じもとホールディングス(HD、仙台市)が役員報酬を巡り、有価証券報告書(有報)などに事実と異なる記載を繰り返していた問題は、監督官庁である金融庁が誤りを見落としていた。傘下の仙台銀行ときらやか銀行(山形市)に巨額の公的資金を注入し、現在はHDの株主総会で過半数の議決権を持ち、経営状況に最も目を光らせる立場。金融庁が最近まで、きらやか銀の経営姿勢を「称賛」してきたことも監視の実効性に疑問を抱かせる。(経済部・菊間深哉)
「本業支援」のきらやか銀を「称賛」の過去も
事実と異なる記載は有報だけでなく、HDのディスクロージャー(情報開示)誌にも及ぶ。
今年7月に発行された同誌には、きらやか銀の2024年3月期の役員報酬が掲載された。内訳の「株式報酬型ストックオプション(新株予約権)」に300万円と記載があるが、きらやか銀に株式報酬型ストックオプション制度はない。
変動報酬の内訳も載せているが、総額が400万円なのに対し、内訳の一つの基本報酬が4倍以上の1700万円と、つじつまが合わない内容になっている。
じもとHDの傘下2行には09年以降、計780億円の公的資金が注入され、金融庁は原則3年に1度、HDの経営強化計画を承認してきた。HDは24年3月期の年間配当を無配としたため、国が持つ優先株に議決権が生じ、6月以降は実質的に国の管理下に入った。
金融庁は7月、きらやか銀に事実上特化した経営監視チームを設置し、国の関与を強めたが、役員報酬を巡る開示書類のずさんな記載に気が付かなかった。
金融庁には、きらやか銀を高く評価してきた過去がある。
金融庁の専門家会合「金融機能強化審査会」の議事録によると、きらやか銀が「本業支援」を掲げ、リスクを負って地元企業に融資する姿勢に対し、同庁幹部や委員の専門家が「称賛」してきたことが分かる。
12年9月の審査会では担当課長が「きらやか銀はもう皆さま方、ご承知の通り、地域金融、事業再生等含めて積極的に取り組んできている」と絶賛している。
18年9月には、仙台銀の頭取が地元企業への支援が足りないと委員から責められた場面で、じもとHD社長も務めるきらやか銀頭取が「本業支援の統一性について責任を感じる」と陳謝して取りなした。
きらやか銀の積極的な融資は当時、地域密着金融の先進事例と評価され、東北財務局も13年に表彰した。
だが、きらやか銀が業績不振に陥り、当時の頭取が引責辞任した21年ごろになると、公的資金の返済原資が順調にたまっているように見せるため、有価証券運用の損失や与信関係費用の計上を先送りしていた実態が明るみに出た。
結果として、24年3月期に与信関係費用を大幅に積み増し、じもとHDもきらやか銀も過去最大の純損失を計上。公的資金200億円の返済が困難になった。
金融庁は河北新報の取材に「経営監視チームは発足したばかりで、開示書類のチェックまでは難しかった。きらやか銀は公的資金注入の意図に添って地元企業を支援してきたが、急激な物価高により融資先が傷むなど、予期できなかった面もあった」と説明した。