欧米の敬虔なクリスチャンが食事の前にお祈りをするシーン、映画やテレビで見たことがあるだろう。日本では手を合わせて「いただきます」という言葉を唱える。
宗教に関わらずこうした「食事儀礼」は共通――と思われがちだが、実は日本国内でも地域によって微妙な差異が存在する。
Jタウンネットでは2015年2月24日から3月16日までの21日間、ご飯の前に「手を合わせて『いただきます』」、普段からする?というテーマでアンケートを実施したところ、1039の投票数があった。
選択肢は以下の4つ。
(1)合掌して「いただきます」と言う
(2)「いただきます」と言うが合掌しない
(3)合掌するが「いただきます」は言わない
(4)どちらもしない
その結果をまとめたのが下の表だ。
「いただきます」は言うけど合掌しない東北人
全国的にみると(1)~(3)の合計、つまり何らかの食事儀礼を行う人の割合は93.8%に達する。
職場や外食先で食事をしている人の姿を見る限り、「そんなに多かったのか……」という気もするけれど、シャイな日本人のことなので、家庭でのみ実践しているケースも多々ありそうだ。
日本地図で赤系に塗ってある都道府県は (1) の「合掌して『いただきます』と言う」の得票率が一番だった地域だ。全部で37都府県ある。得票率が高いほど赤が濃い。中国地方の5県の実施率はいずれも85%を超え、福岡も80.8%に達する。
一方で、(2)の「『いただきます』とは唱えるものの合掌をしない」に投票した人が多かったのが東北地方だ。
上の日本地図で青色の5道県(北海道、岩手、宮城、福島、秋田)は、(2)の得票率が50%を超えた。
また山梨と徳島は(1)と(2)が50%ずつだった。
寺数が多いのに「どちらもしない」が目立つ愛知
「いただきます」のときに手を合わせる風習は、浄土真宗の教えと共通し、そこに由来を求める説もある。
NHK放送文化研究所が1996年に実施した「現代の県民気質-全国県民意識調査-」によると、浄土宗・浄土真宗の信者が多いのは北陸・西日本・青森・香川など。北関東・福島・香川以外の四国などは天台宗・真言宗系、岩手・宮城・秋田・山形の東北4県は禅宗系がそれぞれ強い。山梨の多数派は日蓮宗系。
青森を除く東北地方で(1)の得票率が低く、西日本に多い点を見れば、宗教・宗派の影響は皆無ではなさそうだ。たとえば、得票率が92.3%に達した広島県は、「安芸門徒」という言葉があるほど浄土真宗の信者が目立つことで知られている。
下の表は、(1)と(2)の得票率で上位に入った県と、人口数の多い東京・神奈川・大阪・愛知・埼玉の各都府県の傾向をまとめたもの。
大都市圏ほど「どちらもしない」に投票する人が増える傾向にある。それはある程度納得できるにしても、日本一お寺の数が多いといわれる愛知で、「どちらもしない」の得票率が17.1%もあったのは少々意外だ。
ちなみに、「どちらもしない」の得票率が高かったベスト3は、愛媛が100%、福井が40%、山形と大分が33.3%。いずれの県も投票数が1ケタだった点は考慮しなければならない。
ただ愛媛や山形、大分はともかく、福井は浄土真宗の信者の割合がとりわけ高い。同県における(1)の得票率は60%だったが、もう少し高くてもよさそうなもの。同様の傾向がある富山も決して合掌率は高くない。
ところが石川は85.7%で全国有数の高水準と、同じ北陸でも微妙に温度差がある。浄土真宗だけではなく、別の何らかの要因がありそうだ。
「いただきます」は案外新しい習慣
そもそも日本の「古き良き伝統」と思われがちな「いただきます」の挨拶だが、篠賀大祐さんの『日本人はいつから「いただきます」するようになったのか』によれば、この習慣が全国的に広まり始めたのはせいぜい大正~昭和初期で、一般化したのは戦後に入ってからの話だという。
特に戦後の普及については、学校教育の成果によるものという説もある。食事マナーについてのしつけが保育園や幼稚園、小学校などで広く行われてきたことを見ると、確かにうなずける説明だ。
「合掌」に見られる地域差についても、元々の宗教・宗派的な風土に加え、こうした教育現場の取り組みの違いが、色濃く影響を及ぼしているのではないだろうか。