政府の観光支援事業「Go To トラベル」が22日に始まる。新型コロナウイルスの影響が長期化し、東北各地の観光地は一様に苦境にあえぐ。感染拡大への不安を抱きながら、にぎわい回復にも期待を寄せる。警戒と歓迎。関係者の胸中は複雑だ。
全国で唯一、感染未確認が続く岩手県。「大幅な割引で利用者が増える期待はあるが、この時期の開始で良かったのか」。つなぎ温泉(盛岡市)の旅館「四季亭」の林晶子専務は戸惑いを隠さない。
4月末から休業し、6月3日に再開した。従業員全員が除菌用アルコールを持ち歩き、客との接触も最小限に抑えるが「ウイルスを持ち込まれたり、従業員が感染を広げたりする怖さは常にある」と打ち明ける。
岩手県雫石町の小岩井農場まきば園は15日、来場者の増加が見込まれる23~26日の4連休を前に、入り口にサーモグラフィーを設置した。
長沼淳観光部担当部長は「屋外施設で『密』とは程遠い。感染対策もしてきた」と強調。今月の来場者は例年の半分以下にとどまっており「『Go To』で東京が対象外になり少し残念だ」と言う。
日本三景松島で知られる宮城県松島町の松島海岸地区。18、19日の人通りはまばらで、松島湾で運航する2社の遊覧船も空席が目立った。
丸文松島汽船(塩釜市)は4月上旬から約2カ月の休業を経て再開した。定員を従来の3分の1に絞り、1便ごとに船内を消毒するが乗船率は前年比約1割。佐藤守郎専務は「期待の一方で、不安もある。始まる以上は対策を講じて迎えるしかない」と語る。
松島観光協会は今月、町内の宿泊施設などで使えるクーポン券を県内在住者向けに発売。用意した4750冊の約6割が売れた。勝股かおり事務局長は「クーポンに加え県の割引制度もある。施策はありがたいが、旅行客からの問い合わせに追われている」と明かす。
三沢市のホテル「星野リゾート 青森屋」は、QRコードを使って大浴場の混雑状況が分かるサービスを導入するなど「3密」回避に万全を期し、夏の予約は堅調という。担当者は「『Go To』は、例年需要が減る秋以降の宿泊予約につながればいい」と話す。
15日、仙台市内12ホテルでつくる仙台ホテル総支配人協議会が開いた定例会。各施設の売り上げは5月の前年比1割前後を底に回復しつつあるが、感染者の増加傾向でキャンセルも出ていることが報告された。
支配人の一人は「夏祭りの中止や夏休み短縮でレジャー客は少ない。『Go To』に期待している」と力を込めた。