お茶飲料の新機軸「太陽のマテ茶」 誕生の裏にある肉食化

昨年3月に発売され、国内の茶系飲料市場に新風を吹き込んだ商品がある。
 日本コカ・コーラの「太陽のマテ茶」だ。健康志向の強い消費者の心をつかみ、年間500万本を売り上げればヒットといわれる中、発売後2カ月で4千万本を超える販売を記録。緑茶やウーロン茶が席巻する市場に新たな分野を打ち立て、快進撃を続けている。
 「茶系飲料の市場を拡大するには、今までにないカテゴリーを創造することが必要だった」。マーケティング本部の竹井仁美マネジャーは、太陽のマテ茶の開発経緯をこう振り返る。
 全国清涼飲料工業会によると、茶系飲料は、国内清涼飲料市場全体の約4分の1を占める中核市場だが、近年は同種の商品の乱立やミネラルウオーターの需要拡大などで成長が鈍化している。既存カテゴリーの新商品で大きく販売を伸ばすのは難しい状況で、日本コカ・コーラは、全く新しい茶系飲料の投入を市場活性化の起爆剤にしようと狙いを定めた。
 キリンビバレッジの「午後の紅茶」、伊藤園の「お~い お茶」など、パイオニアとして清涼飲料市場に「新たなカテゴリーを切り開いたブランドは、その後トップシェアを維持している」(竹井マネジャー)ことも新カテゴリーへの挑戦の背中を押した。
 開発を本格化させたのは平成21年。日本の消費者が好みそうだが、国内でまだ普及していない新しいお茶はないか-。さまざまな国や地域のお茶を試した。
 着目したのは日本人の食生活の変化だ。日本では18年以降、国民1人1日当たりの肉消費量が魚を上回るようになった。肉食と健康志向をつなぐ飲料として浮上したのが、“肉食大国”の南米で愛飲されているマテ茶だった。
 日本ではなじみが薄いが、マテ茶はコーヒー、紅茶と並ぶ世界三大嗜好飲料のひとつで、ビタミンや食物繊維などが豊富に含まれている。南米では「飲むサラダ」ともいわれ、茶葉の年間消費量は、日本人が消費する緑茶茶葉などの7倍を超えるという。
 原産地でもあるブラジルは、1人当たりの牛肉の消費量が日本人の3倍以上という肉食大国。だが、肥満度をみる体格指数(BMI)は男性が16・5、女性が22・1。肉食中心の米国(男性30・2、女性33・1)に比べて低い肥満度の秘密は、マテ茶の効果ともいわれる。
 マテ茶は、以前から日本でも一部で売られていたが、原産地が南米に限られ、緑茶やウーロン茶に比べて調達が難しく、輸入コストがかさむことなどから普及が進まなかった。日本コカ・コーラはこの課題を、同じ米コカ・コーラグループのコカ・コーラブラジルの調達網を利用することで解決。安定的にマテ茶を輸入するルートを確保した。
 だが、解決すべき課題はまだ残っていた。
 「マテ茶が日本で普及しなかったのは、単に味が日本人好みではなかったからだ」。開発担当の永井寛プロダクトマネジャーはこうみていた。
 マテ茶は渋みのある薬のような味で、南米では砂糖を加えて飲まれていたからだ。このため、永井マネジャーは「『新しいけど、おいしい』という驚きを与える味に仕上げたかった」と、日本人向けの味づくりにこだわった。
 参考にしたのが、国内で大ヒットした同社のブレンド茶「爽健美茶」だ。茶葉の刻み方や2度焙煎して香りを引き出すなどの開発ノウハウを応用。お茶の『香り』を重視する日本人の好みに合わせ、茶葉の細かさや抽出温度を変えた。焙煎でも工夫を重ね、何十種類もの試作の末、ようやく日本人に受け入れられやすい味わいにたどり着いた。
 一方、販売活動にも工夫を凝らした。流通各社との商談には、「マテ茶の専用VTRを作成し、普段は同行しないマーケティング担当社員も参加する」(マーケティング本部の高木直樹グループマネジャー)態勢で臨んだ。南米の雰囲気を取り入れた印象の強いCMなども展開、発売直後から猛烈な勢いで売り上げを伸ばす大ヒットにつなげた。
 その反響は海を越え、今年3月には、韓国コカ・コーラが、日本コカ・コーラのマテ茶原液を元に商品を発売し、人気を呼んでいるという。
 日本コカ・コーラの調査によると、太陽のマテ茶の発売後、それ以前は20%だった日本でのマテ茶の一般の認知率は60%を超えた。ブラジルを舞台に、来年はサッカーワールドカップ、2016年に夏季五輪と、世界的なビッグイベントが相次いで開かれることから、同社では南米への関心がマテ茶人気を一段と盛り上げると期待している。
(西村利也)
 ■マテ茶
 南米で生育するモチノキ科の常緑樹「ジェルバ・マテ」の葉や枝を乾燥、粉砕、精製したものに熱湯を加えて飲む飲料。カルシウムやビタミンなどの含有量が高く、葉緑素も豊富に含むことから「飲むサラダ」と言われている。また、ポリフェノールも多く含まれ、抗酸化作用は緑茶やワインなどよりも高い。

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