いま見られている動画とは? トレンドに見るYouTubeの今

Googleの調査分析サイト「Think with Google」は2021年8月、2020年の「YouTubeトレンドレポート」を公開した。オリジナルは2021年6月にYouTubeの公式ブログの中で公開された調査報告である。

 コロナ禍で多くの活動が制限された中、日本人が「動画」に求めたものとは何か。そこでは、「リアルタイム性」(Immediacy)「インフォーマル感」(Informality)「没入体験」(Immersiveness)の 3つのキーワードで分析している。

 YouTubeは、われわれ市民にとって最も身近なクリエイティブプラットフォームとなった。誰でも無料でアップロードでき、多くの人が手軽にスマホやテレビから接触してくる。

 YouTube上での収益化はハードルが高いが、筆者はnoteにYouTubeの動画を埋め込むことで、有料コンテンツを配信している。YouTuberほどもうかるわけではないが、気軽に有料コンテンツを始められる方法として、2つのプラットフォームを組み合わせている。埋め込み用動画を置いておく場所としても、YouTubeは使い勝手がいい。

 一方で、YouTubeに上げる動画を撮影する機材には、幅広い選択肢がある。スマホだけで完結することもできるし、テレビや映画と変わらない規模のシステムを組むケースも出てきている。

 今回はYouTubeのトレンド分析を元に、今クリエイティブツールとしてどんな映像機器が求められているのか、その背景を考えてみたい。

●「リアルタイム性」を生かす

 トレンドの1つ目として、「リアルタイム性」が挙げられている。YouTubeはもともと完成動画をアップロードして共有するサービスだったが、2009年頃から盛り上がったUstreamブームにつられ、YouTubeもライブ配信プラットフォームを立ち上げるに至る。

 Ustream全盛時代は一時サービスが低迷したが、ゲーム実況やVTuberの台頭もあり、リアルタイムコミュニケーションプラットフォームとして復活した。コロナ禍となって多くの公演が中止あるいは開催不可能となってからは、アーティストの発信の場として無観客ライブなどが多くの視聴者を集めている。

 こうした現代の「ライブ」は、Ustream時代の「ライブ」とは全然違う。昔は素人のたどたどしさ、段取りの悪さみたいなものが生っぽいという評価だったが、今そんなことをやってたら人は離れていく。ライブの中でも、視聴者のコメントを上手に扱う現場回しや、企画・構成力が求められる時代になった。

 機材のオペレーションも、大きく変わった。Ustreamやニコ生全盛の時代にも、公式チャンネルやスポンサーが付いているものはスイッチャーを使ったマルチカメラ中継はあったが、今は個人に近い配信者でもスイッチャーを使い、複数のソースを扱うようになっている。

 リポートで言及されているまふまふ氏のライブぐらいのクオリティーになると、テレビ中継クラスの機材が必要になる。

 音楽のマルチカメラ中継は、映像と音声の同期がシビアなため、アマチュアにはなかなか難しいところだ。その一方で、テレビの世界でも音楽の生中継といった仕事は年末ぐらいしかない。しかしYouTubeでライブ中継ビジネスが増えるのであれば、テレビ系技術会社も営業先を変えていく必要がある。

 もちろんこうしたプロレベルでなくとも、同じ時間を共有できるというライブの魅力は変わらない。同じ場所が共有できない以上、時間の共有が大きくクローズアップされる結果となったということだろう。同様の現象は東日本大震災直後でも発生しており、個人の発信者の増加につながった。

 ライブ配信はどうしても長時間になるし、加えて視聴者とのコミュニケーションも考えれば、PCで配信というのがスタンダードになってくる。そうなるとカメラは、PCに直接つないで収録するならUSB接続可能なもの、あるいはスイッチャーを経由してUSB接続ということになる。

 幸い昨今のカメラは、リモート会議需要も手伝って、USB接続できるものが増えており、今後この機能はスタンダードになってくるだろう。また複数ソースを扱えるスイッチャーも、入門クラスの製品がいくつかある。ただ、普段ソフトウェアで画像合成や動画編集ができるという人でも、ハードウェアスイッチャーには独特のセオリーがあり、それをつかむまで多少の時間はかかるだろう。

●「インフォーマル感」とは何か

 2つ目のトレンドとして、「インフォーマル感」がある。インフォーマルとは、フォーマルの逆で、公式ではない、形式張っていないといった意味がある。つまり、素の姿を見せたり、自然体であったりといったことがウケる時代となった。

 代表的なものとしては、タレントのメークアップ動画や、チャンネル総視聴回数10億回を誇る「THE FIRST TAKE」が挙げられている。昨今はInstagramでも海外セレブが加工なしの姿を見せて称賛されている流れもあるが、これまで作品として作られた姿と、ありのままの姿のギャップであったり、セレブにもリアルな日常があるという事実への気付きが注目されているということだろう。

 そもそもインフォーマルな姿を大人数の撮影スタッフが撮るというのもおかしな話なわけで、日本でも流行ったリアリティー番組も、実は台本なきドキュメンタリーではなく、台本ありの進行構成に基づいている。演出された姿をリアルだと勘違いして出演者への誹謗中傷に走った人も多く、「テラスハウス」は出演者の自死という形で終了を迎えた。事実関係を曖昧にしたままのコンテンツ制作は、視聴者をだます結果となり、コントロール不能となるという問題がある。

 こうした反動もあり、視聴者は本物のインフォーマルを求めるようになった。THE FIRST TAKEの一発撮りは、演出の要素を限りなく排除する制作方法であり、すっぴんから始めるメークアップ動画も同様である。

 こうした動画の特徴は、プロの撮影者・制作スタッフの存在を限りなく排除することである。本人が自分で撮るプライベートショットは、一種のセルフィーではあるが、一瞬で終わる写真と違い、手持ちでは成立しないため、固定カメラとなる。

 これまで「三脚」というものは、そこそこ写真が好きな人でも、長時間露出以外ではそれほど使うものでもなく、また話題になることも少なかった。それがデジタルカメラにせよスマートフォンにせよ、動画撮影のために三脚やスマホスタンド的なものを多くの人、あるいはタレント自身が当たり前に使うようになったというのは、セルフィーがまだ写真だった3〜4年前では考えられなかったことである。

 また先日発表されたDJIのスマホ用ジンバル「OM 5」は、ジンバルヘッドがロッドで伸び、フェーストラッキングや、ジェスチャーによる撮影の開始・停止といった機能がある。これは他者を撮影するためというより、一人で自分を動画撮影するための機能であり、単純な固定カメラから一段ステップアップするための機能でもある。

・ヒッチコック風ズームがスマホで撮れるジンバル DJI、「DJI OM 5」を発表

 緊急事態宣言で外に出られない反動もあるだろうが、インフォーマル感を感じさせるコンテンツからは、自宅撮り、固定カメラ、自己完結といった要素を感じさせる。

●環境をそのままに。「没入体験」

 3つ目のトレンドは、「没入体験」である。川の流れ、波の音など、自然の音や映像に人気が集まった。もちろん、長期化する外出自粛の代償として、今は行けない海や山の映像をみてリラックスしたいということなのだろうが、短いコンテンツを次々にサーフィンしていくこれまでの視聴スタイルではなく、環境映像として利用されるというところもまた、YouTubeの新しい一面であろう。

 上記2つは、対象が「人」であった。一方自然の映像では、むしろ人の気配を排除することが前提であり、視聴者が「自分以外(撮影者すらも)誰も居ない」と感じさせる。自然の収録というのは、カメラをいいアングルでセットしたら終わりではなく、その構図に合う音をどこで拾ってくるか、ということが勝負になる。カメラが向いている方向や、カメラを設置した位置が必ずしもいい音が録れるポイントとは限らないからである。

 例えば小川のせせらぎや滝のような水音であれば、マイクはカメラよりもさらに水の近くに設置すべきだし、鳥の声を拾うならマイクだけは上を狙うべきだ。複数カ所にマイクを設置してマルチトラックで集音し、あとでミックスするという方法もある。多くの人が自然の撮影に挑むのは歓迎したいところだが、カメラばかりにお金をかけるのではなく、マイクやレコーダーといった録音機材にも注力してほしいところだ。

 またソロキャンプ動画の人気も、トレンドとして分析してみると面白い。これは段取りされたロケとは違う、生のキャンプを疑似体験することで、没入体験1つとしてカウントできるだろう。さらに山の中で一人というプライベート空間の中で生存活動の様子を見せることは、上記のインフォーマル的な要素もある。

 こうしてみるとソロキャンプ動画の人気は当然のように思えるが、実はキャンプブームのほうが先に起こっている。2013〜15年頃から徐々にキャンプ人気に火がつきはじめ、「ソロキャンプ」がバズワードとなったのは2019年頃といわれている。さらに2020年には「ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10に入ったことで、一般名詞として定着しつつある。

 もともとブームだったところにコロナ禍になり、「やる」だけでなく「見る」方にも火が付いた、ということだろう。

 こうしたコンテンツ制作では、どんなカメラを使うのかといったことに注目が集まりがちだが、実はコンテンツのクオリティーを決めるのは「集音」である。どんなにしゃべりがうまくても、どんなにいい場所に行っても、音が遠い、周囲の音が邪魔でよく聞こえないとなれば、それはダメなコンテンツの烙印を押される。

 今後は、いかに目立たずちゃんとした音を撮るかということが、より注目されていくように思う。現在は廉価でワイヤレスマイクも手に入るようになり、単一指向性マイクやガンマイクの価格も下がっている。またデジタルカメラ自身もVlog用途として内蔵マイクに力を入れる傾向がある。

 かつてビデオカメラが全盛の時代には、各社とも内蔵マイクの開発で高い技術を誇ったものだが、デジタルカメラが主力になった際に、音声技術やノウハウが軽視されることとなった。今さらながら、マイクを再発明しているような状況になっている。

 ただ、当時のビデオカメラでの集音のメインはステレオ感の強い環境音であったが、今はしゃべりがメインになったという点で、大きな違いがある。マイクの設計やノウハウも自ずと変わってくるため、再発明も致し方ないところだろう。

 今YouTubeを見ていると、「動画編集で副収入」みたいな広告が多い。それほど誰でも編集ができるようになったのか、それほど需要があるのかと、テレビ編集マンとして37年前にキャリアをスタートさせた筆者としては、ビックリである。

 動画クリエイターとして食っていくために暗中模索の人も多いと思うが、まずは合法であること、社会通念に反しないことは大前提だ。2021年6月には、「ファスト動画」の制作で初の逮捕者が出ている。調べたところ、YouTubeの請負編集は1本あたり3000〜5000円程度だというが、ただの技術貸しで逮捕されたりしたら割りに合わない。

 トレンドとは結果として出来上がるもので、出来上がった時点で同じことをやっても遅い。やるなら「その次」か、「全然違うもの」だ。多くの人が自分でコンテンツを作り始めた今、「狙って当てる」のは、砂漠で井戸を掘り当てるに匹敵するむずかしさがある。

 そもそもいくら狙っても、自分で作っていて面白くなければ続かないだろう。自分が面白いと思うものを作り続けていくことに、クリエイターとしての幸せはあるんじゃないかと思う。

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