近年は太陽光発電にかかるコストの低下に伴って、世界中でソーラーパネルの導入が進んでいます。電力網の脱炭素化に向けたソフトウェア開発を行うAxle Energyに勤めるベン・ジェームズ氏が、「あまりにもコストが安くなりすぎると、いずれソーラーパネルは送電網に接続できなくなる」と主張しています。
Solar will get too cheap to connect to the power grid.
このまま太陽光発電のコストが安くなるとソーラーパネルを送電網に接続できなくなると専門家が指摘
◆太陽光発電のコストはどんどん下がっている
太陽光発電は地表に降り注ぐ太陽光を利用した発電方法であり、発電に必要なソーラーパネルと一緒に燃料を保管する必要もなく、ソーラーパネルそのものの可動部品も最小限です。そのため、ソーラーパネルは他の発電装置と比較して大量生産が圧倒的に容易だという特徴があり、生産量が増えるにつれて製造コストもどんどん下がっていきます。
物理学者で起業家のケーシー・ハンドマー博士がブログに掲載した以下のグラフは、縦軸が発電量1ワットあたりのコスト(アメリカドル)を示し、横軸が全世界の累計太陽光発電量をメガワットで示したもの。全世界の発電量が増えるに従って、1ワット発電するのに必要なコストが安くなっていることがわかります。
このまま太陽光発電のコストが安くなるとソーラーパネルを送電網に接続できなくなると専門家が指摘
ソーラーパネルの設置も加速度的に進んでおり、世界のソーラーパネルのほとんどは過去30カ月間に設置されたものだとのこと。実際、ソーラーパネル生産量で世界トップを走る中国では、2023年だけでアメリカ全体の太陽光発電量を上回る規模のソーラーパネルが設置されたと報じられています。
以下のグラフは、1年間に追加された太陽光発電容量を示したもので、2023年は爆発的にソーラーパネルの設置が進んだことが見て取れます。なお、2024年のイギリスでは庭に設置するフェンスの約2倍の価格で、同じ寸法のソーラーパネルを購入することが可能だそうです。
このまま太陽光発電のコストが安くなるとソーラーパネルを送電網に接続できなくなると専門家が指摘
◆ソーラーパネルが送電網の飽和を引き起こす
記事作成時点では、ほとんどのソーラーパネルは一般の送電網に接続されています。これにより、ソーラーパネルが発電した電気を電力会社に販売し、送電網を通じてその他の家庭や施設などに供給することが可能です。
ところが、導入コストが低くなったことで配備されるソーラーパネルが増えれば増えるほど、新たなソーラーパネルを送電網に接続するのが困難になるとジェームズ氏は指摘しています。その理由のひとつが、「ソーラーパネル同士が競合してしまう」という点です。
ソーラーパネルはすべて太陽が出ている時間帯に発電しますが、光量の少ない早朝や夕暮れ、まったく太陽が出ていない夜間などは発電量が減ります。これにより、「晴れた日の日中は発電量が増えて電力価格が下落し、夜間は電力価格が上がる」という現象が発生し、ソーラーパネルが増えれば増えるほどこの現象は加速します。やがて、「ソーラーパネルが増えすぎて新しいソーラーパネルを設置しても赤字にしかならない」という状態になるというわけです。
太陽光発電の普及によって大量のエネルギーが余るようになれば、「電気を消費するほど報酬がもらえる」という事態が発生する可能性もあるといわれています。なお、ジェームズ氏は電力価格の下落やマイナス突入により、「既存のエネルギー源を電力にシフトするインセンティブ」が生まれることも指摘しています。
太陽光発電が普及すると「電気を消費するほど報酬がもらえる」時代が来るかもしれない – GIGAZINE
このまま太陽光発電のコストが安くなるとソーラーパネルを送電網に接続できなくなると専門家が指摘
さらに、ソーラーパネルを設置して太陽光発電施設を建設するのは容易ですが、それを送電網に接続するには時間がかかるという問題もあります。すでにイギリスでは、新規の太陽光発電施設を送電網に接続する平均待ち時間は5年以上であり、建設が予定されている太陽光発電施設の40%は、送電網への接続が2030年以降になると見積もられているとのことです。
◆送電網に接続できないソーラーパネルをどうするのか?
新たなソーラーパネルを設置しても送電網に接続できないという状態では、ソーラーパネルで発電した電力をオフグリッドで使用する必要に迫られます。つまり電力を自分だけで消費するということで、オフグリッドで電気を使用するには「バッテリーを充電して使いたい時に使う」という方法と、「発電できる時間帯に大量の電気を使う」という方法があります。
まず、「バッテリーを充電して使いたい時に使う」という方法についてですが、ソーラーパネルと同様にリチウムイオンバッテリーの価格も年々安くなっているため、費用対効果が高く現実的な方法といえます。記事作成時点では、太陽光発電施設から大型バッテリーに送られる電力の多くは地域の送電網の一部を経由していますが、送電網に接続できないソーラーパネルは直接バッテリーに接続する必要があります。これは、ソーラーパネルとバッテリーが同じ場所に配置されることを意味しています。
次に「発電できる時間帯に大量の電気を使う」という選択肢です。この方法では、1日のおよそ4分の1程度の時間しか豊富な電力を使えませんが、バッテリーすら必要としないためコスト的にはかなり安くなり、日当たりのいい場所では実質的に無料で電気が使い放題になることもあり得ます。
ここでいう「電気を使う」というのは工場や施設の稼働に使うというだけでなく、飛行機用の合成ケロシンや肥料用のクリーンなアンモニア、クリーンなメタノール、合成天然ガスといったエネルギー源の製造に使うことも指しています。これらの合成燃料を製造するには、二酸化炭素を排出しない方法で作られたグリーン水素が必要です。グリーン水素の製造には膨大なコストがかかりますが、オフグリッドのソーラーパネルを採用することはコスト競争力を高める有望な選択肢になるとのこと。
このまま太陽光発電のコストが安くなるとソーラーパネルを送電網に接続できなくなると専門家が指摘
ジェームズ氏は、「4分の1の時間で無料のエネルギーを使用するプロセスを構築できるのか」という問いが、エネルギーの未来において最も重要かつ未解明な問題のひとつだと指摘。稼働時間を4分の1にすることは資本集約的なプロセスの投資回収期間を悪化させるため、これは難しい課題に思えます。しかし、ジェームズ氏はこの問題がまだ真剣に検討されていないとして、今こそ断続的に無料のエネルギーを使用するプロセスの設計に取り組む時だと主張しました。