ここにきて「唐揚げ専門店」が失速してきた…!閉店が相次いでいる「意外な裏事情」

パリパリの衣とあふれる肉汁が美味で、老若男女に愛される唐揚げ。そんな唐揚げ一本で勝負する唐揚げ専門店は、コロナ禍続くこの数年で急増していた。 【写真】イギリスで日本の「カツカレー」が“国民食”になっている驚きの理由  マーケット調査会社の富士経済によると唐揚げ専門店は、コロナ禍前の2019年時点で売上高は総計約850億円、店舗数は約1700店舗だったが、コロナ禍が始まった2020年には、前年比で売上高は24%増の約1050億円、店舗数は35%増の約2300店にまで増加。2021年になると、前年比で売上高は14%増の約1200億円、店舗数は35%増の約3100店にまで上ったのだそうだ。  しかし、そんな上り調子だった唐揚げ専門店も、2022年になると陰りが見えはじめ、閉店する店舗も相次いでいる。そこで今回は、食品業界事情に詳しいフードアナリストの重盛高雄氏に話を伺い、唐揚げ専門店業界の栄枯盛衰の実情について、解説していただいた(以下、「」内は氏のコメント)。

実は2回あった「唐揚げブーム」

 そもそも急増していた「唐揚げ専門店」というのは、主にどういったスタイルの店舗のことを指すのだろうか。  「その名のとおり、基本的には“唐揚げのみ”を販売している業態の店。定食屋のように店内で座ってゆっくりいただくような形式ではなく、揚げたてをテイクアウトするスタイルの店舗が主流です」  こうした唐揚げ専門店だが、意外にもそのブームの歴史は古いと重盛氏は語る。  「1960年頃に、食糧難に備えて政府主導で日本全国に養鶏場が造られるようになり、それまで高級品だった鶏肉は庶民のものになりました。特に中津市を含む大分県北部には養鶏場が多く、ここでローカルフードとして唐揚げが広まります。唐揚げ専門店によく『中津唐揚げ』などのブランドがあるのはこれが理由ですね。  そして中津市以外でも、次第に唐揚げを専門的に提供する店が増え、これがいわゆる“第一次唐揚げブーム”を引き起こします。ですが、1970年に『ケンタッキーフライドチキン』が日本に上陸したことで淘汰されていき、ブームは5年ほどで終息してしまいます」  それから時が経ち、2009年に“第二次唐揚げブーム”が起きたことで、唐揚げは再び脚光を浴びるようになったという。  「2009年当時はデフレマインドで景気が冷え込み、一般消費者層の家計も厳しい状況に直面しました。そこで、出費がかさむ外食ではなく、出先でお惣菜を買って自宅で食べる“中食”のほうが、安く済むとブームになったのが大きな要因です。さらに、先にお話しした大分県のお持ち帰り系唐揚げ専門店が東京に続々進出したことや、2017年に冷凍食品業界で唐揚げが流行したことも拍車をかけました」  ここ数年の唐揚げ専門店ブームは2009年から続く“第二次唐揚げブーム”の延長線上というのが、重盛氏の見解だ。  「継続する中食ブームなどを踏まえ、2014年にとんかつ・カツ丼チェーンの『かつや』でおなじみのアークランドサービスホールディングスが、唐揚げ専門チェーン『からやま』をオープン。その後を追うように、2017年にすかいらーくホールディングスが同じく専門チェーンの『から好し』を、2018年にはワタミ株式会社が『から揚げの天才』をオープンさせます」  そんな、大企業が主導する昨今の唐揚げ専門店ブームだが、なぜ外食産業が軒並み苦境に立たされたコロナ禍でも拡大を続けたのだろう。  「もともと高まっていた唐揚げ専門店の需要が、コロナ禍でブーストされたというのが実情ですね。その要因となったのが、先に述べた大手チェーンと小規模飲食店のFC契約の増加です。コロナ禍の外食規制で困窮していた小規模な飲食店が次々と唐揚げ専門店に転向し、店舗数は急激に増加していきました。  その背景には、持ち帰りスタイルならコロナ禍の店内飲食規制を気にしなくてすむこと、また、基本的に冷蔵庫とフライヤーがあれば作れるため設備投資費が格安なことなどが挙げられます」

激動の世界情勢に翻弄されるビジネス事情

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 少々前置きが長くなったが、ここからが本題だ。  ここ数年、右肩上がりで増え続けてきた唐揚げ専門店だが、2022年に入ると業績が伸び悩み、店舗数も減っているが、ズバリその原因はなんなのか?   「緩やかに減少傾向になっているのは確かです。その理由はいくつかあります。  まず挙げられるのは、やはり市場の飽和。多くの企業がこぞって店舗を展開したのでレッドオーシャンになり、売上が伸びない店舗がFC契約を打ち切られるようになってきたのです。  ほかにも、コロナ禍の規制が徐々に緩和されたことで外食の需要が復活し、それに伴って中食需要が減少傾向にあること。もともと、コロナ禍で困窮して大手ブランド主導の唐揚げ専門店に転換した店のなかには、元の業態に戻りたいと考えるオーナーも一定数いたのでしょう。そうした人たちが唐揚げ専門店を“卒業”する例が増えているのです」  こうした背景には、FC契約で大企業に払う契約料が経営を苦しめている現状もあるという。  「企業によって契約方式はさまざまなので一概には言えないのですが、定額の支払い契約だった場合、需要が高ければ当然プラスになりますが、反対に需要が減少すればどんどんFCオーナーの首が締まるわけです。そうなってくると、元の業態に戻ろうと考える店が出てくるのも自然な流れでしょう。  理由はまだあります。それは外国産鶏肉の価格高騰です。元来牛肉や豚肉に比べて、仕入れ値・販売値ともに鶏肉の価格は安かった。そんな安価な鶏肉を低価格帯の唐揚げ専門店はビジネスのベースにしていたのですが、ロシアによるウクライナ侵攻問題などで鶏肉の餌となるトウモロコシなどの価格が高騰し、連鎖反応で鶏肉の値段も上がってしまったのです。これは鶏肉に限らず、衣に使う小麦粉も同様です」  以上のように、さまざまな要因が絡み合って、唐揚げ専門店は減少しつつあるという。では今後、唐揚げ専門店はどのような未来を歩んでゆくのだろう。  「これまで語ったような背景から、今はじわじわと店舗数が減ってきてはいますが、唐揚げというメニューのブーム自体は一過性ではなく、不動の人気がありますよね。また単身世帯などの場合、手間のかかる揚げ物は自宅で作らず購入するという方が多いでしょうから、需要が急に減ることも考えにくい。  かつてのタピオカ店のように、ブームが急に去って消費者が一気に見向きもしなくなるような事態に陥ることもないでしょう。先ほどお話しした理由が解消していくなどすれば、今後また唐揚げ専門店の需要が伸びてくる可能性は充分あると思います」  いまだどうなるか先の見えないコロナ禍の動向やウクライナ侵攻問題。さらには拡大を続ける冷凍唐揚げ市場との兼ね合いなどもあり、唐揚げ専門店は今まさに分水嶺にあるのかもしれない。  (文=TND幽介/A4studio)

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