これからの自動車産業には何が求められるのか。実業家の堀江貴文さんは「EVシフトが進むなかで、日本の自動車メーカーが蓄積してきた膨大なノウハウや技術力の圧倒的優位性は失われつつある。テスラやBYDに追いつき追い越すためには、『ソフトウェアに強い人材』の確保が急務だ」という――。
※本稿は、堀江貴文『ホリエモンのニッポン改造論』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
自動車産業で進む「日本潰し」
近年、日本の自動車産業は危機に瀕している。高度な技術を要する内燃機関車(ガソリン車、エンジン車)において他の追随を許さなかった点が日本の自動車産業の強みだったのに、このところEV(電気自動車)へのシフトが急速に進められようとしているのだ。
「脱炭素社会の実現のため」と謳われてはいるが、世界中がこぞって、今まで一人勝ち状態だった日本の自動車産業を潰しにかかっているのではないかと疑いたくなる。
EUには、ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンなど、誰もが憧れる自動車メーカーがある。それでも、技術力の高い日本は、自動車業界をリードしてきた。
その1つがガソリンエンジンなのだ。高温の流体がピストンを回すという仕組みになっているガソリンエンジンは開発が難しい。どれほど性能のいいコンピュータでも完全なシミュレーションができないため、何回もの試行錯誤が必要となる。
SMBC GMO PAYMENTお会計時の接客もスムーズに対応。決済操作が簡単。お会計がスマートに。
そこでものを言うのが、長年にわたり蓄積されてきた技術力とノウハウだ。日本の自動車メーカーは、昔からガソリンエンジンを作ってきた。とうてい他国の自動車メーカーが追いつけないほどの技術力とノウハウがあるのだ。
「ガソリン車はダメ。EVを買いなさい」
そこへきて、2022年10月、EUは、2035年以降、内燃機関車の販売を禁止すると発表した。その後、二酸化炭素と水素から作られる合成燃料(イーフューエル)を使用する場合のみ内燃機関車の販売を容認するという変更は加えられたが、それでも強い規制が設けられることには変わりない。平たく言えば「ガソリン車はダメ。EVを買いなさい」というお達しが出されたわけだ。
EVとは、その名のとおり、電気を原動力としてモーターで走る車である。開発段階における内燃機関車とEVの違いは、「電気は計算どおりに動く」こと。つまりEVの開発では、コンピュータで完璧なシミュレーションができるのだ。
そうなると、今までガソリンエンジンの開発を通じて、日本の自動車メーカーが蓄積してきた膨大なノウハウや技術力の圧倒的優位性は失われる。
なぜEUはハイブリッド車を禁止するのか
二酸化炭素を排出するガソリン車を禁止し、EVを推進するのは、たしかに、一見するところ、環境問題に配慮しているように思える。だが、EUが設けた販売禁止車の中には、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も含まれている。
ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーが得意とする分野だ。それらをも禁止するのを、環境問題の看板を借りた「トヨタ潰し」「日本の自動車産業潰し」と見ないほうが不自然ではないか。
しかし、いくら文句を言っても、「ガソリン車からEVへ」というのが、すでに世界的潮流になってしまっているなかでは負け犬の遠吠えにしかならない。
関連するビデオ: トヨタ自動車グループ上半期販売台数 海外は過去最高も国内は認証不正等で3割超減 (テレ朝news)
about:blank
テレ朝news
トヨタ自動車グループ上半期販売台数 海外は過去最高も国内は認証不正等で3割超減
いずれ、車はモーターとバッテリーとコンピュータだけで動くものになっていくだろう。
そうなれば、日本の自動車産業は一転、劣勢に立たされる。さしあたってはEUだが、世界全体のGDPの約20%を占めるEUを失うのは非常に痛い。
「日本車はオワコン」と見られても仕方ない
二酸化炭素を排出しないEVは、とかく「環境問題への配慮」「脱炭素社会の実現」といった耳心地のいいエコ用語と好相性だ。真の意図がどこにあろうとも、大きな声でガソリン車からEVへのシフトを叫ぶことができる。
現にEUだけでなく、アメリカではEV推進のための税制優遇措置が講じられているし、大量の二酸化炭素排出を非難されている中国も、EV推進へと舵を切っている。いずれも掲げられている旗印は「環境問題への配慮」「脱炭素社会の実現」だ。
この世界的潮流、しかも、真意はどうあれ「エコロジーというよいもの」に向かって盛り上がっているトレンドの前では、日本のお家芸であるガソリン車は分が悪すぎる。もはやオワコンと見られても仕方ない。
となれば、このEVシフトの波に乗っていくことが日本の自動車産業の生き筋となるだろうが、それが致命的に出遅れていると言わざるをえないのだ。日産のカルロス・ゴーン氏だけは先見性があったようだが、ほかならぬ日産に追い出されてしまった。
「ガラケーvs.スマホ」によく似た構図
日本の自動車メーカーはEV開発で大きく後れをとった。それは、携帯電話におけるガラケー対スマホによく似ている。
スマホはガラケーから進化したものに見えるかもしれないが、それはまったく違う。
ガラケーはあくまで「電話機」であり、電話以上の機能を持たせることはできない。もちろん初期のものに比べれば小型化したし、メール機能やカメラ機能が搭載されてはきたが、ディバイスとしての機能は「電話機」の域を出ない。
一方、スマホは、アップルが「iPhone」(Phone=電話)と名付けたために電話機のような印象を与えたが、最初からパソコンだった。
ガラケーにはなかったタッチ操作や優れたユーザーインターフェースを導入したiPhoneは「携帯電話」ではなく「携帯パソコン」なのだ。
さて、そんなスマホの登場で何が起きたか。それは、ガラケーの覇者である「ノキア」の衰退である。ノキアはフィンランドのメーカーで、1998年から2011年まで世界一の販売台数を誇り市場を独占した。
トヨタはEVを甘く見ていた
ところが、スマホへの乗り換えが遅れ、時価総額はなんと90%も下落。倒産の危機に陥ったあげく、携帯電話事業から撤退したのである。通信機器メーカーとして再出発し、倒産は免れたが、かつて世界トップに君臨した覇者の面影はすっかり消え失せた。
この構図をガソリン車とEVに置き換えると、私の目には、トヨタがノキアに重なって見えてしまうのだ。
トヨタは1997年、ハイブリッド車のプリウスを発売し、世界的にヒットした。
しかし、このヒットがEVで後れをとる大きな原因になってしまった。初期のEVは、ガソリン車やハイブリッド車よりはるかに劣っていた。バッテリー性能が悪く、製造コストも高かった。そのため、トヨタはEVを甘く見ていたのである。
トヨタにしてみれば、EVは多少の進歩はしても、ハイブリッド車以上のものになるとは思っていなかったわけだ。だから、EVに目を向けることなく、水素を燃料にした内燃機関「水素エンジン」の導入に注力するようになった。
「2030年までに30車種のEVを市場に出す」
そのトヨタが、ようやくEV開発に力を入れるようになったのは2021年のことだ。「2030年までに30車種のEVを市場に出す」と発表し、さらに2023年に社長に就任した佐藤恒治(さとうこうじ)氏は、「従来とは違うアプローチで、EVの開発を加速する」と表明した。
しかし、完全に出遅れているのは誰の目にも明らかだ。
iPhoneを世に送り出したアップルがノキアをモバイルディバイス市場から締め出したように、アメリカのEV大手テスラがトヨタを自動車市場から追い出す。そんな未来が、ありありと目に浮かぶ。
現在、トヨタの業績は絶好調だ。モバイルディバイスと違って、自動車は買い替えサイクルが長いから、今、街中を走っているガソリン車が、今日明日にもすべてEVになってしまうといった事態は起こらないだろう。トヨタも、すぐに倒産危機に陥ることはない。
SMBC GMO PAYMENTクーポンやスタンプも。デジタル会員証アプリがついてくる、キャッシュレスサービスstera pack
EVでテスラに追いつき、追い越すしかない
しかし、やがて必ず買い替えのタイミングは訪れる。そのときは、大半の人がトヨタよりテスラを選ぶだろう。そこがトヨタの「終わりの始まり」になるかもしれない。10年、20年後には、自動車産業は日本の基幹産業でなくなっている可能性も十分考えられる。
長きにわたり日本の大黒柱だった自動車産業が衰退すると、現在、自動車関連産業に従事している約554万人もの人々が失業の危機に瀕することになる。17.3兆円もの自動車輸出額を誇った2022年が、はるか遠き夢の日々になる事態が待っているのではないか。
そんな事態を招かないために、できることは何か。
もはやガソリン車には未来がない以上は、EVでテスラに追いつき追い越すしかない。総力を挙げて、その道を探ってほしいものである。今は、トヨタが発表した「2030年までに30車種のEVを市場に出す」というのが有言実行となり、成功することを祈るばかりだ。
テスラ、BYDのEVは「走るスマホ」である
現実的に考えて、トヨタがテスラに追いつき追い越せる可能性はあるのか。
まず、トヨタの資金力と、自動車製造における抜群の技術力に疑う余地はない。だが、EV開発には、自動車製造における抜群の技術力以外のものが必要だ。ガソリン車やハイブリッド車には搭載できない技術、すなわち情報通信技術である。
たとえば、EVのトップメーカーであるテスラやBYD(中国)が製造しているEVには、常時インターネットに接続できる機能がついている。
つまりテスラ製、BYD製のEVは、いうなれば「走るスマホ」なのだ。スマホは、端末を変えなくても、OSがアップデートすると新しい機能を加えることができる。それと同じようなことがEVでも可能になっているのである。
たとえば、自動運転で駐車できる機能を、テスラはEVの販売開始後にリリースした。まさしくOSのアップデートによって、すでに手元にあるEVに新機能が付与されたわけだ。その他、数カ月に1回くらいのペースで細部の機能が改良されている。
ここから言えることは何か。EV開発では、「電気で動く自動車」というハードウェアを作る技術だけでは足りない。ソフトウェアを充実させることが必須条件なのである。
勝ち取るべきは「ソフトウェアに強い人材」
スマホは、バッテリーの持ち時間や処理速度、あるいは強度といったハード面と、OSやアプリなどのソフト面の両方から成る。EVも、これとまったく同じなのだ。
そう考えると、IT企業を率いてきたイーロン・マスクが代表を務めるテスラが、EVで圧倒的な強みを発揮しているのもうなずけるだろう。
トヨタも、テスラに追いつき追い越すには、ソフトウェアに強い人材を集めることだ。しかし、私の見たところ、動きは鈍い。トヨタの経営陣がソフトウェアの重要性に気づいているのかどうかも怪しいものだ。
これは日本企業の古き体質にも原因があると思われる。
日本の大手企業はソフトウェアの開発が得意ではなく、大部分を下請けに回してきた。トヨタも、パナソニックや子会社のデンソーなど車載器メーカーに頼っているという実態がある。さらにまずいことに、子会社は、実質的な開発を孫請け会社に任せている。
つまり、ソフトウェアに強い人材が親会社にも子会社にもいないのだ。このソフトウェアの課題に一日も早く気づき、ソフトウェア人材を確保しない限り、トヨタはEVで巻き返せないまま、じわじわと弱っていくだろう。
———- 堀江 貴文(ほりえ・たかふみ) 実業家 1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。 ———-