「あの地所がワンルームマンションを手掛けるとは」――。あるデベロッパーの幹部はこう驚く。
三菱地所といえば東京・丸の内に多くのオフィスビルを保有し、「丸の内の大家さん」と称される総合デベロッパー大手。その手法は手堅く、”石橋をたたいても渡らない”とも言われてきた。マンションについては高価格帯、ファミリー世帯向けが中心。大手が相次いでワンルームなど小型マンションに参入する中、そうした動きとは一線を画してきた。
東京都心に年200~300戸を供給
その地所がいよいよワンルームマンションに参入する。12月15日、子会社の三菱地所レジデンスが来年1月に分譲販売を開始する「ザ・パークワンズ」の事業概要を発表した。今後、ワンルームや1LDKを中心としたマンションを年間200~300戸程度供給していく予定で、すでに港区や渋谷区など都内で複数の計画を進めているという。
第一弾物件となるのが、戸越駅徒歩6分の「ザ・パークワンズ品川戸越」(総戸数84戸)と秋葉原駅徒歩5分の「ザ・パークワンズ千代田佐久間町」(同27戸)。1戸当たり25~50平方メートル程度の広さで、品川戸越が2017年10月、千代田佐久間町は2018年2月の引き渡しを予定する。
丸の内に設置された品川戸越のマンションのモデルルーム。玄関はコンパクトな設計ながらも、ゆとりあるウォークインクローゼットや、通常のマンションより一回り程度大きく造られているキッチンや浴室が特徴的だ。共用部は品川戸越、千代田佐久間町の両物件とも内廊下で、高級感ある仕様となっている。
分譲価格は品川戸越の物件で2700万円台からを想定。他社の同規模物件と比べるとやや高めの価格設定だが、同社が展開する賃貸マンションの賃料水準を考慮すると、賃貸に出した場合に周辺の相場より1割程度高い賃料収入が見込める。すでに会員登録している約1300人に優先販売する予定で、会員のうち自己居住やセカンドハウス用で購入を検討している人はおよそ3割、残りの7割が投資目的だという。
今回、三菱地所がワンルームマンション事業に乗り出したのはなぜなのか。理由の一つが、マンション購入者のニーズの変化だ。
「販売すれば飛ぶように売れた2~3年前と比べ、物件によって売れ行きに大きなばらつきが出ている」(大手デベロッパー幹部)。今2016年度の大手不動産の中間決算では、分譲マンションの売れ行きが鈍化している状況がくっきりと表れた。三菱地所や野村不動産ホールディングスなどのデベロッパー各社は、期初に予定していた分譲マンションの販売戸数見通しを下方修正。特に苦戦しているのが、郊外に立地し、駅前や商業施設併設などといった特徴もないマンションだ。
一方で都心の物件は好調を持続する。単身者やDINKS(共働きで子どもがいない夫婦)の増加もあり、駅近のワンルームや1LDKのマンション需要は特に堅調だ。最近では三井不動産が白金高輪で、住友不動産も東麻布や中目黒で分譲を開始。東京カンテイの調査では、首都圏のワンルームマンション(専有面積30平方メートル未満)は年々値上がりを続けているにも関わらず、今年も8000戸レベルの供給が維持される見込みだ。
今後も都心部では単身者やDINKS世帯が増える見通し。マンション市場の頭打ちも予想される中、地所の参入はこれから拡大が見込まれる市場への種まきという要素もある。
投資目的や節税対策で市場拡大
さらに低金利の環境が追い風となり、投資目的や節税対策でワンルームマンションを購入する人が増えている背景も大きい。
もともと新築の投資用マンションは、「中古と比べて値段が高く利回りは低いので、昔は今ほどの人気はなかった」(ファイナンシャルアカデミー「不動産投資の学校」講師の束田光陽氏)。それが現在は都心の中古マンションも価格が高騰。以前と比べると、投資目線では都内の新築と中古の物件の人気の差が埋まりつつあるという。
こうした消費者ニーズや投資環境の変化に加え、デベロッパー側の苦しい事情もある。この数年、都心はまとまった土地の確保が厳しい上に地価が値上がりし、ファミリーマンション向けの大規模用地の仕込み自体が困難になっている。狭い土地で事業展開できるワンルームマンションはデベロッパーにとっても都合が良いというわけだ。
マンション市場全体の先行きを不透明感が覆う中、三菱地所は住宅事業に新たな収益柱を作ることができるのか。ブランド力以外で、どこまで他社物件と差別化できる戦略を打ち出せるかにかかっている。