なぜ、日本の報道関係者はウソを平気でつくのか?

去る11月6日に行われたアメリカの中間選挙を受け、日本のメディアはこぞって「大統領の公約の実現が一層厳しくなり、政権運営が難しくなる」と報じました。これを「フェイクニュースだ」と断じるのは、『武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』』の著者、武田中部大学教授。日本の報道関係者が「フェイク」に走る理由について、武田先生が持論を展開しています。

ねじれで「大統領の公約の実現、政権運営が難しく」は嘘

先日、アメリカの中間選挙が行われ、多くのフェイクニュースが流れました。そこで、以前からよく質問を受ける「フェイクニュースの見分け方」について、整理をしたいと思います。

第一回は、「トランプ大統領のもとで行われた2018年(今年)の中間選挙で、上院は共和党、下院は民主党と『ねじれ』の結果が得られた」というニュースが日本のテレビ、新聞で流れたことについて解説をします。 たとえば、日本の最大のメディアは選挙結果に対して、

「上院はトランプ大統領の与党・共和党が多数派を維持する一方で、下院は野党・民主党が多数派を奪還することになりました。上院と下院で多数派が異なる『ねじれ』の状態が続き、トランプ大統領の公約の実現が一層厳しくなるとみられ、難しい政権運営を迫られそうです」

と報じています。(この文章はある報道からとったものですが、著作権法によると、著作権が及ぶのは「思想、感情に基づいて創造されたもので表現されたもの」となっている。この記事は事実を示したものだから著作権がないものと判断したので、そのまま引用した。また、特に引用元をしめす必要がないので割愛した) この報道から、読んだ人は、

  1. 上院と下院の多数派が異なる「ねじれ」の状態は珍しい
  2. それによって大統領の公約の実現、政権運営が難しくなる

と思うでしょう。では事実はどうでしょうか? アメリカの大統領は一期4年で、選挙は2年ごとに行われます。だから標準的には2期務める大統領は4回の選挙を経験することになります。

ニクソン大統領が50年前に大統領選挙に勝ってから、2018年の今回の中間選挙まで26回の選挙がありましたが、大統領と議会の多数派の政党が違ったり、上院と下院の多数派政党が違うという「ねじれ」がどの程度あったかというと、わずか9回は「ねじれなし」でしたが、17回が「ねじれ」です。つまり、ほぼ3回に2回がねじれ状態だったことがわかります。

日本では自民党が長く政権を取っていましたし、衆議院の多数派が首相を出すので、基本的に「ねじれ」が生じにくい制度ですが、アメリカでは大統領選挙と議会選挙が独立(行政権と立法権を別に選ぶ)なので、ねじれは普通に発生することがわかります。

それでは次に、「ねじれ」が生じると大統領の政策が実施しにくいかというと、ニクソン、レーガン、クリントンなどの有名で政策も多く実施されたといわれる大統領の時はいずれもほとんどすべて「ねじれ」状態でした。ねじれていなかったのは、あまり評判の良くなかったカーター大統領の時と、クリントンとオバマの一期目(4分の1)だけです。つまりアメリカでは「ねじれ」と「政策の実施」とはほぼ無関係であることがわかります。

報道関係者はなぜつきたくない嘘をつくのか?

アメリカの大統領と議会が多くの場合「ねじれ」ていること、それによっては大統領の執務にさほど影響を及ぼしていないことは、日本の主要メディア、記者、政治評論家などはよく知っていることです。知っていて「ねじれは大変だ」とニュース原稿を書き、解説をするのですから、それには意図があるのです。人間はだれしも「嘘はつきたくない」と思っているのですから、フェイクニュースを流したり解説したりするときにちょっとは迷うと思うのですが、それでもフェイクするのです。

報道に関係する人たちが、なぜフェイクなどするのでしょうか?それには二つの原因があります。一つは、日本では「人と同じことを言わないとバッシングを受ける」という文化があります。中間選挙が判明した直後、誰かが「ねじれ」と言ったら、他の人はそれに右へ倣えするということです。そして第二は「事実と違っていても、大袈裟に言うとか不安をあおった方が儲かる」という原則があるからです。台風でも大雨でも大袈裟に言うほど視聴率が上がるのは事実です。

でも、こんなことをしていたら徐々にメディアも信用を失うのは間違いありません。

事実、ニューヨークの株価は「ねじれ」の結果がでた時、大幅に値を上げました。もしアメリカ人が「ねじれは大変だ」と思ったら株価は上がらないでしょう。大統領、上院、下院が同じ党で占められているより、一部ねじれている方が政治がまともに進むことはよくわかっているからです。

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