ついにPayPayで給与受け取りが可能に!社員が注意すべきポイントを社労士が解説

2023年4月に「デジタル給与払い」が解禁されてから、1年4カ月もかかって、資金移動業者第1号にPayPayが決まりました。なぜ、これほど時間がかかってしまったのでしょうか?その原因と、デジタル給与を導入する際に企業や従業員が気を付けなければならないポイント、導入のメリット・デメリットを解説します。(特定社会保険労務士 薄井崇仁)

解禁から約1年4カ月もかかってPayPayで給与の支払い・受け取りが可能に

 2023年春に「デジタル給与払い」が解禁されてから約1年4カ月、ようやく初の資金移動業者にPayPayが指定されました。解禁当初は、資金移動業者が厚生労働省に指定を申請してから3カ月~数カ月で審査され、順次運用がスタートされると見込まれていました。しかし、大幅に時期がずれ込み、今年8月にようやくPayPayが事業者に決まりました。なぜ、これほど時間がかかったのでしょうか?

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 そもそもデジタル給与払いが画期的な点は、企業が従業員に給与を支払う際、決済アプリなどに直接給与を振り込む選択肢が追加されたことにあります。デジタルマネーで給与を受け取った従業員は、そのままキャッシュレス決済で買い物や送金が可能になります。

 さて、大幅に運用スタートがずれ込んだ理由は、「労働者の資金保全と適切な賃金支払いの観点」から、厚労省が厳格な審査を行っていたからだと考えられます。資金移動業者の指定要件としては、万が一指定業者が破綻した場合、保証機関が資金を確保して弁済できる体制が整っているか。不正取引時の過失の有無や補償対応が適切にできるか、などです。指定申請後も細かな修正・調整が加えられたため、指定認定まで1年4カ月もの時間を要してしまったようです。

 現在、PayPay以外にも3社が指定申請していますが、それらの審査が終わる時期は未定です。また、デジタル給与を実際に利用するには企業と従業員、双方の課題もクリアしなければなりません。実は、この点がかなり複雑です。そこで今回は、デジタル給与で気を付けなければならないポイントと、導入のメリット・デメリットを徹底解説します。

企業がデジタル給与を導入するには労使協定を結ぶことから始まる

 まず、給与のデジタル払いを導入するにあたっては、企業は従業員の代表と話し合い、労使協定を締結する必要があります。さらに、デジタル払いを希望する従業員から個別の同意を得る必要もあります。そのため、希望しない従業員に対して強制することはできません。

 一方で、従業員がデジタル払いを希望していたとしても、当の企業が導入していなければ、デジタルマネーでの受け取りはできません。

 ある外資系企業では23年4月の解禁時に、全従業員に対し、給与のデジタル払いについてのアンケート調査を実施しました。その結果、約7割の従業員が「導入を希望する」と回答。理由として、「日常の買い物や公共料金の支払いにキャッシュレス決済を利用しているため便利になる」といったものや、外国籍の従業員が多い中、「外国人は銀行口座の開設に制約があり、とても困っていたので、デジタルマネーで給与を受け取れるのはすごくいい」といった声が寄せられました。

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 こうして同社では、給与のデジタル払い導入の方針を決定しました。従業員との話し合いを行ない、導入に向けた準備を進めています。

 なお、9月からソフトバンクグループ各社の従業員を対象にPayPayで給与のデジタル払いが始まります。そして年内には、PayPayの全ユーザーに給与のデジタル払いが可能になる予定です。

 8月末時点はまだソフトバンクグループだけですが、導入企業の事例が広く知られれば、デジタル払いの波に乗る会社が急増する可能性は大いにあります。

従業員のメリットは結構多い?ポイント還元の機会が増える!

 次に、主に従業員向けのメリットや気を付けなければならないポイントをそれぞれ解説します。

現金化の手数料、毎月1回は無料
 デジタル払いで支給された給与は、指定資金移動業者からATMや指定した銀行口座へ払い出し、現金化することが可能です。しかもその際にかかる手数料について、毎月1回は、無料で払い出すことができます。PayPayマネー(給与)をPayPay銀行へ送金する場合には制限なく無料となります。

ポイント還元の機会が増える
 給与のデジタル払いにより、キャッシュレス決済を活用する機会が増えるでしょう。それによりポイ活(ポイント活動)も促進され、これまで以上にポイント還元を受けることができるはずです。

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デジタルマネーは日常利用分だけ!
 デジタル払いは、預金を目的としていないため、キャッシュレス決済などで日常利用する必要な分だけの受取額に設定することを国は推奨しています。

 また、資金移動業者口座の残高上限額は100 万円以下に設定されています。PayPayの場合、給与として受け取ることができるPayPayマネーアカウント(給与受取)の口座残高上限額は、20万円です。もし、上限を超えてしまう場合には、あらかじめ指定している銀行口座に送金されます。

 例えば、PayPayマネーアカウントの残高が5万円あり、デジタル払いで20万円の給与が支給された場合、上限額の20万円を超える5万円が指定した銀行口座に自動送金されます。要するに、上限額を超えないように、普段利用する分だけをデジタル払いで受け取り、残りは銀行口座で受け取るといったハイブリッドな方法を検討するべきでしょう。

安全対策は万全か?
 デジタル給与払いで懸念されているのが、安全対策です。もし、受け取っていた口座の資金移動業者が破綻したら、どうなるのでしょうか?

 万が一そうした事態に陥っても、資金移動業者と保証委託契約をしている保証機関から口座の残高へ迅速に弁済されることになっています。

 また、口座の乗っ取りや不正なアクセスなどにより受け取り口座の残高の出金等があった場合で、従業員に過失が無い場合には全額が補償されることになります。

デジタル給与導入のメリット・デメリット企業の負担は増える…?

 最後に、デジタル給与導入のメリット・デメリットについて総括しましょう。企業にとっては、先に述べたように従業員との協議や労使協定の締結、希望者への個別同意などに加えて以下のような手間や費用負担が増えそうです。

・運用ルールの構築
・システムの導入
・支払方法の管理
・就業規則、給与規則等の改定
・雇用契約書や労働条件通知書の記載事項の変更

 これだけ面倒もかかるデジタル給与の導入ですが、果たして普及するのでしょうか? 普及に向けて重要なカギとなるのは、人事基幹システムとの連携により企業側の負担を減らし、利便性を高めることでしょう。

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 一例として、オービックビジネスコンサルタントとPayPayが、人事基幹システムの給与のデジタル払いに関する機能連携を発表しています。これにより、従業員が給与をPayPayで受け取る際、口座番号の入力ミスが減り、企業のバックオフィス業務がより簡略化されるとのことです。

 日本ではキャッシュレス決済や送金サービスの多様化が進んでいるものの、各国と比較するとその普及率は4割程度にとどまっています。国は、この普及率を8割に上げることを目指しており、給与のデジタル払いはその一環です。

 社労士の筆者が知るところでは、数年前からクラウドサービスを導入し、交通費や交際費、備品の購入などの経費精算にデジタル払いを採用している企業もありました。ただし、給与については労働基準法の賃金払いの原則により規制されており、デジタルマネーで支払うことができませんでした。

 昭和の給料袋を手渡ししていた時代から、平成では銀行口座への振り込みが主流となりました。そして、令和にデジタル払いが解禁された流れです。きっとこの先10年後には、給与のデジタル払いが一般的になっているのではないでしょうか。

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