駅弁のなかには、陶器や本格的な弁当箱型など、捨てるに捨てられないものも多数。再利用する人の声から単体発売された「容器の蓋」もヒットを記録しました。そこで、駅弁容器を使って「旅行に行った気分になれる」料理を提案します。
「蛸壺」の駅弁容器に「蓋」登場
全国の駅弁の容器のなかには、その容器を家に持ち帰って再活用することを想定したものも存在します。2021年1月には、西明石駅の定番駅弁「ひっぱりだこ飯」容器のオプション「ひっぱりだこの蓋」が発売され、話題を呼びました。愛用者からの声を受けて商品化されたものですが、発売元・淡路屋の予想を越えて注文が集中し、2月22日には5000個完売も報じられました(同日付「産経WEST」)。
陶器の「ひっぱりだこ飯」容器は、たこ壺を模した味のあるデザインもあって、特に関西の家庭なら「『何かに使えそうだから』とオカンやオトンが取っておいた」というケースも多く見られます。しかし料理や食材の保存にちょうど良いフタがなかったことから活用は限られ、なかには入念にラップをしたり、ちょうど良い小皿をフタがわりに乗せて使っていたりといった工夫も聞かれます。「蓋」の登場は、その「何か」を長年待っていた人々に応えたのではないでしょうか。
この壺で「茶碗蒸し」「プリン」などの調理を試したところ、上部をアルミホイルで覆うなどの手間をかけることなく、程よい通気性を保ったまま蒸し上げることができました。ツボ型のフォルムは下方がふくらんでいるため、熱いものは熱く、冷たいものは冷たさを保ったまま食べることができます。また梅干しや漬物など長期保存の食材も冷蔵庫での保管が簡単になり、縦長に置けるためスペースの節約にもなるのも嬉しいところです。
また「辛口壺ニラ」「やみつきもやし」「キムチ」などの作り置き料理に使えば、食卓はラーメン店のカウンターに早変わり。直火での調理こそできませんが、「壺カルビ」「サムゲタン風スープ」などに使うなど、焼肉店やアジアンカフェっぽい演出にも使えます。
ちなみに「ひっぱりだこ飯」の壺の内径には、大概の「モロゾフ」のプリン容器が不思議なほどぴったり入ります。関西の家庭で「なぜか家にある」容器の代表格どうしを組み合わせて、使用後もコンパクトに収能が可能です。
捨てられない駅弁容器キング? 「峠の釜めし」釜の使い道
かつて簡素な包装が多かった駅弁に「容器を持ち帰って使う」という概念を持ち込んだのは、信越本線 横川駅(群馬県安中市)の駅弁「峠の釜めし」ではないでしょうか。手に馴染む感触の益子焼の土釜は、食べ終わった後も「持ち帰った容器を活用できれば、旅の思い出になるのでは」という製造元である荻野屋の創業者・高見澤みねじ氏のささやかな願いもあったそうです。
「峠の釜めし」は製造の段階から土釜にお米と水を入れて炊飯しているため、持ち帰った容器でちょうど1合(300~350g、お茶碗2杯分程度)のご飯を炊くことが可能です。荻野屋のホームページに簡単なお米の炊き方が掲載されているため、拍子抜けするほどあっさり、冷めても美味しい白飯が炊き上がります。
慣れれば炊飯時のちょっとした工夫で、硬さや柔らかさを調整したり、底面におこげを付けたりできるほか、茶めしや炊き込みご飯なども思いのまま。ステイホームで家にいる時間が多い今、「はじめチョロチョロ、中パッパ」の音に耳を傾け、「釜めし炊飯」を楽しむのもいいかもしれません。もちろん、アウトドアのお供にも最適です。
また峠の釜めしの容器は、「アクアパッツァ」「アヒージョ」などシングルサイズのメインディッシュ作りも最適で、荻野屋ウェブサイトにさまざまなアイデアが掲載されています。筆者(宮武和多哉:旅行・乗り物ライター)が実際に作ったもののなかでは、釜の深さを生かして中サイズの玉ねぎを丸々入れる「まるごとオニオングラタンスープ」や、野菜と豚肉を敷き詰めた「ミルフィーユ鍋」、予熱でふっくら焼き上がる「カンパーニュ風パン」などがお勧めです。
ただし、この容器は植木鉢に転用しやすいよう底面を薄くして穴を開けやすくしているため、炊飯に複数回使用すると、どうしても底面の割れが生じます。使用前後の乾燥や「目止め」(米のとぎ汁を沸騰させ水漏れを防ぐ)など、通常の土釜と同じようなメンテナンスを行ったほうが長く使えるようです。
また植木鉢のほか、音の伝導性を生かしてスピーカーに改造するケースなど、料理以外に釜を使う人もいます。
駅弁の「再現」で「どこかに行った気分」を!
陶器の容器以外にも、弁当箱として再利用できるような駅弁も多く存在します。たとえばJR東日本のグループ会社が断続的に発売している「特急列車ヘッドマーク弁当」は、弁当箱メーカーの老舗「スケーター」の密閉性が高い4点止めランチボックスを容器に使用。10種類以上の豊富なデザインは、オンラインランチやオンライン飲み会などの話のネタとしても使えるかもしれません。
これまで旅行先で駅弁やご当地グルメを楽しんできた人びとの中には、味や見た目を思い出しつつ、自宅の食事やお弁当のレシピに駅弁の要素を取り入れる人々も。各種レシピサイトには「○○駅の駅弁風」などの投稿が多く見られます。
筆者がさまざま試した中では、鹿児島本線 折尾駅の「かしわめし」風、奥羽本線 米沢駅「牛肉どまん中」風弁当などは、見た目だけなら近づけることは可能です。なかなか現地に買いに行けない状況が続くなかで、お弁当箱を開ける瞬間だけでも「いま九州にいる」「東北にいる」気分で、ごくごく小さな幸せを味わうのも良いのではないでしょうか。