あの半沢直樹や安倍首相も……日本社会を埋め尽くす“カエル男”ってナニ?

窪田順生の時事日想:
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 11月22日の「いい夫婦の日」の前日、安倍晋三首相がFacebookに奥さんとの仲睦まじい写真とともに、こんなコメントをアップした。
「家庭の幸福は、妻への降伏。」
これが我が家の夫婦円満の秘訣です。
 「アッキー」の愛称で知られる妻・昭恵さんはダイナミックな言動で知られている。
 例えば、せっかく夫の「中韓に対してビシッともの申すキャラ」がウケ始めた矢先、その足を引っ張るかのように韓流スターの追っかけをしていたのは有名だし、工作員と目される中国人演奏家と連れ立って何度も北京詣をしていたことも『週刊文春』によって明らかにされている。
 再びファーストレディになってからもイケイケは変わらず、夫が関係各位の顔色をうかがいながら進めていた消費税増税や原発再開にキッパリと「ノー」を表明。「意見を言っているが、ぜんぜん聞いてもらえない」なんて公衆の面前でボヤく始末だ。
 そんな“自由過ぎる妻”にニコニコしながら白旗を振る安倍さんを見ていたら、「カエル男」という言葉が頭に浮かんだ。
●奥さんに支配され、搾取されている男
 「カエル男」とは、大阪大学大学院経済学研究科准教授の深尾葉子さんが著した『日本の社会を埋め尽くすカエル男の末路』(講談社α新書)のなかで紹介されている概念で、一言で言えば、「奥さんにカネも決定権も支配され、経済的にも搾取されている男」のこと。本コラムで以前紹介した『日本の男を喰い尽くすタガメ女の正体』でも詳細に論じられている。
 カエルはタガメに捕食されるのだが、この食われ方が目を覆いたくなるほどエグい。まず、物陰に身を潜めたタガメがガバッとカエルの背中に飛びかかり、瞬時に前脚で挟み込んで自由を奪う。次に、長い嘴(くちばし)をプスッと刺してチューチューと血肉を吸う。逃れようと必死にもがくカエルだが、やがて観念してぐったり。骨と皮だけの亡骸になってしまうというわけだ。
 この哀れなカエルの姿が、財布のヒモと家庭のイニシアチブをガッチリと握られ、30年住宅ローンをひとり背負うハメになる世の男たちに丸かぶりだ、と深尾さんは言う。
 愛する家族のために一生懸命働いてなにが悪い、とカチンとくる人もいるかもしれないが、本書は、サラリーマンをこきおろそうなどという主旨ではない。読んでいただけば分かるが、「夫婦の絆」などの美しい響きでうやむやさにされてきた「搾取と支配の構造」が引き起こすさまざまな社会病理にある。
 例えば、本書で「攻撃型カエル男」と位置付ける「半沢直樹」なんか分かりやすい。
●半沢直樹の内面
 ドラマをご覧になっていた方は分かると思うが、半沢は専業主婦と子どもを養うエリート銀行員。しかも妻・花には頭があがらないという設定で、典型的なカエル男。さらに、「倍返し」をモットーとしており、自分に不条理なことをした上司や常務に対し、地獄の果てまで追いつめて土下座を強要する。「ドラマなんで」と言ってしまえばそれまでだが、日常が不条理だらけのサラリーマンからすれば、理解に苦しむパーソナリティだ。なぜ半沢直樹というカエル男はここまで激しい攻撃性があるのか。
 その謎を解くカギが、不良債権の責任を押しつけた浅野支店長に、不正を追及する匿名メールを送るというくだりにある。ここで半沢は差出人を妻の名前である「花」にしている。脅迫メールになぜ愛妻の名を使うのか、不思議でしょうがなかったが、原作本を読んで納得した。
 半沢は差出人の名前をどうしようかと考えたとき、ふと妻の名前が浮かんで、思わずほくそ笑んでしまった。普段いいたいことをいって、白黒はっきりつけないと気が済まない性格。事件が進展していくと、半沢に対して同情というより叱咤してきた妻に、一矢報いるチャンスだったようにも思える。まさに、支店長の浅野を糾弾するのにこれ以上の名前はないではないか。(『オレたちバブル入行組』文春文庫、244ページ)
 半沢の内面には、常日頃から妻に虐げられている怒りがマグマのように煮えたぎっている。その抑圧された怒りが、「やられたら倍返し」という“過剰防衛”につながっているのではないか、と深尾さんは考察する。
 「半沢直樹」はサラリーマンのファンタジーなので、怒りは「クソ上司」に向けられたが、現実社会の半沢たちは、そんな真似をしたら即クビである。そこで、怒りのはけ口は、もっぱら「自分よりも立場の弱い者」へ向けられることになる。
●いいオトナがパワハラをする理由
 なぜ日本社会では、いいオトナがパワハラやイジメをするケースが後を絶たないのか。なぜタクシー運転手や鉄道の職員たちが、酔ったサラリーマンたちに殴られる事件が年々増加しているのか。
 半沢直樹のようにふるまえぬ「カエル男」たちが、歯向かってこない弱者に「八つ当たり」している、と考えれば合点がいく。
 政財界を見渡すと、「力」を誇示して攻撃的な人間ほど、恐妻家の印象が強い。その代表は、「防衛庁の天皇」と呼ばれた守屋武昌・元事務次官である。庁内では自分に楯突く者を島流しにするなど強権を誇ったコワモテの守屋さんも、奥さんからは「坊や」なんて呼ばれてコケにされていた。だから、山田洋行のゴルフ接待やら貢ぎ物は奥さんがターゲットだった。
 カエル男が「国家権力」を握るととんでもない暴走が始まる、ということを守屋夫妻は我々に教えてくれた。
 そういえば、アッキーに「降伏」している安倍さんも、自分を批判する者には半沢直樹ばりの「倍返し」をしている。
 日本で最も力をもつ「カエル男」が暴走をしないことを祈りたい。
[窪田順生,Business Media 誠]

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