「増税」という名のナイフで突き刺される日本経済
気息奄々たる日本経済に、政府・与党はいま、最後のとどめを刺そうとしている。
殺害に使用する凶器は――増税という名のナイフである。
最初の一撃は、東日本大震災の復興予算捻出のための増税である。総額は13兆円で、とりあえず復興債を発行して調達し、2013年から行う増税によって25年間かけて償還しようという計画である。増税の中身は、所得税の増税に加え、たばこ税、個人住民税、法人税も上げる。
それだけではない。第二撃がある。
それは、「社会保障と税の一体改革」による、消費税の増税だ。これは、消費税をいまの5%から10%に段階的に引き上げるというものだ。2014年に12%引き上げて8%にし2015年にさらに2%引き上げて10%に持っていく。
大和総研の試算によると、年収500万円の標準世帯(夫婦と子供2人)では、これによって可処分所得が年間約31万円も目減りする。月額平均では2万5833円の減である。
だが、これだけで済むわけがない。2012(平成24)年度予算で見ても、歳入と歳出の基礎的財政収支(プライマリーバランス=公債発行を除いた収入と、債務に関わる元利払いを除いた支出の収支)は20兆円以上の赤字になっており、新発国債を44兆円も発行する計画になっている。今回の消費税増税による税収増は、約10兆円であり、これだけでは到底足りないのだ。
しかも民主党政権では、公的年金の一元化と最低保障年金の創設が念願であり、これを実行するとなると、さらに巨額な財源が必要になる。そのため、ナイフによる第三撃、第四撃が用意されており、日本経済は、これでもか、これでもか、という具合に何度も突き刺される。
具体的には、所得税と相続税の最高税率の引き上げ、証券優遇税制の廃止に加え、新たに消費税を7.1%引き上げ、17.1%にする案が検討されている。
増税に関しては、経済学にフリードマンの「恒常所得仮説」という定説がある。これは、消費は将来を含め長期的な所得予想によって決まる、というものである。すなわち、政府が増税の動きをするだけで、国民は将来の所得の減少を見込んで財布のひもを締めるから、消費が落ち込み税収が落ちる。実際に増税をすれば、消費はさらに落ち込む、というわけだ。
かくして、政府が増税をすると税収が落ち込み、落ち込んだ分をカバーしようと、政府はさらに増税を重ねる。このようにして、増税と税収減の悪循環に陥り、経済は奈落の底に落ちていく。
たとえ将来の増税とはいえ、先に増税という重石を置いておくのは、線路の先に石を置いて電車を走らせるのと、同じようなものなのだ。石があると知っていたら、運転手はスピードを緩めて注意しながら電車を走らせる。知らなければ、いつものスピードで電車を走らせるから、石に乗り上げて脱線する。
いま、政府がやろうとしていることは、線路の先にいくつもの石を置き、そのことを声高に知らせて注意を促しているようなものなのだ。だが、経済という電車は、スピードを緩めることはできでも、止めることはできない。前方に置き石があるとわかっていれば、急ブレーキをかけるが、止まらずにそのまま走りつづけ、最後は脱線転覆する。
殺害のシナリオは、かくして完結する。ウタリン抜け首相は、このシナリオを「不退転の決意」で実行しようとしている。しかし、空にはハゲタカが舞っており、惨劇はこれだけでは終わらない。