またたばこが値上がりした。2021年10月1日のたばこ税増税に伴い、たばこメーカー各社は一斉に小売り価格引き上げを発表。メーカー毎で微細な違いはあるものの、1箱あたり約20~50円の値上げとなった。
平成30年度から3段階で増税され、今回が最終段階となるが、毎年の値上げに、喫煙者たちは悲鳴を上げている。コロナ禍での経済不況も相まり、もはや一般家庭において煙草は贅沢品だ。2020年4月から施行された改正健康増進法(屋外の飲食店は原則禁煙)により、気軽に吸える場所も少なくなった。
この状況下で泣く泣く禁煙を決意した人も多いのかと思いきや……“歴戦の愛煙家たち”からは、意地と根性の声が聞こえてきた。
◆喫煙者は人口の3割程度
筆者がSNS上で「喫煙者・元喫煙者・喫煙者の家族」を対象に匿名のアンケートを実施したところ、以下のような結果になった。
アンケートの回答数は21人と母数が少なかったため、追加で身近な喫煙者20人に聞き取り調査を行ったが、やめる選択をしたのは1割程度。ほぼ全ての喫煙者が、今回の値上げでも「吸い続ける」と回答している。
現時点での最新公的データである「JT全国喫煙者率調査(2018年度版)」によると、平成30年時点での成人男性の平均喫煙率27.8%。成人女性の平均喫煙率は8.7%。年代別に見ると、男性30代~50代の喫煙率は30%を超えている。
男性喫煙率が80%を超えていた時代も今は昔。年を追うごとにたばこを吸う同志が減っていくなか、たばこをやめない理由を改めて聞いてみた。
◆値上げでもやめない理由とは
筆者が行った匿名アンケートには、男性喫煙者からさまざまな「やめない理由」が寄せられた。
「自分にとって、煙草がもはや趣味になりつつあるから」(20代後半)
「仕事柄まとまった休憩時間を確保しにくいので、煙草はちょうどいい休憩になる。また、単純に煙草が好きだから」(30代後半)
「緊急性のやめる理由がないから」(40代前半)
「嗜好品なので、本心から辞めたいと思わない限り意味がないと思っている。自分が禁煙に成功するなら、経済的な問題か、フェードアウトする形で『気付いたら禁煙していた』になると思う」(40代前半)
その他に、「たばこ以外に趣味がないから」「我慢してまでやめたくない」といった意見も。“意地でもやめない”という熱意すら聞こえてきそうだ。
聞き取り調査に答えてくれた実業家の男性(30歳)は、得意げにこう語ってくれた。
「事業をやっていてお金があるので、『〇円になったらやめる』とかは考えていないです。税金を多く払っている優越感にも浸りたいし、1箱1万円になっても吸います(笑)」
なんとも羨ましい理由である。しかし中には、のっぴきならない事情から禁煙を断念している人も。
◆禁煙した結果、仕事に支障が…
明さん(仮名・44歳)は喫煙歴22年の塾講師。現在は自宅で紙巻たばこを吸い、外ではプルームテックを愛用している。一度だけ禁煙にチャレンジしたが、1ヵ月で終わったそうだ。
「副業で禁煙関係のアフィリエイトサイトを作った時、試しに禁煙してみました。吸いたくなったら市販の禁煙ガムを噛んでいましたが、眠気がひどくなってしまって……。職場で使い物にならなくなってしまうので、今回の値上げでも禁煙は考えていません」
ストレス解消と息抜きを兼ねて喫煙している明さん。だが、吸い続けるいちばんの理由は、「眠気防止」だ。「眠気の問題で、仕事をしているうちはなかなかやめられないですね。独身で一人暮らしなので、誰かに何かを言われることもありませんし。会社を辞めて自営業になるなら、断煙や禁煙をしてみるのもアリかなと思っています。既婚者の上司は、奥さんから『1日〇本まで』と制限されているようです」
今回の値上げについて、明さん自身は気にしていないそうだ。しかし思うところはもちろんある。
「数十円単位の値上げで、釜茹でカエルのように慣れさせられちゃっているんでしょうね。例えば一気に1000円に値上がりするなら、やめることも考えますが……今まで通り少しずつ値上げされて、最終的に1000円になったとしたら、やはり自分は気にしないんだろうなぁと思っています」
真綿で首を締めるような、数十円ずつの値上げ。その根競べに嫌気が差し、今回禁煙に踏み切った男性もいた。
◆「値上げに疲れた…」喫煙者のホンネ
「健康や家計への危機感はありませんでしたが、度重なる値上げに付き合う気が失せてしまいました」
そう語るのは、小売店勤務の一樹さん(仮名・33歳)だ。一樹さんは喫煙歴10年以上のヘビースモーカー。1日あたりの消費量は30~40本だった。今回の値上げに合わせて禁煙を開始し、すでに1ヵ月以上続いている。
「度重なる値上げにうんざりしていたのと、職場での会話がきっかけです。上司や同僚と値上げの話になった時、『ヘビースモーカーは絶対に禁煙失敗する』ってみんな笑っていたんですよ。じゃあ、逆張りで禁煙してやろうと思って(笑)。それで成功したら面白いじゃないですか」
「自分だけ禁煙に成功して、禁煙できない同僚を煽り散らかしたい」と語る一樹さん。理由の是非はどうであれ、最大限のモチベーションになっているようだ。禁煙を成功させるため、ニコチンフリーのVAPEを併用するところからスタートしたという。
◆禁断症状で自問自答「それでいいのか?」
「日々のニコチン摂取量を減らしてから完全禁煙に移ったおかげか、意外と耐えられています。辛かったのは最初の2日間だけですね。そこが山場でした。僕は気合で乗り越えましたが、素直に禁煙外来へ行ったほうが楽なんだろうなと思います」
辛かったという山場の2日間は、憂鬱な気分に悩まされていたそうだ。
「快楽を奪われたような、気持ちの昂ぶりを禁じられた感覚でした。そのうち、辛くなったもう一人の自分が、『お前……たばこを吸わないと、この気持ちをずっと味わい続けるんだぞ……? それでいいのか……?』って問いかけてくるんですよ。さらに我慢を続けていると、『自分は宇宙に存在する一粒の砂なんじゃないか』って、スピリチュアルな気持ちにもなってきて……。休みの日に合わせて禁煙を始めたので、寝て逃げることでギリギリ耐えられました」
一樹さんのように気合だけで禁煙に成功している人は多くないだろう。彼自身、「VAPEを使って事前準備をしていたから耐えられたけど、そうでなければ不可能だったはず」と語る。
実際にいきなり禁煙した一樹さんの同僚も、1週間ともたずに挫折してしまったらしい。
「職場の若年層は吸わない子たちばかり。僕の同僚も含め、もう一部の“訓練されている猛者たち”しか残っていないんじゃないですかね(笑)。吸いたい人は無理してやめる必要もないとは思います。僕も値段が元に戻れば、また吸いますよ」
かの有名作品『進撃の巨人』の1コマにならうなら、国・地方合わせて総額2兆円の財源を担う現在の喫煙者たちは「ツラ構えが違う」というやつだろうか。政府が発表している次回のたばこ税増税は、来年2022年の10月(加熱式たばこのみ)。愛煙家の意地と根性が試される…といったら大げさか。
<取材・文/倉本菜生>【倉本菜生】
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院在籍中。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。Twitter:@0ElectricSheep0