今月、新たな業界団体が正式に発足する運びだ。その名称は「風評被害対策事業者連絡会」。
インターネット上の風評被害や誹謗中傷対策を引き受ける大手“イレイサー”(消しゴム≒削除者の意)専門会社で構成する初の業界団体だ。
今夏から国の関係省庁との協議や情報交換を重ねており、急拡大を続ける一方で悪質業者もはびこる業界の健全化を図ることが、設立目的という。
団体設立の音頭を取った業界大手、シエンプレは、過去3年で売り上げを2倍以上に伸ばし、今期は15億円の売り上げを見込む。
GoogleやYahoo! などの検索エンジンの検索結果の表示順位を上位に押し上げる「SEO」とは逆で、顧客にとって不利な情報が載ったネガティヴサイトの検索順位を下位に押し下げる「逆SEO」や、プロバイダーやサイト運営者とのネゴシエーションのサポート業務を行い、都合の悪いネガティヴサイトそのものをネットの海から文字通り“掃除”してしまうサービスが売りだ。
例えば、逆SEOの場合、検索エンジンのアルゴリズムを解析し、多数の新しいサイトを作成することで、検索結果からネガティヴサイトを相対的に押し下げるといった手法が取られる。
「銀行や大手不動産業など、上場企業だけでも、これまで約100社と契約している」と同社担当者。
料金は決して安くはない。同社の場合、単発のサイトの消去で数十万円。法人が継続して対策を行う場合、初年は標準で500万~1000万円。大規模な対策が必要なケースでは2000万~3000万円、中には6000万円に上るケースもあるという。
それでも、この業界が急拡大する理由は「ネットの風評対策が、企業の売り上げや採用活動において死活問題と化している」(業界関係者)からだ。
「例えば、視聴率で苦戦するフジテレビの反韓流デモへの対応は、ネット対策を軽視した代表的な失敗例」と、この業界関係者は指摘する。
また、業者に頼らず、自前でネットの評判向上に血道を上げる企業も増えているという。例えば、ある大手小売店では、逆SEO専従の部署があるとされる。
実際、社名をGoogleで検索しても、過去の不祥事を記述したサイトははるか下位に沈み、「関連ワード」さえ表示されない。
● 個人の申込者も急増
ネット上の評判を気にするのは、企業など法人だけではない。近年増えているのが、個人の契約者だという。
その大半は、大学の学長選や教授選でライバルからネットで誹謗中傷を受ける大学教員や医師。さらには、政治家や芸能人、中小企業の会社社長など多岐にわたる。
ソーシャルメディアや口コミサイトの発達、さらにはスマホの普及で拡大するネット上の中傷や風評被害。だが、問題は、本当に根も葉もない風評なのか、事実を告発したまっとうな情報なのか、その線引きが難しい点にある。
加えて、たとえ事実であったとしても、今度は、すでに対策を採った過去の不祥事について「忘れられる権利」と、公共の利益との折り合いをどうつけるのかといった問題もある。
Googleは5月、逆SEO対策のためアルゴリズムを大幅変更し、技術的ないたちごっこは激しさを増すばかりだが、社会のコンセンサスづくりは脇に置かれたままだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)