ついに始まったスマホの”高速大容量通信時代”、覇権を握るのはどのキャリアか

携帯電話キャリア各社が、3G 通信網のひっ迫状態解消のカギとして注力する次世代高速通信。先行するKDDI の「WiMAX(ワイマックス)」、NTT ドコモの「Xi(クロッシィ)」に続き、12月16日にソフトバンクモバイルから同社の次世代高速通信「ULTRA SPEED」に対応する端末「AQUOS PHONE 102SH」が発売された。3社の次世代高速通信対応スマートフォンが出揃ったことで、今後サービス競争が加熱することが予想される。
3社の次世代高速通信対応スマホが出揃ったことで、競争激化か?
3社の次世代高速通信対応スマホが出揃ったことで、競争激化か?
● ”高速大容量通信時代”の到来でスマホの使い方が変わる
それでは、このような次世代高速通信のユーザーにとっての恩恵とは何なのだろうか。最も大きなポイントは、『高速大容量通信』だ。現在の 3G 回線の理論上の最高速が7.2Mbps 程度だったのに対して、次世代高速通信は20Mbps を超える大容量通信が可能。今まではダウンロードがもどかしかった YouTube 動画の再生や、大容量のリッチコンテンツの送受信が可能になることで、スマートフォンの楽しみ方の幅が更に広がるだろう。
また、最近対応端末が増えてきた『テザリング』にも注目だ。『テザリング』はスマートフォンが Wi-Fi ルーターの役割をすることで、他のモバイル機器(パソコンやゲーム機など)が簡単にネット接続できるようになる機能だ。従来はスマートフォンやゲーム機の Wi-Fi 接続のためにモバイル Wi-Fi ルーターを持ち歩く人が多かったが、『テザリング』によってスマートフォン1台で全てをまかなえるようになる。そして、スマートフォンが次世代高速通信につながることで、『テザリング』で発信される電波もより安定することになる。3G 回線を利用したモバイル Wi-Fi ルーターに不満を感じていた人にとっては、待ち望まれていた機能だと言えよう。
このように、次世代高速通信は従来の3G 回線の通信速度に対するストレスを一気に解消し、より様々な目的でスマートフォンを活用するためのインフラとして、注目されているのだ。
● 異なる規格、異なる通信速度、シェア拡大のカギはカバーエリアの拡大
この次世代高速通信をめぐる3社のシェア争いは、今まさに始まったといえる状況だ。というのも、次世代高速通信をめぐっては3社とも開始時期やサービスの体系、通信規格が大きく異なり、今回ソフトバンクが対応スマートフォンを初めてリリースしたことでやっと3社を並べてみることができるようになったからなのだ。
3社を比べると、最も早くから次世代高速通信に取り組んできたのが、KDDI だ。傘下の UQ コミュニケーションズが展開している『UQ WiMAX』は、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)規格を採用して2009年7月に商用利用を開始。KDDI からは3社に先駆けて2011年4月に WiMAX による高速通信やテザリングに対応した『HTC EVO WiMAX ISW11HT』をリリース、『+WiMAX』というブランドで現在までに対応機種を増やしている。いわば次世代高速通信のパイオニア的な存在だ。通信速度の理論値は下り40.0Mbps、上り15.4Mbps となっている。
WiMAX 搭載スマートフォンの最新機種『HTC EVO 3D ISW12HT』
WiMAX 搭載スマートフォンの最新機種『HTC EVO 3D ISW12HT』
『WiMAX』の一番の強みは、そのカバーエリアだ。UQ コミュニケーションズの発表によると、全国の政令指定都市・特別区の実人口カバー率は95%を超え、さらに東名阪主要都市では99%以上をカバーするという。このカバーエリアの広さにより、対応スマートフォンが『WiMAX』のメリットを発揮できることにより、高いユーザー満足度を提供していくものと思われる。
『WiMAX』を追いかける急先鋒が、NTT ドコモが2010年12月にサービスインした『Xi(クロッシィ)』だ。Xi は次世代通信規格のひとつ「LTE」を採用しており、上り37.5Mbps(一部屋内で最大75Mbps)、下り12.5Mbps と3社のなかで最も理論上の最大通信速度が速い。2011年冬-2012年春モデルより『GALAXY SII LTE』など対応するスマートフォンを続々とリリースしている。
Xi を搭載した『GALAXY S II LTE SC-03D』
Xi を搭載した『GALAXY S II LTE SC-03D』
しかし、課題はカバーエリアの拡大だ。Xi は現在、札幌・仙台・東京・名古屋・金沢・大阪・広島・高松・福岡の9都市でのみ展開しており、Xi の最大の武器である”下り最大75Mbps”も室内に限られかつ対応する施設や建物もまだ十分ではない。ドコモでは2011年度中にカバーエリアを全国の県庁所在地級都市を拡大するとしているが、従来の 3G 回線の顧客を最も多く持つドコモが、加速するスマートフォンシフトの中で Xi のカバーエリアの拡大を急がなければ、魅力的な新機種を発売しても”宝の持ち腐れ”になってしまい、次世代高速通信へのユーザーの移行を妨げる結果になってしまうだろう。
そして、最後発となるソフトバンクモバイルの『ULTRA SPEED』は全くの未知数だ。「DC-HSDPA」「HSPA+」を採用し下りは最大21Mbps から42Mbps、上りは最大5.7Mbps。カバーエリアは全国の政令指定都市、県庁所在地としているが、実際の通信品質についてはまだ不透明で、今後明らかになっていくだろう。また、同社では既に新たな高速通信規格『Softbank 4G』を2012年に開始すると発表しているが、両者をどのようなポジショニングで展開するのか、それぞれの通信品質などまだまだ不透明な部分も多く、全貌が明らかになるのは来春以降になるだろう。
● 専用プラン、従来通り、追加料金・・・料金体系も3社で異なる考え方
次世代高速通信に対応したスマートフォンの通信料金やサービス提供条件についても、三社三様だ。ドコモは専用のパケット定額プランを用意しており、ドコモの『Xi パケ・ホーダイ フラット』は月額5,985円(現在キャンペーン価格で4,410円)。現在は特に利用制限などは運用されていないが、2012年9月以降は利用できる通信量は月間7GB までに制限され、それ以降は追加料金を払うか通信量の大幅な制限(最大128kbps)を受けることになる。一方、ソフトバンクは従来のパケット定額プラン(パケットし放題フラット for スマートフォン、月額5,460円)をそのまま適用する。
そして、一番ユニークな料金体系なのは KDDI で、こちらは従来のパケット定額プランに月額525円(現在キャンペーン価格で0円)で WiMAX を利用でき、WiMAX を一切利用しなかった月は課金さえされないという仕組みになっている。例えば、WiMAX 対応端末を買ってみたものの、まだ自宅がカバーエリアに入っていない場合などは、カバーエリアに入るまで一切追加料金を払う必要がなく、また出かけた先のカバーエリアで WiMAX を使いたいときにだけスマートフォンからボタンひとつで機能をアクティベーションすれば、すぐに高速通信を利用することができるようになる。先駆者の WiMAX でさえカバーエリアは今後拡大の余地があり、「使える人、使えない人」がいる状況だからこそ、このような柔軟な料金体系は利用者の状況を考えられていると言えよう。
このように、3社が異なる規格、異なるサービス体系で進めている次世代高速通信サービス。カバーエリアの拡大やユーザーニーズに合わせた料金プラン、割引サービスの整備など利用者拡大への課題は少なくないが、スマートフォン利用者が急速に拡大しパケット通信量が増加し続ける中、各社の次世代高速通信サービスに対する取り組みは急務だと言えるだろう。

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