公害になぞらえて「香害(こうがい)」。香水などの香りが「不快」を超え、健康被害を訴える声が増えている。中でも取り沙汰されているのが衣類の柔軟剤だ。香りで気分を高める効果がある一方で、吐き気などを訴えるケースも。消費者団体が開設した「香害110番」には「他人の洗濯物の香りがつらい」といった“通報”が相次ぎ、メーカー側も「使用の際は周囲に配慮を」と呼びかけている。(藤井沙織)
洗濯物の香りで息ができない、吐き気も…
「他人の柔軟剤の香りで息ができなくなり、吐き気もある」「脱力感や筋肉のこわばりが起こる」
NPO法人・日本消費者連盟(日消連)が7〜8月に2日間限定で開設した「香害110番」には、計213件の訴えが寄せられた。最も多かったのが、近隣の洗濯物の香りについてだったという。
日消連は、今回の結果を踏まえ、消費者庁やメーカー側に対応を求める方針。担当者は「予想以上の反響。『香りの好み』ではなく、健康に関わる問題だ」と強調している。
芳香性がブームに
柔軟剤は本来、生地の質感を柔らかく保つための仕上げ剤。国民生活センターによると、以前は微香タイプが主流だった。
ところが、10年ほど前に香りの強い海外製品がブームになったのをきっかけに、芳香性を強調した製品が増加。その頃から、同センターには柔軟剤による体の不調を訴える相談が増えたという。
同センターが、柔軟剤に関する相談内容を平成25年9月に公表すると、同様の相談がさらに急増した。各メーカーは、対策としてテレビCMなどで「香りの感じ方には個人差があります。周囲の方にもご配慮のうえお使いください」などと表示。製品やホームページに、香りの強さを表記するようにしたが、相談件数は高止まりしている。
「香りのマナー」を
使い方の問題も浮き彫りになっている。洗剤メーカーなどでつくる日本石鹸洗剤工業会が27年に行った調査によると、2割近くが規定の2倍以上の量を使っていたことが分かった。
過剰使用の一因について、同工業会担当者は「同じ香りをかぎ続けて嗅覚が鈍り、香りが弱くなったと感じて量を増やしてしまうのでは」と推測。「使い過ぎは、強い香りで周囲に迷惑をかけ、衣類の吸水性も下げる。良いことは何もない」と注意を呼びかける。
同工業会は、香りの強さを確認し、使用量を守る「香りのマナー」を引き続き啓発していくことにしている。
過敏症の患者も
香りで不調を引き起こす人の中には、化学物質過敏症(CS)の患者もいる。専門医で大阪市中央区のクリニック「ふくずみアレルギー科」の吹角隆之院長は「嗅覚は命を守るための感覚。本能が『逃げろ』と命じている香料に耐えることで、体がパニックを起こしている」と指摘する。
CSは、日常の中で化学物質を浴びることで発症。微量の化学物質でも頭痛や倦怠感、不眠などさまざまな症状を示すようになる。
誰でも発症する可能性はあるが認知度は低い。職場や学校で柔軟剤や芳香剤などの使用中止を求めても「個人のわがまま」と一蹴され、重症化して耐えきれずに退職や不登校に追い込まれるケースもあるという。吹角院長は「香りをめぐって苦しんでいる人と、周囲の人が話し合えるようになれば」と理解を求めている。