日本郵便が販売する暑中見舞いや残暑見舞い用のはがき「かもめ~る」に関して、九州の郵便局員の男性から悲痛なメールが寄せられた。「郵便局員は毎年、かもめ~るの販売にノルマを課されて苦しんでいます」。会員制交流サイト(SNS)が普及し、暑中・残暑見舞いをやりとりする習慣が薄れつつある現状も、負担増につながっているようだ。
男性は、勤務先の郵便局で作成されたノルマ表を見せてくれた。職場の社員とアルバイト一人一人に課された販売目標と成績が一覧になっている。未達成者には印が付けられ、「とにかく売ってください!」と手書きされていた。
男性によると、九州の各郵便局は夏前に、前年の実績などを基に販売目標や達成スケジュールを作成。従業員ごとの成績を同社九州支社(熊本市)に報告する。男性の今年のノルマは千枚余り。「年賀状の10分の1ほどだけど、かもめ~るの方が売るのは大変」と話す。「俺は無理だから、金券ショップに持って行った」という同僚もいた。
金券ショップでは本来の価格では買い取ってもらえないため、差額は“自腹”になる。近所の金券ショップに持ち込めば発覚する恐れがあるとして、東京など遠方の金券ショップに配送したり、フリーマーケットアプリ上に売りに出したりする社員もいるという。
ある金券ショップ経営者によると、ショップ側は、かもめ~るに付いたくじの当せん番号が発表されると、売れ残ったはがきに当たりがあるかどうかを確認した上で、はずれた分を郵便局に持ち込み、切手と交換。回り回って“自腹営業”のはがきが、郵便局に戻ってくることになる。
郵便局の内勤従業員の場合、外部の人と接する機会がほとんどないため、勤務時間外にサービス残業をして営業に回るケースもあるという。
かもめ~るだけでなく、母の日や敬老の日などのイベントごとの物販、年賀はがきの営業も求められ、年中、ノルマに追われる。
一方で、自腹営業や上司によるノルマ強要を禁止する「コンプライアンス(法令順守)の徹底」も繰り返し指示されている。男性は「アクセルとブレーキを同時に踏まれているようで、やりきれない」と漏らした。
インターネットの普及を背景に、年賀状や暑中見舞いなどをやりとりする人たちは減りつつある。同社によると、かもめ~るの発行枚数は2000年の約3億1100万枚から、08年には約2億1500万枚に減少した。その後、かもめ~るを利用した企業向けのダイレクトメール(DM)の営業に力を入れ、発行枚数はやや回復しているが、販売の現場では苦戦が続く。
男性によると、福岡県内のある郵便局では、幹部社員が8月上旬、企業にDM千枚のはがきを販売した際、顧客が負担すべき印刷代金約6万円を無料にして契約。印刷会社に発注する代わりに、幹部社員は部下に命じて局内のコピー機でカラーコピーをさせ、印刷代金を浮かせたという。
特命取材班が入手した同社の研修資料には「割引・値引きは絶対に行わないこと」と記されており、幹部自ら社内ルールに違反した疑いがある。同社九州支社は、事実関係を認めた上で「調査を進め、不適切だと判断すれば厳正に対処する」と説明した。
男性は「ノルマの達成が人事評価に影響するので必死にならざるを得ない」。同支社は「個人のノルマではなく、チームごとの販売指標を設けている。人事評価では指標の達成状況だけではなく日々の業務など総合的に判断している」としている。
労働問題に詳しい光永享央弁護士(福岡市)は「ノルマの設定がどこまで許されるのか線引きは難しい。会社には、自腹営業などが行われていないか、積極的に実態を調査する責任がある」と指摘した。
SNSで調査報道の依頼を受付中!
西日本新聞「あなたの特命取材班」は、暮らしの疑問から地域の困り事、行政や企業の不正告発まで、SNSで寄せられた読者の情報提供や要望に応え、調査報道で課題解決を目指します。ツイッターやフェイスブックの文中に「#あなたの特命取材班 」を入れて発信してください。