仙台市内でおにぎり専門店が増えている。コロナ禍を経て価格帯がやや高めの食品も売れるようになり、握りたてを提供するといった新業態の出店も相次ぐ。全国的なブームを背景に、市民の「おにぎり関連」の支出額も上昇傾向が続く。(経済部・樋口汰雅)
握りたての提供や移動販売も
鮮魚店やすし店を展開する仙令平庄(千葉県)は今年1月、太白区のJR長町駅の複合商業施設テクテながまち内に、同社初のおにぎり専門店「魚々(とと)むすび」を開業した。注文を受けた後に店員が握り、出来たてを提供するのが特徴だ。
具材が並ぶ大きなガラスケースがある店内は、すし店のような雰囲気。自社工場で加工を手がける「汐(しお)ぶり」(300円)など27種類を提供する。ウニやイクラを使った店内飲食限定の商品や、食べ比べが楽しめる小サイズも用意する。
広報担当の菊池瑞穂さん(36)は「気軽に立ち寄れる店を目指した。『魚のプロ』である強みを生かしたい」とアピールする。
市内を軽ワゴン車で移動販売する「ばぁばのおにぎり屋」は2022年4月にオープンした。店長の庄司昌雄さん(46)がテイクアウト専門で営業。平日の2日間は早朝から青葉区のアエル敷地内に店を構え、週末はイベントに出店する。
宮城県産ササニシキを使用し、ふっくらとした食感を追求。1個200~350円の商品を日替わりで約15種類そろえ、1日700個を売り切る日もある。庄司さんは「ご飯がおいしいと褒められることも多い」と胸を張る。
5月下旬に初めて来店した泉区の50代パート従業員女性は、東京の専門店でおにぎりのおいしさを知り、仙台市内の専門店も巡るようになった。「店それぞれに味があり、違いを食べ比べるのも楽しい」と話す。
支出額は県都・政令市で6位
専門店の相次ぐ出店が後押しする形で、市民の関連消費額は増えている。
仙台市の赤飯などを含む「おにぎり・その他」の年間支出額(1世帯当たり、2人以上世帯)の推移はグラフの通り。物価上昇の影響もあるが、23年(6906円)の支出額は14年比で約50%増加した。
総務省が調査対象とする都道府県庁所在地と政令市の計52自治体の中で6位、東北6県ではトップの金額となった。
市内ではおにぎり専門店を集めたイベントも開催されている。泉区の仙台泉プレミアム・アウトレットでは6月15、16日、県内11の専門店が出店する「みやぎおにぎりフェスタ」が初めて開かれた。アウトレットの担当者は「家族連れを中心に、幅広い年代のお客さまに来場してもらった」とにぎわいを振り返った。
薄利多売からプチぜいたくへ
国内外でおにぎりの消費拡大を目指す一般社団法人おにぎり協会(神奈川県)の中村祐介代表理事(48)によると、専門店は全国的に増加傾向にある。「コロナ禍で制限された娯楽に代わり、通常より食事にお金をかける『プチぜいたく』の広がりなどが新規開業を後押しした」と分析する。
おにぎり専門店はかつて「薄利多売」の業態が多く、個人で開業するにはハードルが高かった。中村さんは「中食」需要の高まりも出店につながっていると説明。今後の消費拡大について「味はもちろん、『ここでしか食べられない』という専門店の独自性も重要になる」と指摘する。
おにぎりは海外でも知られた日本食の一つで、インバウンド(訪日客)の人気も集める。英国などで広く使われるオックスフォード英語辞典は3月の改訂で、おにぎりをローマ字表記で加えた。中村さんは「おにぎりは今後、観光資源にもなり得る」と期待する。