コロナ禍もようやく終息に向かい、大きなダメージを受けていた外食業界が復調し始めた。外食売上高はなんとかコロナ前の水準に回復したようだ(参考:JF外食産業市場動向調査)。
とは言っても、業態ごとには回復度合いに大きなバラツキがあり、コロナの影響がもともと少なかったファストフードがコロナ前比118%と売り上げをけん引している。一方で、ファミリーレストランは96%、ディナーレストランは85%、パブ・居酒屋は58%とコロナ前を大きく下回って厳しい状況が続いている。
アルコール比率の高い業態ほど厳しいということなのだが、3月以降の制約緩和によって、サラリーマンなどに対する組織の制約も緩くなるだろう。宴会など夜の需要が回復してくれることを期待したい。
コロナ禍の需要縮小期において、店舗数も減少して競争環境が緩和しているという面はあるのだが、それでも居酒屋の店舗数が2019年比70%、ディナーレストランで同92%といったレベルであり、ざっくり、この水準までは需要が回復してくれなければ、まだまだ厳しいというのが現状だろう。
●物価高騰の影響は? 所得によって異なる傾向
そんな病み上がりの外食業界にとって、物価高騰が追い打ちを掛けつつある。
今回の高騰は、賃上げが追い付かない中で、食品とエネルギーという必需支出が増えてしまっているため、消費者は生活防衛に走らざるを得ない。可処分所得が減れば、節約するしかない。さまざまなアンケートでも外食、衣料品への支出が削減対象となるという結果が出ている。
実際、総務省の家計調査によれば、必需支出増加の影響を受けやすい所得が少ない世帯においては、既に外食支出を減らしているというデータもある。大企業を中心に、かなり賃上げも進んできてはいるのだが、中小企業においては賃上げ原資の確保も困難であるとも言われている。所得階層による外食支出の動向には今後大きな差が出る可能性がある。
家計調査では、所得の少ない層の外食支出は減らす傾向にあるのだが、高所得者層では増やしているという傾向がみられ、外食企業はその顧客層によって業績回復にかなり差が出るかもしれない。
●外食大手の動向は
こうした環境下で今、外食大手の動向はどのようになっているだろうか。
以下の図表は、主な上場外食企業の既存店客数の推移を、コロナ前の水準で単純計算した数値(既存店客数増減率を2020年~2023年まで掛け合わせた数値)で比較したもので、正確な客数推移ではないが、おおまかな傾向を示している(外部配信先では、図表が一部ご覧いただけない場合があります。その際は「ITmedia ビジネスオンライン」で記事をお読みください)。
●明暗分かれるファミレス サイゼ、ロイヤル、ジョイフルは復調
ファミリーレストランでは、ロイヤル、ジョイフルが昨年末からコロナ禍前90%以上が続いている。サイゼリヤも追い付いて、2月には95%程度まで回復している。
回復に遅れがみられるのが、ガストなどを展開するすかいらーくで、7割台で推移しつつ若干下げ気味であり、今後の推移次第ではさらなるテコ入れが必要かもしれない。
●ファストフードは順調に回復 都市部の吉野家・松屋はやや苦戦
ファストフードはマクドナルド、モスフード、すき家がほぼコロナ前に近い推移で順調に推移している。
吉野家、松屋フーズの牛丼2社は、改善傾向にはあるものの、コロナ前9割程度までの回復となっている。この両社に関しては、大都市部店舗が多く、都市部の人流回復が遅れているというビハインドもありそうだ。
●鳥貴族・王将が善戦するその他形態
その他では、鳥貴族が2月にはコロナ前の95%と苦戦している居酒屋業界において目立った回復を見せている。王将フードサービスも95%程度まで戻しており、客数改善傾向を維持している。
日高屋はまだ8割台ではあるが、緩やかな回復をみせる。これに対して、幸楽苑はほとんどが6~7割台と極めて厳しい推移となっている。
●不祥事が続く回転寿司 「すしテロ」の影響は?
回転寿司業態は、不祥事などで騒がれたことが記憶に新しい。くら寿司、かっぱ寿司は9割程度で推移しつつも、若干下落傾向となり、さえない推移だ。スシローは秋口の大きな落ち込みから、2月にはようやく他社並みに回復した状況にある。こうした中で、例の迷惑動画による影響が今後どうなるかは、気になるところだ。
いわゆる「すしテロ」に関しては、回転寿司側は被害者であり、おおむね同情的な意見が多いと聞く。しかし、安全面への懸念が想起されることから、敬遠するようになった消費者も少なくないという。回転寿司各社は原材料高騰などの影響もあって、収益の低下が懸念されている時期でもあり、3月以降の客数に影響があるようだと、再び業績の見直しにつながる可能性もあろう。
それでなくても迷惑動画が発端となって、寿司を回転レーンで回さなくする対応や、監視システムの強化対応を余儀なくされており、売り上げやコストに何らかの影響が及ぶことは避けられない。
被害者であるはずの企業が迷惑行為への対策コストを負担することになるのだが、それがひいては消費者にも価格やサービス面で負担を強いることにつながるだろう。消費者の財布のひもが締まりつつあり、外食需要にも影響が及ぶ可能性が高い今、ごく一部の迷惑な行為が業界全体のコスト負担を増加させ、さらにはわれわれ消費者の外食コスパを下げることにつながるのは、何ともやりきれない思いではある。
●回転寿司業界の死活問題
事件以降に回転寿司に行ってみたが、確かにレーンには注文品しか回っておらず、以前と比べて何か寂しい店内風景になったような気がした。そもそも、回転寿司がレーンで寿司を回すのは、機械化による省人化でコストを下げるという意味もあるのだろうが、商品がレーンに乗って回ることで店を演出していたという機能の方が大きい。
多様な魚種の寿司やサイドメニュー、デザートなどを季節ごと、日ごとに入れ替えながら見せるからこそ、来店客はメニューでは気付かない魚種や変わりネタを手にとるのである。いつ行っても新しい発見があるからこそ、回転寿司の店内は「食のテーマパーク」だったのであり、この機能によって回転寿司は専門業態ではなく、ファミレスよりもファミリー層が多いレストランになれた。もしも、この機能を奪われるようなことがあれば、回転寿司業界にとって、死活問題となる可能性さえある。
「回転寿司ではもともと注文品で食べていた顧客が8割」なので、そんなに影響はない、といった一部報道があったが、そんなことはないだろう。廃棄ロスという別問題はあるにせよ、回っていない回転寿司では、季節商品や新メニューをこれまでのようには食べてもらうことは難しくなる。
●SNS運営に責任はないのか?
迷惑動画への対策については、さまざまな建設的な意見が提示されているので、ここで言及するつもりはないが、一つ不満なのは動画の媒体であるSNS側からは何の反応もないことである。
断固たる法的措置をとれば抑止効果がある、というのは道理なのだが、動画を上げているのは未成年者が多く含まれた若い人たちであり、そうした行為がどのような社会的な影響があり、どれほど大きな制裁が科されるか、ということを十分に認識してない人たちなのである。
軽い気持ちで迷惑動画の張本人となってしまったため、償いきれないような社会的制裁を受けることになった若者もいるようだが、それが抑止力となる、というのでは大人の対応とはいえないのではないか。明らかに違法性があると分かる動画が拡散しないようにする手だても整えないで、やったら厳罰処分すればいい、というのは社会として無責任であろう。
SNS運営側は、どんな内容であろうと、動画が拡散しさえすれば収益を得ているのであり、それによってどんな問題が起ころうと知ったことではない、というのは受益者として許されることではあるまい。
今の技術なら画像データ解析などによって、違法性をある程度チェックすることは可能であろうし、明らかな違法性が認められるコンテンツについては、拡散を留保する措置をとって、投稿者とコミュニケーションをとるというのが筋だろう。
SNSが存在しなかった時代には、寿司がレーンを回っていても、こんな事件は起こらなかったのだ。新しいコミュニケーションツールであるSNSの世界は、まだ社会的なルールが追い付いていない面は否めない。こうした機会に社会的なインフラとして、応分のコスト負担をしてもらう必要があると強く思うのである。
●著者プロフィール
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。