どうやら、今を生きるわれわれはかつて経験したことのない世界同時大不況を味わうことになりそうである。
1929年の10月にアメリカから始まった大恐慌を覚えている人はほとんどいない。私は30年ほど前に他界した1916年生まれの父から少しだけ聞かされたことがある。
今回、体験するのはそれに匹敵する不況のように思える。何といっても、全世界で経済活動がまひするほどの事態だ。
2008年のリーマン・ショックを、われわれは覚えている。あれは「100年に1度の不況」などと言われたが、回復は早かった。というか、景気を回復させるために主要国が競うようにマネタリーベースを増やしたおかげで、世界的な不動産バブルをもたらしてしまった。
特に日本、とりわけ東京の都心エリアでの不動産バブルはかなり不健全に膨らんだ。実力値以上の価格が形成された城南や湾岸エリアでマンションを購入した人々の中には、この先、何年も破産予備軍に組み入れられることもありそうだ。
ただし、価格の下落はまだ始まっていない。この瞬間なら、幸運な人は売り抜けることができるだろう。しかし、3年先の市場の風景は、今とは全く違っている。
困ったことに、迫りくる不況に対して日本の金融当局である日本銀行には取り得る策がほとんど残されていない。
金利はこれ以上、下げようのないゼロベース。市中のお金を増やそうにも手立ては限られている。仕方がないので株式市場でETF(上場投資信託)を購入しているが、市場の不健全性を高めているだけである。実体経済と株価が乖離するのは好ましくない。つまり、日本経済は自律的に不況を脱するしかなくなっているのである。
こういう時に不動産市場はどうなるのか。あるいは、マンションの価格はどう動くのか。
答えは簡単である。これまでは日本銀行が作りだした意図的なバブルに踊ってきたが、それが終わる。これからは市場という自然摂理に任せるしかない。需要と供給の関係に従って価格が形成されていくのだ。買いたい人が多ければ価格は上る。売りたい人が多ければ、価格は下がる。
私はあの平成大バブルが、はじけた後の低迷期を覚えている。都心のマンション価格は今の半分程度であった。その頃の個人所得は、実質的に今よりも高かった。
今後は都心や湾岸のマンション価格が今の半分になってもおかしくない。新築マンションについては、下落余地が少ない。土地価格や人件費が急激に低下するとは思えないからである。下がるとすれば、中古が先導するだろう。テレワークの普及でオフィス空間の必要性が希薄化したことも大きいはずだ。
仮にマンションを購入するなら時間は味方になる。慌てることはない。じっくりと構えているだけでいい。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。