1日に1回は耳掃除をしないと気が済まない、お風呂上がりの耳掃除は至福の時間という人も多いのではないでしょうか。耳掃除には清潔を保つためだけでなく、心地よさが伴い、つい、やみつきに……。
しかし、「ちょっと待って。その耳掃除は安全ですか?」と警告をするのは、耳鼻咽喉科専門医で、とおやま耳鼻咽喉科(大阪市都島区)の遠山祐司院長。「自分流の過剰な耳掃除は、耳の病気の原因になることもあります」という遠山医師に適切な耳掃除のしかたを教えてもらいました。
耳あかは、耳の穴を保護する役割がある
遠山医師はまず、「耳あかや耳掃除についての勘違いは、耳の器官や組織の働きを理解すると正すことができるでしょう」と話します。適切な耳掃除の具体的な方法の前に、はじめにその知識を整理しておきましょう。
(1)耳あかは不潔で汚い、ためずに取り除くべきだ。→×
遠山医師:耳あかは、医学的には「耳垢」と書いて「じこう」と読み、耳の中にある耳垢腺(じこうせん)や皮脂腺(ひしせん)から出る分泌物に、耳の穴の表面からはがれた皮ふや、外から入り込んだ毛髪やちりが混ざりあってできています。
汚いものと思われがちですが、実は、耳の中に入ったホコリや水が奥へ侵入するのを防ぐ、細菌の発生を抑える、外耳道(がいじどう)や鼓膜(こまく)の表面を保護するなどで、耳の内部を守る働きをもっています。取り除きすぎると、これらの機能が損なわれます。
(2)耳掃除は、毎日行ったほうがよい→×
遠山医師:耳の穴の入り口から鼓膜までを外耳道といいますが、耳あかがたまるのは、外耳道の入り口付近です。食事をする、話すといった顎(あご)を動かす動作によって外耳道の皮ふに力が加わり、耳あかは自然に外に出ていくようになっています。よって、毎日耳掃除をする必要はありません。月に1~2回で充分なのです。
(3)耳掃除は、できるだけ奥のほうまで行う→×
遠山医師:先ほどお話したように耳あかは自然に排出されますが、奥のほうまで掃除をしようとすると、かえって耳の内部へと押し込むことになります。
それによって聞こえづらくなることもあるので、絶対に避けてください。そもそも、耳あかは奥には溜まりません。だれかの人の耳掃除をするときも、外から見えない部分は決して触らないようにしてください。
(4)耳の中がかゆいときは、綿棒や耳かきで念入りに掃除する→×
遠山医師:外耳道の皮膚(ふ)はとても薄く、外からの刺激に弱い性質があります。綿棒や耳かきなど硬さのあるもの、とがったもので頻繁に触れると、皮膚表面のバリアーが傷つき、はがれることがあります。それが原因となり「外耳道湿疹(がいじどうしっしん)」というかゆみをともなう湿疹が生じやすくなります。
しつこく耳掃除を続けることで、かゆみの反復、増幅をまねき、薄い黄色の分泌液が出るなど、悪化させる場合もあります。
さらに、外耳道の皮ふが荒れると、細菌やカビが感染し、「外耳炎」をひき起こすこともあります。
(5)入浴やプールのあとは、濡れたままにせず必ず耳掃除をする→×
遠山医師:耳の中に水が入っている感じが気になる、耳あかが取れやすい気がするといった理由からか、お風呂上りに耳掃除をする人が多いようです。外耳道は皮膚が薄く、デリケートな部分で傷つける可能性が大きいので、お風呂上りに耳掃除をすることはかえって耳の健康によくありません。
もし耳の中に水が入った場合は、入ったほうの耳を下側にして寝てください。それで出てくることが多く、また、そのままにしておいても、いずれ自然に蒸発するので、とくに気にする必要はありません。ただし、長時間、水が入っている感覚が続く場合は耳鼻科を受診してください。
月に1~2回、耳の入り口から1cmまで、あくまでやさしく
それでは、適切な耳掃除の方法を具体的に教えてもらいましょう。
「耳に害を与えないように、次のポイントに注意して行ってください。
・頻度は月に1~2回
・清潔な綿棒を使用
・綿棒を入れるのは耳の入り口から1cm程度まで
・ティッシュを使い、耳の穴の壁に沿って、そっと数回らせんを描くようにぬぐう
・ゴシゴシと強く、何回もこすらない
・耳の入り口から後ろの壁に沿って約2.5~3.5cm先は鼓膜(こまく)なので、そこまでは絶対に達しないようにする
湿った耳あかのタイプのお子さんや高齢の方では、ときに耳あかが溜まりやすい人がいます。「耳垢栓塞(じこうせんそく)」と言って、耳あかが溜まって固まりとなって、耳の穴を狭くし、詰まらせる病気です。
耳が詰まった感じ、聞こえづらい、耳鳴り、自分の声が大きく聞こえるといった症状が気になる場合には、自分なりの耳掃除では解決しません。症状の悪化につながることがありますので、耳鼻科に相談してください。耳の穴はデリケート、掃除のし過ぎは病気の元と知っておきましょう」
よかれと思ってこまめにケアしていたつもりが、耳の穴を傷つけていたことがわかりました。耳掃除はそもそもあまり必要がないとのことで、これからは耳の入り口から1㎝ぐらいまでを月に1~2回、ゴシゴシこすらないなど適切な方法で行うことを肝に銘じます。
(取材・文 ふくいみちこ・品川 緑 / ユンブル)