どの不動産会社のマンションが値上がりするのか?

 マンションを買うときには、将来の値上がりを期待したいものだが、その際の指標のひとつになるのが、どの不動産会社が分譲している物件かという点ではないだろうか。売り主によって、値付けの考え方は違っているので、結果的に購入後の値上がり率が違ってくることも多い。では、どんな不動産会社の物件を選べばいいのだろうか――。

強気の値付けをする大手のマンションブランド

 そもそもマンションの資産価値、竣工後の値上がり率は何によって決まるのだろうか。

 マンションは何より立地や周辺環境が重要だが、そのほか、建物の基本性能や管理サービス、外観デザインなども資産価値や値上がり率を左右する要素といえる。そして、どの不動産会社が分譲したマンションかという点も大きな比重を占めている。

 例えば、三井不動産レジデンシャルの「パークマンション」「パークタワー」「パークホームズ」、三菱地所レジデンスの「ザ・パークハウスグラン」「ザ・パークハウス」、東急不動産の「ブランズ」、野村不動産の「プラウド」など、大手のマンションブランドは多くの人にとって憧れの的であり、その分、価格が中堅以下の不動産会社の物件に比べるとやや高く設定されていることが多い。

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 大手の強みで、多少高くしても売れるという自信があるのだろう。いわば“ブランド料”ともいえる。

 大手のブランド名を冠したマンションであれば、それだけで消費者の多くは安心し、周辺のマンション相場より高くても購入するものだ。事実、【表1】【表2】に示した関東圏・関西圏の売り主別「中古マンションの値上がり率(騰落率)ランキング」でも、大手不動産会社の多くが上位にランクされている。

 大手の物件なら、将来の値上がりもある程度期待できるから当然の結果だろう。だからこそ、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、東急不動産、野村不動産などの大手が軒並み上位に並んでいる。

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完成在庫もいとわない住友不動産の高価格設定

 しかし、例外もある。ひとつは住友不動産の存在だ。旧財閥系の大手でありながら、関東ではかろうじて値上がり率ランキングの10位に入っているものの、関西ではランキング圏外になっている。なぜかというと、他の大手とは営業戦略で一線を画しているからだ。

 大手の多くは、完成までに売れる値付けを狙ってくるのに対し、住友不動産は完成までに売り切ることを前提とせず、完成してからも実物住戸をモデルルームとして販売を継続。完成後も1年、2年と年月をかけて売ればいいという考え方で、その分、当初の価格設定を高くしている。

 他社の多くは完成間近になると、完成在庫の売れ残りを避けるため、それなりの値引きを行うのが慣例になっているが、住友不動産は絶対に値引きしないことでも知られている。値引きするよりは、時間をかけて売り切ったほうが得策という考え方だ。相場より高く設定される物件が多いので、竣工後の値上がり率が高くなりにくい。そのため、ランキングの上位に入ってこないわけだ。

 そんな住友不動産のマンションは「シティハウス」「シティタワー」などのシティブランドで知られ、2019年まで6年連続事業主別発売戸数のトップを占めてきた。メガマンションが得意で、カーテンウォール(総ガラス張りの外壁)など、スタイリッシュな外観デザインが多く、一目で住友のマンションと分かる物件も少なくない。多少高くても、富裕層が納得して購入する。そんなマンションが多いといわれている。

 不動産会社の経営という点からいえば、時間がかかっても値引きしないで売り切ることができれば、利益率の改善につながる。そのため、大手のなかで完成までに売り切ることを前提とした値付けを行ってきた会社のなかにも、最近は住友不動産のように完成在庫もいとわないとする会社が登場している。

 だが、これは消費者からみればマイナスかもしれない。完成前の値引き交渉ができないばかりか、売れ残った完成在庫の物件も高めの価格設定が続くからだ。しかも、そもそもの価格が高いため、竣工後の値上がりも期待しにくい。

割安感のある物件が多い日鉄興和不動産、阪急阪神不動産

 そして、値上がり率ランキングで最も意外なのは、関東圏、関西圏ともにトップに挙がっているのが、大手というよりは中堅不動産会社の日鉄興和不動産であり、阪急阪神不動産という点だ。

 日鉄興和不動産は、最近、俳優の横浜流星をコマーシャルに起用。積極的な宣伝活動も奏功して、「リビオ」ブランドのマンションがジワジワと浸透してきたが、阪急阪神不動産のマンションブランド名を即答できる人がどれほどいるだろうか──。正解は「ジオ」ブランドだ。

 なぜ、この両社が値上がり率トップになっているのだろうか。それは、前出の住友不動産の戦略と対局にあるからである。

 日鉄興和不動産は、「リビオ」ブランドのマンションとして、都心やその周辺の比較的人気の高いエリアで物件を供給することが多く、基本性能や設備の充実度の割にはリーズナブルな価格設定で、割安感のある物件が多いといわれている。その分、買ってからの値上がりも期待しやすくなる。

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 同社のマンションの特徴は、(1)顧客に寄り添う商品であること(2)創意工夫された商品であること(3)先進的な商品であること──をコンセプトとしており、マンション内に無人ストア「Store600」を設置したり、モデルルームで客を待つだけではなく、移動車両内で接客をする「迎えにきてくれるマンションサロン」を運行したりするなど、他社にはない戦略を打ち出している。

 都心やその周辺エリアでのコンパクトタイプのマンションを得意とし、シングルやディンクスが買いやすい価格帯の物件が多く、坪単価をみても周辺相場より数パーセント程度安いのではないかといわれている。また、住友不動産と違って、当初の価格設定が相場より低いので、竣工後の値上がり余地も大きい。

 そうした日鉄興和不動産の戦略はすっかり定着し、値上がり率ランキングのトップが、2021年まで6年間続いている。

 関西圏トップの阪急阪神不動産にもほぼ同様のことが当てはまる。社名からもわかるように、電鉄系の不動産会社であり、関西では人気の高い阪急電鉄の路線周辺に安く土地を取得・保有して、リーズナブルナな価格帯のマンションを販売してきた。それが、竣工後の値上がり率につながり、関西圏での値上がり率トップが5年続いている。

 阪急阪神不動産の母体のひとつである阪急電鉄、阪急不動産グループは百貨店やテーマパークの開発と住宅開発を一体に進めることで、「阪急」ブランドのイメージを高めてきた。マンションにおいても、「ジオ」ブランドは関西地方では、高級イメージのあるブランドとして定着している。それが値上がり率の高さにつながっているのではないだろうか。

値上がり率トップの座をいつまで維持できるのか

 しかし、注目しておきたいのは、2022年に入って日鉄興和不動産は高額物件にシフトする戦略を打ち出している点だ。

 同社のマンションブランドの中心はファミリー向けの「リビオ」ブランドだが、それとは別にハイグレードマンションブランドとして「グランリビオ」シリーズも手がけてきた。

 これまで販売の主軸も「リビオ」だったが、2022年秋には「リビオ」よりグレードが高く、価格設定も高い「グランリビオ」に徐々にシフトする方針を打ち出している。現在、「グランリビオ浜田山」(東京都杉並区)、「グランリビオ表参道」(東京都渋谷区)、「グランリビオ市谷佐土原」(東京都新宿区)を売り出しており、2023年以降も4物件の販売を計画している。

「グランリビオ浜田山」(公式サイトより)

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 近年のマンション価格の上昇と、地価や建築費の高騰によって、これまでのようなリーズナブルな価格帯では分譲が難しくなっているためといわれている。当然、当初の価格設定が高くなり、2022年10月現在、価格は未定ながら、たとえば「グランリビオ浜田山」は9000万円台から1億円台といわれており、「リビオ」シリーズに比べてかなり高い価格設定になるとみられている。

「グランリビオ浜田山」のモデルルーム(筆者撮影)

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 そうなると、当然、竣工後の値上がり率は低くなってしまう可能性があり、売り主別の値上がり率ランキングのトップを維持するのも難しくなるかもしれない。

 一般的には大手のマンションほど資産価値が高く、竣工後の値上がりも期待できるとはいえるだろうが、中堅クラスの不動産会社のなかにも、値上がり率の高い会社はある。物件の選択にあたっては、不動産会社の規模や名前だけにとらわれるのではなく、物件の内容もしっかり見極めて総合的に判断する必要がありそうだ。

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