物件を選ぶ際の決め手にはさまざまな要素がある。中でも、部屋の広さは重要なポイントの1つと言えるだろう。
今回は、国土交通省が発表した2023年度の「建築着工統計調査報告」から床面積にスポットを当て、物件種類別に変化を追った。長期的に見ると、床面積の縮小が続いていることがわかった。
本記事で取り上げるのは、「新設の持家」「貸家」「分譲住宅」の3種類。分譲住宅においては、戸建てとマンションのそれぞれの床面積も比較する。
●建築着工統計調査とは
国交省を中心に、全国の建築物の動態について調査するもの
毎月調査結果を公表している
【用語の定義】
新設:住宅の新築(旧敷地以外の敷地への移転を含む)、増築または改築によって住宅の戸が新たに造られる工事
持家:建築主(個人)が自分で居住する目的で建築するもの
貸家:建築主が賃貸する目的で建築するもの
分譲住宅:建売または分譲の目的で建築するもの
物件の床面積は縮小傾向にある
2023年度の「建築着工統計調査報告」によると、新設の1戸当たりの床面積の平均は77.73平米。利用関係別に見ると、持家は113.95平米、貸家は47.66平米、分譲住宅(建売、マンションなど)は87.60平米だった。持家の床面積は貸家の約2.4倍、分譲住宅の約1.3倍に及ぶ。
新設の1戸当たりの床面積を時系列で見ると、年々狭くなっていることがわかった。広さのピークは2000年度で、96.87平米。2023年度の結果と比較すると、23年間で19.14平米・19.8%縮小している。
持家の広さのピークは1996年度で、床面積は141.03平米だった。2023年度は113.95平米だから、27年間で27.08平米縮小している。
一方、貸家の広さのピークは1980年度の57.08平米。2023年度は47.66平米だから43年間で9.42平米の縮小だ。
建売の戸建てやマンションなどを合わせた分譲住宅の広さのピークは2001年度の98.06平米であった。2023年度は87.60平米のため、22年間で10.46平米縮小している。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
持家、貸家、分譲住宅のいずれも床面積は狭くなっているものの、縮小のペースには差がある。それぞれのピークから年率を計算すると、持家は0.83平米、貸家は0.22平米、分譲住宅は0.48平米ずつ狭くなっていることになる。
直近10年間の傾向では、持家は2014年度から一貫して縮小傾向をたどっているのに対し、貸家は2020年度に45.69平米まで縮小した後、2021年度から2023年度まで3年連続で拡大している。分譲住宅は87〜90平米で推移しており、特に顕著な傾向は見られなかった。
分譲マンションは20年間で大きく縮小
次に、分譲住宅のうち、戸建て(建売)とマンションの床面積を比較する。
戸建ての広さのピークは1990年度の110.19平米であり、2023年度は101.80平米であった。33年間で8.39平米・0.8%縮小している。年率では0.25平米ずつ縮小したことになる。
一方、マンションの広さのピークは2001年度の94.73平米であり、2023年度は69.22平米であった。22年間で25.51平米・26.9%も狭くなっている。年率では1.16平米ずつ縮小していることになる。
戸建ての床面積の縮小は緩やかであるのに対し、マンションは約20年間で大きく縮小したと言えるだろう。
直近10年間の傾向では、戸建ては2020年度から4年連続で縮小し、床面積が100平米を割り込む可能性も出てきている。マンションも縮小が顕著であり、2020年度と2023年度のように70平米を割り込む年も出てきた。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
都道府県別にランキング化
さて、ここまでは床面積の傾向を全国平均で見てきたが、次は都道府県別の広さを上位・下位の各10位まで取り上げる。住宅の床面積ひとつをとっても、地域差は大きいものだ。
新設住宅の1戸当たり床面積では、最も広いのは群馬県、最も狭いのは東京都であった。その差は31.87平米もある。
下位には、東京都のほか、大阪府、神奈川県など大都市を抱える地域が入っている。加えて、長崎県、岩手県、鹿児島県、熊本県など少子高齢化が進む人口減少県もランクインしている(表1)。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
持家のうち、上位には福井県、富山県、石川県がランクイン。意外に思う方もいるかもしれないが、大阪府と東京都も上位に入っている(表2)。
一方、下位には沖縄県を除き、高齢化が進む人口減少県が多く含まれていた。持家において、最も広い福井県と最も狭い鹿児島県では、17.20平米の差があった。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
貸家の上位には、沖縄県や高知県がランクインしている。これらの県は、持家のランキングでは下位に入っていた。
下位には、東京都こそ入っていないが、大阪府、宮城県、千葉県、神奈川県など大都市を抱える地域が含まれている。長崎県、鹿児島県、岩手県なども挙がった。最も広い沖縄県と最も狭い長崎県では、18.57平米の差があった(表3)。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
分譲住宅では、上位と下位で大きく差が開く結果に。上位には、長野県、富山県、山梨県などが入っており、下位には東京都、大阪府、京都府、神奈川県など大都市を抱える地域がランクインしている(表4)。
最も広い長野県と最も狭い東京都では、33.50平米もの差があった。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
最後に、分譲新設住宅に分類される戸建て(建売)とマンションの都道府県別広さを見ていこう。
戸建ての床面積では、上位、下位ともに分譲住宅全体のランキングとほぼ同じ地域が並んだ。最も広いのは長野県、最も狭いのは東京都で、差は17.72平米である(表5)。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
分譲マンションでは、戸建てと同様に長野県が100.36平米と最も広く、次いで秋田県、熊本県という結果だった。一方、最も狭かったのは山梨県であり、東京都や大阪府などの大都市を抑えてランクイン。山梨県は44.42平米と、長野県の半分にも満たない数字を出した(表6)。
2023年度分「建築着工統計調査報告」をもとに著者作成
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ここまで述べたように、住宅の広さは持家、貸家、分譲一戸建て、分譲マンションなど物件の種類ごとに異なる傾向がある。地域によっても差が大きい。
原因の1つが、地価の違いだろう。地価が高い都市部で住宅を建てる場合、限られた土地に対して効率的に居住空間を設ける必要があるため、床面積は抑えられがちになる。
加えて、少子高齢化の状況によって居住者が求める広さが異なることも要因だ。高齢者であれば部屋数の多い家を望むとは考えにくかったり、単身者の多い地域では部屋数や広さが自然と限定されたりするだろう。
地域の特性を考慮してニーズを見極めることは、不動産投資を行う上でも重要だ。さまざまな情報に触れ、適切な投資判断をしてほしい。
(鷲尾香一)