なぜ、損している人はもっと損する運命なのか

これを先の原野商法にあてはめれば、過去に土地を高値で買わされて、損をしている状態である。その損失を取り戻すため、相手が面識のない業者で、信ぴょう性を確認できないリスクある提案であっても、その話を受け入れて、お金を払ってしまうのだ。

よく過去に詐欺や悪質商法の被害に遭った人は、再び、儲け話を持ち掛けられると、その話に乗ってしまい、さらに金を騙し取られてしまいがちといわれる。これも同じで、以前に失ったお金を取り戻そうとして、リスキーな選択してしまうためである。

■客は「利する」より「損する」に敏感

ここでいえるのは、人は「利する」ことよりも、「損をする」ことに、より敏感に反応するということだ。

2人の営業マンがいて、ある工場の経営者に最新機械の売り込みをしたとする。

1人はそれを導入することで、「生産性が上がり、いかに収益が上がるか」という、メリットのある話を展開する。だが、経営者は借金までして高額な機械を購入するまでの決断にまでは至らない。

それに対して、もう1人の営業マンは、機械の老朽化に目をつけて、次のような話を展開する。

「もしこのままこの機械を使って故障し、万が一、作業がストップしたら、納期までに商品が納められず、多額の損失を抱えることになりかねませんよ」

利益を得られる話ばかりしていても、相手の心には響かない。それよりも、いかに損をするかを話すことで、相手は話に興味を持つようになる。ビジネス において、相手の状況次第で「○○すると、得をします」よりも、「○○すると、損をする」という言葉の方が相手の心に響くものだ。

そして、「メンテナンスに莫大なお金をかけるよりも、ここで新しい機械を導入して生産性をあげた方が、間違いなく売り上げがあがるはずです」といえば、契約にグッと近づけることだろう。

営業マンのなかには、顧客から「当社は借金をしているから、新しいもの(新商品)にお金を出せない」と言われると、その言葉を真に受けてすぐにあき らめる人がよくいるが、それは早計である。先の理論からいえば、新たな機械を導入するというリスクを伴う意志決定は、置かれた状況に左右される。要する に、相手が借金をして、経営が厳しい状況であればこそ、「ものを買う」可能性も十分にあるのだ。

「利する」と「損する」をうまくコラボさせることで、さらに相手の購買意欲を引き出すことができる。

最近、通販サイトや旅行サイトを利用すると、知らぬ間に1000円分のポイントがついていることがある。だが、そのポイントが利用できる期間は1カ 月ほどで、それを過ぎると、失効してしまう。私を含めた、多くの利用者は1000円を儲けたとの思いから、「使わなければ、もったいない」という気持ちが 生れて、特に買う予定もないのに、商品などを購入してしまう。

これはまさに、「得をした」という気持ちに、有効期限を決めることで、「損をしてしまう」という心理的効果をまじえたものであろう。この手法は、ビジネスの様々な場に生かされているのである。

(ルポライター 多田文明=文)

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