すでに10万台超!「ヤリスクロス」大ヒットの理由

トヨタ「ヤリスクロス」は、名前の通りコンパクトハッチバックの「ヤリス」から派生したコンパクトSUVだ。発売は2020年8月31日、すでに1年が経過している。

ヤリスと同じTNGAプラットフォーム(GA-B)を使い、同じ1.5リッターのガソリンエンジンと「THS-II」ハイブリッドパワートレインを搭載する。駆動方式は2WDと4WDを用意し、価格はガソリン車が179万8000円から244万1000円、ハイブリッド車が228万4000円から281万5000円だ。


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いわゆるBセグメントSUVであり、ライバルは日本車ではホンダ「ヴェゼル」、日産「キックス」、マツダ「CX-3」といったところ。海外でのライバルはルノー「キャプチャー」やフォルクスワーゲン「Tクロス」、海外専売となった日産「ジューク」あたりだ。

ヤリスクロスは日本だけでなく海外でも2021年半ばから発売を予定しており、ヨーロッパ市場向けはフランスで生産される。ヨーロッパを中心にBセグメントSUVは人気の高いクラスだから、トヨタが最後発として「ヤリスクロス」で勝負をかけるといった格好となった。

発売1年での販売台数、約11万台

国内発売から1年が経ち、街中でも見かけない日はないというほどに増えたヤリスクロス。販売台数は、どのぐらいなのだろうか。自販連のデータでは、ヤリスクロスを含むヤリスシリーズの2020年の販売は、15万1766台となっている。

この数字は、軽自動車を除いた登録車としては、ナンバー1だ。2位は、同じトヨタの「ライズ」で12万6038台。その差は、2万5728台である。

しかし、自販連が発表する数値はヤリスとヤリスクロスの合算だ。ヤリスクロス単体での販売はどのようなものか、トヨタに聞いたところ、以下のような数字が返ってきた。

1カ月のフルカウントが始まる発表翌月の2020年9月から2021年8月までの1年でいうと、10万9020台となる。「ヤリスクロスは売れているだろう」と予想はしていたが、発売1年間で11万台に迫る数字は、驚くほど大きなものだ。

2020年8月~2021年8月に販売された10万9240台のうち、ガソリン車とハイブリッド車の販売台数の内訳は、ガソリン車が37910台でハイブリッド71330台。その割合はざっくりと「1:2」で、ハイブリッドのほうが多く売れている。

年間およそ11万台という数字は、2020年の販売ランキングでいうと、年間4位の「フィット」の9万8210台を上回り、11万8276台の「カローラ」の下。つまり、4位に相当する。

仮に、ヤリスクロスの2020年中の販売台数をヤリスシリーズから除外し、ヤリス単体でのカウントとすると、2位のライズを下回ってしまう。つまり、ヤリスクロスをヤリスに合算していなかったら、2020年のナンバー1はヤリスではなく、ライズであったのだ。


「ライズ」は167万9000円~と、より手頃なコンパクトSUV(写真:トヨタ自動車)

もしも、ヤリスクロスが、ヤリスシリーズではなく、別個の名前を与えられていれば、2020年はダイハツ生産車が年間ナンバー1を獲得とする快挙となっていたといえる。

絶妙な発売タイミングもヒットの理由

ヤリスクロスのヒットの理由は、いくつも考えられる。まず、基本的にクルマのデキがいいことが挙げられる。当たり前だが、クルマのデキがよくなければヒットには至らない。

今は、BセグメントSUVをはじめとするコンパクトSUVが世界中で大人気になっている。そこにトヨタが世界市場を見据えて投入したのが、ヤリスクロスである。

デザインから走り、燃費性能(なんと最高30.8km/Lを達成)、先進運転支援システムの充実度まで、気合の入った内容で、しかも価格も手頃だ。ガソリン車であれば180万円から200万円台前半、ハイブリッドでも250万円前後というのは大きな競争力となっている。

ライバルのCX-3も189万2000円からとエントリー価格こそ近いが、燃費のいいディーゼルエンジンの上級グレードは、2WDでも300万円弱だ。


マツダ「CX-3」はクラス唯一ディーゼルエンジンを用意する(写真:マツダ)

さらに、2020年夏という販売のタイミングもよかった。最大のライバルとなるヴェゼルは、2021年4月にフルモデルチェンジを控えたモデル末期。CX-3も、デビューは5年も前でフレッシュさはない。

さらに2020年6月に登場した日産のキックスは、ハイブリッド専用車で最低でも275万9900円からと、価格帯がまったく異なる。


日産「キックス」は電動化パワートレイン「e-POWER」のみ設定(写真:日産自動車)

つまるところ、2020年のヤリスクロスには、ガチンコのライバルがいなかったのだ。無人の野をゆくがごとく、快進撃も当然のことだろう。

ちなみに、新型ヴェゼルが2021年6月に登場してからも、ヤリスクロスの販売は伸びている。月間数千台単位が、7月以降は1万台を超えているのだ。ライバルが登場すると、話題が集まって販売数が伸びるというのが、新車販売のおもしろいところである。

2020年8月のヤリスクロス発売から約1年後となる2021年9月14日、トヨタは「カローラクロス」を日本に投入した。こちらはヤリスクロスの1つ上となるCセグメントのSUVだ。

これにより、トヨタには下から「ライズ」「ヤリスクロス」「カローラクロス」というコンパクトSUVが揃うことになる。また、CセグメントSUVには、2016年発売の「C-HR」もある。


9月14日に発売された「カローラクロス」(写真:トヨタ自動車)

振り返れば、2016年にC-HR、2019年にライズ、2020年にヤリスクロス、2021年にカローラクロスと、トヨタはコンパクトSUVを毎年、投入している。しかも、それらのキャラクターはしっかりと差別化されており、購入時に悩むことはない。

ラギッドで若々しいライズ、シティ派でキビキビ走るヤリスクロス、オールマイティで実用性に優れるカローラクロスといった具合だ。

さらにトヨタは、その上にも「RAV4」「ハリアー」「ハイラックス」「ランドクルーザープラド」「ランドクルーザー」とSUVラインナップを用意する。価格帯の上から下までキャラクターも硬軟も揃え、まさに水も漏らさぬ布陣だ。「SUVが欲しい人を1人も逃さぬ!」というような意思さえも感じる。

うならされるトヨタの“地力の強さ”

もちろん、このような豊富なラインナップは、地力に優れたトヨタだからこそできる力技だ。トヨタ以外のメーカーも複数のSUVをラインナップするが、これほど充実していない。

ヨーロッパブランドもサイズ違いでいくつものSUVを揃えているが、基本的なキャラクターはすべて同じで、金太郎あめ的にサイズと価格にランクが用意されているだけだ。トヨタのようにバラエティ豊かなキャラクターを揃えるメーカーはほぼない。

しかも、トヨタは中国市場向けに「クラウン」のSUVまで販売している。もしも、日本市場にクラウンSUVが投入されれば、ランドクルーザーとハリアーの間を埋めることになるだろう。ミドルクラスより上のSUVラインナップも、充実するのだ。きっと、これも高い人気を集めることだろう。

大成功のヤリスクロスが果たす役割は、「SUVが欲しい人」を1人も逃さないためのラインナップの1台であると同時に、トヨタのSUVラインナップの中で上級移行させる戦略的な1台でもあるのだ。

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