日本人の肉食化は目覚ましい。肉は体にいいと言われているものの、1960年と2015年の肉の年間消費量を比べると約6倍(5.2kg→31.6kg)にも跳ね上がった現状を見ると、警鐘を鳴らさずにはいられないと語る専門家も多い。
【表】国際がん研究機関による発がん性の分類、加工肉はグループ1!
5月、消費者庁は日本マクドナルドに対し、景品表示法に基づき2171万円の課徴金納付を命令した。これは、2017年に販売されていた「東京ローストビーフバーガー」が、CMやポスターでは「牛赤身肉のスライス」だったのに対し、実際はブロック肉を結着させた「成形」肉を使用していたということが問題視されたためだ。成形肉について、食品ジャーナリストの郡司和夫さんが解説する。
「成形肉は、加工処理して作られた肉全般を指します。代表的なものは、サイコロステーキ。別名で『インジェクション霜降り加工肉』ともいい、安い牛肉の端切れや、くず肉を集めて、固めて作ります。
くず肉というのは、内臓や骨についている、本来は食用にしない部分の肉。これを吸引機で集め、何百本もの注射針がついた剣山のような機械(インジェクター)で牛脂やリン酸塩などの結着剤や添加物を注入して混ぜ合わせ、冷凍して固めるとサイコロステーキができる。マクドナルドのローストビーフには結着剤を使っていなかったようですが、端切れの肉を集めて固めるという点では同じです」
成形肉を作る時には、混ぜ物として、大豆や卵白、乳たんぱくや脂肪、油脂などが使われることがある。これらのアレルギーを持っている人が口にした場合は、命にかかわる危険性もある。
さらに消費者問題研究所代表の垣田達哉さんは、「成形肉は食中毒のリスクが高い」と注意を促す。
「O157の菌は肉の表面についていますが、インジェクションや、肉を軟らかくする筋切りの加工処理をすると、菌が肉の中まで入り込んでしまう。焼き加減が甘いと、食中毒の原因になります。家庭で筋切りした場合も同様です」
成形肉には、輸入肉が多用されることも問題だ。
「アメリカではO157による牛肉汚染が深刻化していますが、日本の一部の成形肉には、輸入された安いくず肉や牛脂が大量に使われているものもあります。店頭では、成形肉であることと、“中まで火を通してください”の注意表示が義務付けられていますが、レストランには表示義務がない。成形肉かどうかわからないのが問題です」(郡司さん)
サイコロステーキは見分けがつきやすいが、ステーキやしゃぶしゃぶ肉など、見た目は普通の牛肉と変わらないものもあるという。外食する際、成形肉を見分ける方法はないだろうか。
「以前、輸入牛肉に詳しい農林水産省のOBとスーパーの肉売り場を取材した時、プロである彼も見分けられないと話していました。最近は技術が進んで、本物の肉に限りなく近づいていて、私にもわかりません。
外食時は基本的に値段で見分けてください。破格の牛肉しゃぶしゃぶ食べ放題や格安ステーキなど、常識的に考えてあまりに安すぎる場合は、成形肉を使っている可能性が高い」(郡司さん)
心配なら店に問い合わせるのがいちばんだが、事前にホームページなどで肉の産地を確認する方法もある。
「怪しいと思ったら、中までしっかり火を通すようにしましょう。最も安心できるのは、店で買っても外食でも、生産者の顔がわかるものです」(郡司さん)
値段は高くなるが、作り手の顔が見えるものほど安心であることは事実だ。
◆どうしても食べたい場合は…
今や、私たちの生活に必要不可欠な“食材”の1つになっている加工肉だが、「栄養面から考えると、加工肉を食べる必要はない」と断言するのは、群星沖縄臨床研修センター長で医師の徳田安春さんだ。
「ベーコンやソーセージ、ハムやスパムなどの加工肉は、一概に塩分が多く含まれています。日本人は諸外国に比べて塩分の摂取量が多いとされ、健康な成人が目標とする食塩の摂取量は、男性が8g未満、女性が7g未満ですが、実際は10g以上摂取しています。塩分の摂りすぎは心臓病や脳卒中のリスクを高めます」
赤肉も積極的に食べる必要はないという。群星沖縄臨床研修センター長で医師の徳田安春さんはこう言う。
「よく、肉にはたんぱく質が含まれるといいますが、たんぱく質は大豆や卵にも入っています。魚や野菜を中心とした和食を食べていれば、赤肉を摂らなくても栄養が不足することはありません。
もし加工肉や赤肉を食べすぎてしまった時は、しばらく食べないように気をつけた方がいい。“野菜を一緒に食べれば大丈夫”なんてことはありません。どうしても肉を食べたいのなら、1日置きに1食だけ食べるなど、食べすぎない工夫をしてください」
つまり、食べすぎず、適量を守ることが何より重要である。垣田さんが言う。
「健康リスクが指摘されている食品は、できるだけ避けるべきです。最近は、添加物を使わずに作られている加工食品もありますから、より健康にいいものを子供や家族に食べさせたいし、自分も食べたいという感覚を忘れないでほしい」
私たちの体は、食べたものでできている。そんな当たり前のことを、今こそ考え直したい。