お酒もアイスも追加料金なし 「オールインクルーシブ」の宿じわりと増える

夕食時のアルコールや湯上がりのアイスなど、宿泊施設内でのサービスが追加料金なしで楽しめる料金体系「オールインクルーシブ」が人気だ。滞在中に財布を持ち歩く必要もなく、会計を気にせず過ごせる快適プラン。旅を宿だけで完結させたいという新型コロナウイルス禍ならではの追い風もあり、東北でも導入がじわりと広がっている。

 仙台市太白区の秋保温泉ホテル華乃湯は7月15日、全宿泊プランをオールインクルーシブに切り替えた。食事会場やロビーなどでアルコールやソフトドリンク、ソフトクリームなどを好きなだけ楽しめる。宿泊客の多くを子連れのファミリー層が占めるため、スイーツやノンアルコールドリンクを充実させた。

 女将(おかみ)の佐藤恵里さんは「チェックインからチェックアウトまで、料金を気にせずおなかいっぱい飲んで食べてほしい」と話す。宿泊客の満足度向上以外にも、ホテル側には精算時の作業やミスが減るメリットもあるという。

 オールインクルーシブに含まれるサービスは飲食だけにとどまらない。宮城県蔵王町の遠刈田温泉にある「ゆと森倶楽部(くらぶ)」では、大自然に囲まれた環境を生かしたアクティビティも対象だ。テラスで行う朝ヨガやハンモックに揺られながらの森林浴、シュラフに包まれての星空観賞といったメニューをそろえる。

 掲げるコンセプトは「理想の日常」。究極のストレスフリーを求め、2012年にオールインクルーシブを取り入れた。運営する一の坊リゾートの佐竹博行遠刈田エリア統括マネージャー(43)は「一緒に来た人と少しでも長くリラックスしてもらうため、手取り足取りのおもてなしはあえてしない」と語る。

 料金は事前精算。「帰り際、お客さまに余韻に浸ってもらえる」と従業員からも好評だ。現在は宿泊客の5割をリピーターが占め、2、3泊するケースも増えたという。

「楽しむほど割安感」じゃらんリサーチセンター・森戸主席研究員

 オールインクルーシブが広がる背景には何があるのか。観光関連の調査研究などを手がける「じゃらんリサーチセンター」(東京)の森戸香奈子主席研究員(47)に旅行需要の変化や宿泊者の利点を聞いた。(報道部・小関みゆ紀)

 -オールインクルーシブ導入施設は、宮城県内では10カ所以上を数える。

 「コロナ感染のリスクを避けるため、宿の中だけで旅を完結させるスタイルに人気が出た。ホテルに滞在してバカンス気分を味わう『ホカンス』や、若い女性がビジネスホテルで飲み会や動画配信を楽しむ『ビジホ女子』が好例だ」

 -導入する宿の特徴は。

 「高めの価格設定ができるハイクラスの宿を中心に普及が進んでいる。飲食やアクティビティが豊富な大型ホテル、長期滞在を前提としたリゾートホテルほど相性がいい。旅行者は支払いが1回で済むため気楽な上、たくさん楽しむほど割安感も高まる」

 -今後の見通しは。

 「地域に点在する空き家や古民家を一つの宿泊施設として再生する『分散型ホテル』が近年増えている。宿泊施設だけでは『点』の魅力も、地域全体でインクルーシブにすれば『面』になる。旅行者の滞在期間が延び、消費増につなげられる可能性もある。オールインクルーシブを地域活性に生かすのも戦略ではないか」

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