リアルの友達の投稿が埋もれてしまうので、アカウントを分けています。芸能人・公式用アカウントは、1日1回開くかどうかです。友達アカウントは、1時間に1回と、しょっちゅう見ます」(やまみほ)

 さらに彼女は、洋服の情報をInstagramで得ている。ワンシーズンしか着ないトレンドの服は安い通販で済ませたいと思う一方、どんな商品が届くかが不安というやまみほ。彼女がフォローしているブランドは、毎日InstagramからLIVE配信を行い、実際に着た様子や素材などの情報を発信しているという。このブランドを知った背景を聞くと、「たまたまインスタで見かけたインスタグラマーの服が、可愛かった。タグからたどって、公式アカウントをフォローした」(やまみほ)とのこと。

 この「たまたま見ていた」という流れが興味深い。冨田氏が「検索はしないの?」と聞くと、やまみほやえっちょは「あまりしない」と答えた。タイムラインに流れてきた写真に興味を持ち、タグをたどる。偶然の出会いが多いそうだ

 この会話を聞いていた斉藤氏は、「検索をしない子が増えてきた印象がある」と明かす。Z世代は自分に必要な情報が流れてくる環境を作るため、能動的に情報収集をする必要がない。一方、Y世代はGoogle検索が得意。Y世代に多いという省エネペシミストのかえでも、検索をするほうだという。「流れてくる情報量を狭めている分、興味があることは自分で調べなくてはいけないから」(かえで)と話す。

Z世代のインスタ消費は「InSDA」

 「Z世代=インスタ消費」「インスタ映え」のイメージを、最も体現しているソーシャルよいこ。さらに、えっちょのInstagram使いを聞いていくと、洋服やコスメ、友達のアカウントと並んで、#カフェめぐりやイベントなどをフォローしているという。

 「カフェやイベントが大事なのではなくて、映える写真や投稿できる写真が撮影できるかどうかです」と話す彼女の「映える」とは、ちょっと変わっていることを指す。現在、彼女たちの間ではソフトクリームが流行っているそうだが、形やお店の壁が可愛いといった、ちょっとした違いが「映える」に値する。「みんなが見たとき、“おっ?”って思わせたい。そんな映える物と一緒に、私がいるんだよということを伝えたい」(えっちょ)と語った。

 「統計結果を見ても、インスタ消費を本当にするのは、4人の1人のソーシャルよいこ」とまとめた斉藤氏。最後に、えっちょは「ソーシャルよいこのインスタ消費はInSDA(インスダ)」と場を和ませ、セッションを締めくくった。

 「私たちソーシャルよいこのインスタ消費の購買行動は、Interest(映える写真をソーシャルで見つけて)・Search(ハッシュタグやアカウントで検索をして)・Desire(映えている場所にいる自分を友だちに見せたくなり)・Action(お店へ行って食べると同時に投稿

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