そば大衆店はどこに行く? コロナで駅そば苦戦 大戸屋やすかいらーくがロードサイドに続々出店

外食大手が郊外ロードサイドで、日本そば専門店を出店する動きを加速させている。しかも「自家製麺」を打ち出す本格派だ。

 今年1月18日には「ガスト」などを展開するすかいらーくホールディングスが6年ぶりの新業態「八郎そば」を埼玉県白岡市にオープン。6月14日には2号店が誕生した。

 定食チェーン「大戸屋」の大戸屋ホールディングスは6月23日、東京都西東京市に新業態「蕎麦処 大戸屋」をオープン。7月13日に2号店を出店している。

 東海地方を中心に和食ファミレスを展開するサガミホールディングスも、2021年12月に新業態でセルフ式の十割そば専門店「十割そば二代目長助」を愛知県扶桑町にオープン。現在は5店舗体制になっている。

 このような動きの背景には「ゆで太郎」チェーンの成功がある。郊外ロードサイドに積極的に出店しており、総店舗数は213店に上っている。

 一方、コロナ禍で厳しかったのは、駅中・駅前の駅そばだ。立ち食い形式も多く、日常食なので不況に強かったが、今回のコロナ禍は勝手が違った。ステイホームが推奨され、不特定多数が乗る公共交通の利用が避けられたため、電車を使っての通勤・通学が激減したことが背景にある。それぞれの事情は後述するが、地元企業が運営元と交渉して復活したケースもある。

 駅からロードサイドへと中心が移動しつつある、日本そば大衆店の現状をレポートする。

●すかいらーくグループはメニューが豊富

 すかいらーくグループは、コロナ禍で特にガストなどの総合ファミレスの落ち込みが激しかった。一方、ハワイアンカフェ「ラ・オハナ」、郊外型喫茶「むさしの森珈琲」、しゃぶしゃぶ「しゃぶ葉」などといった専門性の高い店は好調。

 そこで、専門性の高い新業態を積極的に開発して出店している。飲茶「桃菜」は今年2月、東京都町田市内に1号店を出店して以来、首都圏で瞬く間に12店にまで増えた。

 埼玉県内に現状2店がある八郎そばは、桃菜ほどの爆発的な勢いはないものの、健康志向や高齢化に対応した日本そばの業態であり、全国規模での出店が期待できる。

 1号店の白岡店は東北自動車道・圏央道の久喜白岡JTC近く、2号店の南荻島店は文教大学越谷キャンパス近くの国道4号線沿いにある。どちらも「ステーキガスト」の跡地に入居した。

 八郎そばのコンセプトは“今日は旨いめしを腹いっぱい食べたい”だ。店名の由来は、末広がりで縁起の良い「八」と、良い場所を意味する「郎」の文字から、食事によって幸せな気持ちになりますようにという願いを込めたとのことだ。

 麺は、自社工場で製造した「二八生そば」を使用。味、香りの強い挽(ひ)きぐるみ粉を使い、製麺時には気温や湿度に合わせて水温を調節して最適なそば生地をつくる。また、生地をゆっくりと薄く延ばすことで、歯切れ良くしなやかな麺に仕上げたという。この麺に到達するまで、切り幅や厚みを見直し、何度も試作を繰り返した。

 ガストに倣って、水やお茶はセルフサービス。注文は席に設置されたタッチパネルで選ぶ。配膳には、ネコ型配膳ロボットが活躍している。

 ユニークなのは、セルフで「そば湯バー」が利用できること。八郎そば独特のサービスである。なお、ドリンクバー、スープバーは設置していない。

 メニューは、二八生そばの「大海老天二八せいろ」(1000円)、つけそばの「具沢山!豚つけ汁そば」(950円)、丼の「特製ロースカツ丼 スープ付」(850円)などをそろえた。そばと丼のセットもある。

 そればかりか、牛すじやみすじなどの牛肉を店舗でじっくり煮込んだ「特製肉めし」スープ付(1000円)も販売。「かつや」系列の新橋「肉めし 岡もと」の料理を彷彿(ほうふつ)させる。

 熱々の鉄板で辛味噌を溶かしながら食べる方式で、豚肉とキャベツなどの野菜を炒めてにんにくを効かせた「鉄板焼肉定食<豚ハラミ&豚ロース>」(1000円)は、博多の名物料理を想起させる。白岡店のみの販売。

 このように、メニューの種類が豊富で、そばにプラスして丼や定食も幅広くそろえた店となっている。顧客単価は1000円前後と目され、そば屋としてはやや高いが、ファミレスとしては安価だ。

 顧客層は、ファミリーやシニア層が中心。

●大戸屋はそばに注力

 大戸屋ホールディングスは、今年2月に弁当・総菜のテークアウト専門「大戸屋おかず処」を、東京都調布市の調布パルコにオープン。4月には東京駅丸の内口、丸ビル「マルチカ」に2号店を出店した。

 このような大戸屋多様化の第2弾として、蕎麦処大戸屋が提案された。これにより、大戸屋はごはん処、おかず処、蕎麦処と3業態に分化した。さまざまな大戸屋があるのは、消費者サイドから見てややこしい気もするが、大戸屋ブランドをより細かいニーズで拾って、幅広く浸透させていこうというわけだ。コロワイド傘下になる前も大戸屋は新業態にチャレンジしたが、浸透しなかった。大戸屋のブランドはそのままに、新業態を出していこうという試みだ。

 現状は、1号店の田無店が、西武新宿線花小金井駅から1キロほど離れた青梅街道沿いにある。2号店の淵野辺店は国道16号線沿いにあり、青山学院大学相模原キャンパスに近い。

 蕎麦処大戸屋は店内で粉からそば打ちをしているのが特徴で、窓から製麺室が見える。打ち立て、茹(ゆ)で立てを提供する。

 そばつゆが2種類提供されるのもユニークだ。王道の「醤油かえし」とさっぱり「ゆず塩かえし」をそれぞれ鰹のだしで割っている。特に、ゆず塩のつゆは同店ならではの提案だ。素材や調味料を厳選しており、特定の保存料、着色料、香料、調味料を使っていない。

 さらに、15年に大戸屋が米ニューヨークのマンハッタンにオープンした、ミシュラン1つ星獲得店「天婦羅まつ井」の技術とノウハウを継承した天ぷらも売りだ。

 主なメニューは「“まつ井”天ぷらせいろ蕎麦」(1450円)、「ねばねば野菜のばくだんまぜ蕎麦」(980円)、「“まつ井”天丼」(1380円)、「かつ丼」(1300円)など。

 顧客単価は1000円を超えそうで、通常の大戸屋よりも高め。しかし、ファミレスとして見た場合はやや安い部類に入る。

 顧客はこちらもファミリー、シニアが多い。若い頃に大戸屋を利用していた人が懐かさを感じて来るケースもあるようだ。八郎そばよりもそばに特化しており、そばを楽しみたい人にターゲットを絞っている。

●サガミホールディングスはリーズナブル

 名古屋を拠点とするサガミホールディングスは、そば、うどん、名古屋めしを中心にした和食ファミレス業態を、東海、関東、関西、北陸の郊外ロードサイドで手掛けてきた。主なチェーンに「和食麺処サガミ」133店(3月末現在)、「味の民芸」51店(同)などがある。

 その同社が手掛けるセルフ式の十割そば専門店が、21年12月より展開を始めた十割そば 二代目長助だ。現状は、愛知県に3店、岐阜県に1店、千葉県に1店と5店ある。

 21年10月には愛知県岩倉市に「かき揚げ十割そば 長助」という同じくセルフ式の店を先行して立ち上げた。岩倉の「長助」は券売機で買う方式。「二代目」は讃岐うどんのように、商品を選択し受け取ってカウンターで会計する方式だ。長助には二代目にはない「厚切り肉そば」があるなど、メニューも少し違う。

 十割そば 二代目長助は、愛知県扶桑町に1号店の扶桑店をオープン。その後、一宮三条店、岐阜岩滝店、稲沢店を東海地区にオープンしてきた。

 そして、5店目で関東に初進出。千葉県野田市の国道16号線沿いに23年3月31日、野田店をオープン。隣は「丸亀製麺」、道向かいは「安楽亭」「味の民芸」といった有名店が居並ぶ立地で、観覧車が有名な「もりのゆうえんち」や野田市役所にも近い。サガミグループの期待のほどが分かる。

店内で石挽きしたそば粉を100%使った十割そばが同チェーンの特徴で、店を入ってすぐに石挽室が見える。茹で立てのそばは、石から挽くだけに、さすがにそばの甘味や香りを感じられる。このクオリティーのそばが1000円以下で提供されていることに驚かされる。そばつゆやそば湯も、しっかりとした味がする。

 そばつゆ(もり・ざる専用)、わかめ、わさび、天かす、ソース、天つゆ、そば湯、水、お茶がセルフで取り・飲み放題。卓上には、しょうゆ、唐辛子が2種類、オリジナルの「天ぷら用万能たれ」を常備している。

 メニューは「もりそば」(430円)、「ざるそば」(460円)、「おろしそば」(540円)、「大判きつねそば」(560円)、「大和芋のとろろ汁そば」(660円)、「鴨つけそば」(690円)などで、価格は立ち食いそばが意識されている(価格は関東圏のもの)。十割そばでもそれに近い値段で提供しようと努めている。

 サイドメニューとして、野菜かき揚げなどの天ぷら、天むすなどのおむすび、若干のお酒やソフトドリンクがある(80円~)。

 システム全般に「丸亀製麺」をそばに変換した趣があるのも特徴だ。

 まだまだ知名度が低いが、高齢化が進み、価格に対してシビアな地方で伸びそうだ。

●挑戦を受けるゆで太郎の特徴

 ゆで太郎は、FCを中心に全国展開を目指すゆで太郎システム(東京都品川区)と、東京の都心部で店舗展開する信越食品(東京都大田区)で運営している。

 大手各社の挑戦を受けているゆで太郎の動向を見てみよう。

 信越食品が1号店の湊店(既に閉店)を東京都中央区にオープンしたのが1994年。同社の創業者でそば職人だった水信春夫氏は、「挽き立て」「打ち立て」「茹で立て」の三たてにこだわった。そして、そばが日常食となるように廉価で提供できる仕組みづくりにも注力した。

 マニュアルを完成できたのは、ほっかほっか亭の取締役FC本部長などを歴任した池田智昭氏の貢献が大きい。

 2007年、千葉県市原市に初の郊外ロードサイド店を出店して成功。以降は主に郊外店を中心に出店を重ねている。

 東京都内23区の駅前であれば「富士そば」「小諸そば」などの強力なライバルが存在するが、郊外はがら空きで一人勝ち状態だった。

 ゆで太郎のメニューは「かけそば」と「もりそば」が430円、「野菜かきあげそば」が550円などとなっている。人気のミニ丼とのセットは、ミニかつ丼やミニ三海老天丼とかけまたはもりのセットは830円だ。

価格帯は八郎そばや蕎麦処大戸屋と異なる。二代目長助と価格帯は被るが、ゆで太郎はセットになるミニ丼が、カレーも含め10種類と豊富。厳密に競合といえるかは微妙なところ。

 しかも、ゆで太郎は20年より「もつ次郎」併設店を展開し始めた。もつ次郎はもつ煮やもつ炒めの定食が760円~と手軽に食べられる食堂の業態。すでにもつ次郎併設店は132店に上り、ごはん物が強化されている。売り上げ増、店舗効率化、新規顧客開拓などといった効果が出ている。

 競合他社がまねできない、差別化に成功したといえるのではないだろうか。

●駅の立ち食いそばは苦戦

 このように活性化する郊外型の日本そばチェーンであるが、コロナの影響でステイホームが推奨されて鉄道利用者が激減したため、苦境に陥ったのが立ち食いを主とする駅そばだ。

 薄利で提供していた良心的な店ほど、店主の高齢化や後継者難が相まって、閉店してしまうケースが残念ながら後を絶たない。

 駅の再開発が閉店理由であるJR渋谷駅「本家しぶそば」は例外として、もともとあった後継者難がコロナによる営業不振によって露呈し、経営を諦めたケースも多い。

 一例を挙げれば、東京駅で唯一のホームにある駅そばだった「東京グル麺」が22年9月に閉店。コロナ禍の影響で売り上げが4分の1にまで落ち込み、回復の道筋が見えなかったという。東京グル麺は東海道新幹線の18、19番線ホームにあり、「カツ煮そば・うどん」が名物だった。

 JR桜木町駅構内「川村屋」は明治33年(1900年)の創業。当初は洋食店だったが、1969年に駅そばを開業、89年より駅そば専業となった。天然だしを使った手作りの汁が評判の店だったが、後継者が見つからない中、店舗運営が継続できなくなって2023年3月に閉店となった。

 JR音威子府駅構内「常盤軒」は1933年の創業。音威子府は宗谷本線の特急停車駅で、かつては天北線(1989年廃止)が分岐する乗換駅としてにぎわっていた。夜行列車が走っていた頃は24時間営業していた時期もあったという。

 常盤軒のそばは、黒々とした太麺の地元・畠山製麺の麺を使い、独特の風味で旅行ファンや鉄道ファンに熱烈に支持されていたが、21年2月に店主が亡くなり後継者がないまま閉店した。

 そればかりか、畠山製麺も22年8月に後継者難で廃業。村の名物である音威子府そばの伝統が途切れる危機に陥った。

 しかし、元村民で実家がそば農家という千葉県茂原市の「音威子府食堂」店主の佐藤博氏が、東京都新宿区のそば居酒屋「音威子府TOKYO」、茂原市の三浦家製麺と共同開発。試行錯誤の末「新音威子府そば」として、23年5月に復活させた。オリジナルに忠実な味と、地元からの評判も上々だ。

22年1月、中沢製麺(栃木県栃木市)が委託運営をしていたJR小山駅の「きそば」が、JR東日本のグループ再編により約70年続いた営業を終了。しかし、地元企業の熱意で場所を変え、東武伊勢崎線足利市駅の駅前に復活した。

 店名は「おやまのきそば」だ。志賀産業(栃木県足利市)の松川光宏経営企画部長が、子どものころからのきそばファンだったことから、中沢製麺の中沢健太社長に直談判。材料、ノウハウを供与され、22年9月1日にオープンしている。

 東京など遠方から同店を目指して来る人も多く、大きな反響を生んでいる。人気のメニューは、小山駅にあった頃からの名物「岩下の新生姜そば」だ。

 きそばは新海誠監督のアニメ映画『秒速5センチメートル』で登場する立ち食いそばのモデルになり、聖地とされていた。かつては、両毛線の栃木、佐野、足利の各駅にも店舗があった。

 このような人気店であるため、栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅前「駅前横丁」にも同日の22年9月1日、「宇都宮きそば」がオープンした。

 その後も、小山市のキッチンカーと「小山東屋台村」常設店、栃木市の常設店と続々とオープンして、きそばの勢いは小山駅に1店残っていた頃より増している。JRに見切られても、地元に本当に愛されていればきそばのように駅のみにとらわれない立地で、奇跡の復活もあり得るのだ。

●実力派チェーンが苦戦

 駅そばに限らず、東京都心部にチェーン展開している富士そばは、コロナで20店近くを閉店。小諸そばも京橋の1号店をはじめ、秋葉原、新川、東池袋、飯田橋などの店がドミノ倒しのように閉店した。

 大手ばかりでなく、十割そばの立ち食いという独特な位置付けにある嵯峨谷も10店中半数の5店が閉店した。店内で石臼から粉を引いて製麺、わかめが無料で取り放題というサービスは、二代目長助が始める前から嵯峨谷に存在していた。

 嵯峨谷もコロナの影響が減って8店にまで盛り返してきた。店にもよるだろうが、コロナ前の客数に届いているかどうか。

 富士そば、小諸そば、嵯峨谷のような実力派チェーンをもってしても、なかなか大都市の駅前、駅近くで営業して売り上げを伸ばすのは難しい。終電が早くなり、はしご酒の後、立ち食いそばで締めて帰る文化がなくなってきた。

 高齢化が進む郊外で、シニアや三世代のファミリー客を狙うロードサイド型へと、日本そばチェーンの主流が変化している。

(長浜淳之介)

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